上 下
42 / 43
微笑みの楽園

微笑みの楽園

しおりを挟む
首無し騎士と黒馬の出現からしばらく経過し、その場にいたパラガスやロッツロット、十龍にいたるまで、ミレアと首無し騎士が動かなくなった事に、ようやく気がついた。

「やはり、シャムが原因か…」

パラガスは黒馬を目にし、つぶやいた。

ミレアは黒馬を凝視したまま、金縛りにあったように動かなかった。

「ミレアは、どうしたと言うのだ?」

ロッツロットがパラガスに質問した。

「おそらく、ミレアの精神は崩壊され、今は悪い夢でも見続けている頃でしょう……」

「どういう意味だ?」

パラガスの言葉に、ロッツロットは理解出来なかった。

「その馬がナイトメアに変貌し、ミレアに悪夢を見させているのだろう……」

言ったのは空に浮かぶ巨大な月龍だった。

「突然現れた首無し騎士の背中への一撃で、ミレアは悪夢の世界の住人となった……」

パラガスはミレアの背中を目にした。

血も流れてなければ、傷跡もない。

普通の一撃でなく、悪夢の世界へ誘う一撃……。

「ありがとうアスト、ありがとうシャム……」

パラガスは亡き親友に向かって、涙した。

そしてミレアの身体は念のため、月龍の魔法により、宇宙空間へと召喚した。

悪夢を見続けるミレアが、龍地球に戻る事は二度とないだろう……。

十龍達はそれぞれの住み処へと帰り、命龍ミレアの野望は夜明けとともに終焉した。





数日後、パラガスはドワーフのタンクと、エルフのペテンと共に、ラッドビード王国を離れ、馬車でシーフー山脈を移動していた。

「パラガスさん、これから何処に行くんです?」

二頭の馬を手綱で操るパラガスに、ペテンが質問した。

「…決めてない」

パラガスが意地悪く答えた。

「悪いがタンク、林檎をひとつ取ってくれないか?」

後ろで休むタンクに、パラガスが注文した。

タンクは文句を言いながら、木箱に入った食料の中から林檎を取り、パラガスへと投げた。

タンクの怪我も順調に回復していた。

パラガスは笑顔で、礼を言い、林檎をかじった。






「もっとこの国にいてもいいのだぞ」

ロッツロット国王がパラガスに告げた。

王国の門近くまで、見送りに来た双頭の蜥蜴王の顔がそれぞれ寂しそうだった。

「ありがとうございます、ですがオレはもう宮廷魔術師でなく、冒険者なのです。アールド王国やラッドビード王国のような悲劇を生まない為に、オレは困った人や亜人達の為に生きたいのです」






