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第1章〔地球編〕

03.キアトの能力

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「下がってろ」

キアトがまゆとひろなに自分の後ろに行くように、右手で合図した。こんな時になんだけど、まゆは香川まゆだよ。

「なんで、活動しなくなったWEGSウェグスが今、私達の前で動いているの?」

まゆの大親友の神代ひろなが動揺を見せる。まゆだって驚いているよ。だって、生き物で言ったらもう死んでいるんだよ。
それになんで急に動き始めたの?

「旧式のWEGS反応を感じるよ」

「ヘブンズガールの言うとおりだ。おラァの人工知能からも合計丁度五十のWEGSが活動を再開した」

まゆの相棒、ヘブンズガールとひろなの相棒のバージンロードが急に動き始めたWEGS達を分析した。

「よく見たらあちこちと破損箇所が見えるし、動きは鈍いね」

「例えるならゾンビだな」

ヘブンズガールとバージンロードが廻りのWEGS達の動きを観察しながら発言する。

「そんなふうに言うんじゃねぇ!バカ馬ども!」

突然、キアトが天馬ペガサスモデルのヘブンズガール一角白馬ユニコーンモデルのバージンロードに向かって怒った。

「誰がバカ馬だ!キアトキアホ!」「そうだ!キアトのおたんこなす!」

「うるせぇぞ!下らねぇやり取りしてる間にアイツらが動き始めたぞ」

キアトは気を引き締め、廻りを見渡す。バージンロードはひろなを守るように、ヘブンズガールもまゆを守るように身構えた。

「別に襲ってくると決まった訳じゃねぇだろ?身構えんじゃねぇよ」

キアトはまゆとひろなのWEGSにそう言うと、無防備に歩きはじめた。

「ちょっと、キアト……」

ひろなが不安な表情でキアトに声をかける。まゆだって不安だし、怖いんだよ。

五十のWEGSはぎこちない動きでキアトに接近してくる。五十のWEGSはそれぞれ破損箇所が目立っており、五体満足なWEGSは一体もいない。それでいて動くのは、キアトに怒られるかもしれないけど正直、不気味で怖い。

「よっ!喋れるか?お前ら!」

キアトがいきなり五十体のWEGSの誰にでもなく質問した。

確かにそう言われば、五十体のWEGSのどれもが言葉を発してない。喋らないからこの静寂も不気味で怖いんだ。

「喋れないか……」

キアトは寂しそうな表情を見せると、すぐに笑顔をWEGS達に見せた。

「なに、話せなくても大丈夫だ!オレはキアト!なんでか解んねぇけどお前らよく生き返ったな!」

キアトはそう言いながら、一番近くに来たWEGSに触れようと左手を差しのべた。

一番近くにいたWEGSの形態は犬のような形のWEGSで顔が半分無く、中の構造がまる見えで時々火花が飛び散っている。

キアトがそのWEGSに触れようとした瞬間。

「痛っ!」

いきなりキアトは左手を引戻し、苦痛の表情を見せた。見ればキアトの左腕が突然、流血したんだ。

「「キアトー!!」」

まゆとひろなの叫び声が同時にハモった。犬のようなWEGSの右前脚がキアトをいきなり攻撃したのがすぐに解った。

その行動が合図だったように何十体のWEGSが一斉に、キアトに襲いかかりはじめた。

「キアト!」

「ダメだ!まゆ!僕らも危ないよ!」

まゆがキアトの方に近付こうとすると、ヘブンズガールがまゆを止めた。まゆと同じような行動をしようとしたひろなもバージンロードに止まられていた。

「僕らも囲まれてしまったよ」

ヘブンズガールが言うと、まゆとひろな達の廻りに残りのWEGS達がいた。

キアトの姿はWEGS達に覆い被され、安否がわからない。あの光景はまゆがあっちの世界に行き、映画館で観た、人に群がったゾンビそのものにしか見えない。

正直、キアトはもうダメだと思ったまゆは知らないうちに涙を流してたよ。

でも……。

「うりゃぁあああぁぁ!!」

気合いの叫び声が拡がると共に、キアトに襲いかかったWEGS達がいきなり空中へと放り投げられた。

「キアト!!」

ひろながキアトの名前を呼ぶとキアトは左腕を押さえながら立っていた。

「そうか、キアトにはあの能力があったんだ!」

まゆは泣きながらも安堵しながら、キアトは自分の能力を使って自らを守ったんだ。忘れていたよ。

キアトの能力、ズバリ、磁気能力!

元々、鋼鉄がメインのWEGSは大きな磁石のような物。キアトは体内から磁気を自由に操る能力を持っていて、磁気能力を使ってWEGS達を弾き飛ばしたんだ。

キアトは能力を使って鉄屑をボードのようにし、大地の磁力と反発させながら宙に浮くこともできるんだ。

キアトは近くに落ちている鉄板を拾い、それをボード代わりにまゆとひろなの元へと向かってまゆ達を囲むWEGS達を一瞬で弾き飛ばしたよ。余りにも一瞬の出来事でまゆもひろなも呆然としちゃった。

やっぱりキアトはカッコいい!うん。まゆはキアトが大好きでたまらない。

まゆの目がハートになっていると、それに気づいたひろながまゆを見て膨れっ面している。ヤバいヤバい、ひろなに怒られちゃうよ。

「なんでお前ら攻撃してくんだよ!」

キアトが声を大にしながら怒る。

WEGS達がゆっくりとまゆ達に近付いて来る。ピンチには変わりないよね。どうしよう……

「仕方ねぇ……、動きを止める」

そう言うとキアトは両手をいきなり挙げた。その行為と共に、地面の砂が舞い上がり五十体のWEGS達に降り注いだ。

「砂鉄だ。悪いが動きを止めてもらった」

キアトはそう言うと、五十体のWEGS全体の動きが鈍くなり、その場から動けなくなった。

「砂鉄でWEGSの可動箇所を混じらせ動けなくするとは、アンポンタンのキアトにしては考えたね」

ひろながキアトに皮肉ぽく言うと、キアトは一瞬だけひろなを無表情に見つめた。そういえば、ひろなとキアトさっきまでケンカしてたんだった。なんかひろなの顔色が急に変わってく。

「うるせぇブスじゃないでしょ!」

どうやらひろなはキアトの心の声を聞いてしまったようね。

ひろなは人の思うことを感じてしまう読心能力の持ち主なんだ。

それはそうとなんとか危機的状況は回避したみたい。

「なんで急に動き始めたのかが謎だけどな」

バージンロードが金縛りのように動かなくなったWEGSを見回しながら疑問を言った。

キアトとひろなは揉めに揉めている。でも、すぐに揉め事は収まった。その原因は……

「一体だけ……」「……動いている」

キアトの言葉をひろなが継ぎ足す。まゆはキアトとひろなが見つめる先へと振り向いた。

そこには青く輝く、四足歩行型で口から大きな二つの鋼鉄の牙が剥き出しになった虎みたいな体型、他のWEGSと違い五体満足のWEGSが立ち、そしてまゆ達の方へともの凄い勢いで向かって来た。
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