この龍地球は広大だ。

ミレアに匹敵、否、それ以上に邪悪な者が各地に存在するだろう……。

龍地球には様々な生物が、存在するのだから……





「……ガスさん、どうしたんです?」

ペテンが横から口をだし、パラガスは我に返った。

パラガスの冒険はこれから壮大になるだろう。

パラガスはペテンにだけ、自分が冒険者になり、各地の人助けをする事を言わなかった。

言えば、ペテンの性格からして、逃げ出すのが落ちだからだ。

逃げるなら逃げるで、別に道中うるさくなくて済むのだが、ペテンがいないと困る時がある。

例えば……、

「うわ、もうすぐ大雨が降りますよ!」

パラガスは便利な天気予報士だと思い、タンクに雨具を取るよう頼んだ。




ーーーーーーーーーーーーーーーー





楽園のような広大な花畑に、数多くのアールドの国民がいる。

魂の楽園……。

龍地球の魂が変化した輪廻の楽園……。

その楽園の名は、ボーライ……。

その楽園で皆が、笑顔で雑談していた。

その中に茶色がかかった髪をした青年がいた。

その青年は、男爵セレケや、以前、青年を逮捕した警官と会話をしていた。

その時、花畑の奥から、ユニコーンに跨がった成人女性の姿が見えた。

ユニコーンが近づくと同時に、国民は女性の為に道を開けた。

成人女性の容姿は、長い黒髪に白い法衣を着ていた。

ユニコーンが青年の前に止まる。

「貴方は?」

女性が青年に尋ねた。

「ボクの名は、アスト、キミは……?」

女性は汚れない乙女にしか乗れないユニコーンの上から自分のを、アストに笑顔で名乗った。

その女性が自身の名を言った後に、妙な違和感を感じた。

「どうしました……?」

……と、アスト。

「いえ、なんだか自分の名をいったのが、ずいぶん前に言ったような感覚をうけまして…」

「どれくらい前に感じました?」

アストは女性を見上げ、質問した。

「笑わないで下さいね、大袈裟かもしれませんが、千年ぶりに、自分の名を……、本当の名前を言ったような、そんな感じがしまして……」

その女性の言葉に、アストは屈託のない笑顔をみせると、女性も幸せそうに微笑んだ。












〔DragonEarth〕
    
 
    DEATH OF WITCH


                                                  THE END,

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【北の果てのキトゥルセン】 ~辺境の王子に転生したので、まったり暮らそうと思ったのに、どんどん国が大きくなっていく件について~

次元謄一
ファンタジー
タイトル変更しました→旧タイトル 「デッドエンドキングダム ~十五歳の魔剣使いは辺境から異世界統一を目指します~」 前世の記憶を持って生まれたオスカーは国王の落とし子だった。父の死によって十五歳で北の辺境王国の統治者になったオスカーは、炎を操る魔剣、現代日本の記憶、そしてなぜか生まれながらに持っていた【千里眼】の能力を駆使し、魔物の森や有翼人の国などを攻略していく。国内では水車を利用した温泉システム、再現可能な前世の料理、温室による農業、畜産業の発展、透視能力で地下鉱脈を探したりして文明改革を進めていく。 軍を使って周辺国を併合して、大臣たちと国内を豊かにし、夜はメイド達とムフフな毎日。 しかし、大陸中央では至る所で戦争が起こり、戦火は北までゆっくりと、確実に伸びてきていた。加えて感染するとグールになってしまう魔物も至る所で発生し……!? 雷を操るツンデレ娘魔人、氷を操るクール系女魔人、古代文明の殺戮機械人(女)など、可愛いけど危険な仲間と共に、戦乱の世を駆け抜ける! 登場人物が多いので結構サクサク進みます。気軽に読んで頂ければ幸いです。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

魔族に育てられた聖女と呪われし召喚勇者【完結】

一色孝太郎
ファンタジー
 魔族の薬師グランに育てられた聖女の力を持つ人族の少女ホリーは育ての祖父の遺志を継ぎ、苦しむ人々を救う薬師として生きていくことを決意する。懸命に生きる彼女の周囲には、彼女を慕う人が次々と集まってくる。兄のような幼馴染、イケメンな魔族の王子様、さらには異世界から召喚された勇者まで。やがて世界の運命をも左右する陰謀に巻き込まれた彼女は彼らと力を合わせ、世界を守るべく立ち向かうこととなる。果たして彼女の運命やいかに! そして彼女の周囲で繰り広げられる恋の大騒動の行方は……? ※本作は全 181 話、【完結保証】となります ※カバー画像の著作権は DESIGNALIKIE 様にあります

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

最強の職業は付与魔術師かもしれない

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された5人の勇者。彼等は同じ高校のクラスメイト同士であり、彼等を召喚したのはバルトロス帝国の3代目の国王だった。彼の話によると現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が世界各地に出現し、数多くの人々に被害を与えている事を伝える。そんな魔王軍に対抗するために帝国に代々伝わる召喚魔法によって異世界から勇者になれる素質を持つ人間を呼びだしたらしいが、たった一人だけ巻き込まれて召喚された人間がいた。 召喚された勇者の中でも小柄であり、他の4人には存在するはずの「女神の加護」と呼ばれる恩恵が存在しなかった。他の勇者に巻き込まれて召喚された「一般人」と判断された彼は魔王軍に対抗できないと見下され、召喚を実行したはずの帝国の人間から追い出される。彼は普通の魔術師ではなく、攻撃魔法は覚えられない「付与魔術師」の職業だったため、この職業の人間は他者を支援するような魔法しか覚えられず、強力な魔法を扱えないため、最初から戦力外と判断されてしまった。 しかし、彼は付与魔術師の本当の力を見抜き、付与魔法を極めて独自の戦闘方法を見出す。後に「聖天魔導士」と名付けられる「霧崎レナ」の物語が始まる―― ※今月は毎日10時に投稿します。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...