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アストとミレア

3.

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「明日からユニコーンに乗れなくなるのね…」

ミレアは恥じらいながら、アストに言った。

アストはどう返事を返そうか、戸惑いを隠す事が出来ず、沈黙だけが教会内に残った。

ミレアの言った一角白馬ユニコーンは、汚れなき乙女、つまり処女だけに背中を預ける。

ユニコーンに乗れなくなる…、それは大人の女性への第一歩である。

陽も暮れ、暗闇の中明かりをさすのは、夜空の星々と、龍地球の頭部だったと伝えられる月、そして二人を照らす部屋のランタンのあかりだけだった。

「すまない…」

アストはユニコーンに乗れなくなる妻に謝罪した。

「いえ、そういうつもりでなく…」

ミレアは慌てて否定した。

「…アスト様を心から愛してます、でも…」

「でも?」

アストはミレアの言葉をさえぎった。

ミレアはアストを見つめ、「でも、正直に言って怖いのです」と、答えた。

「誰でも怖いさ…」

アストは戸惑いながら答え、ミレアを見つめる。

「私が私じゃなくなるような…」

ミレアの言葉は、突然にしてふさがった。

アストが唇を奪った為に…。

しかし、重なり合う唇は、すぐに離れた。

教会の扉を叩く何者かにより…。

「誰だっ!」

アストは扉に向かって叫んだ。

「すんません~。一晩だけここに留めてくれませんか?」

玄関口から頼りなさそうな男の声がした。

アストは剣を片手に持ち、扉の前に立つ。

「すまないが、今夜は無理なんだ」

アストは扉の向こうの男に申し訳なく答えた。

「頼みます!嵐が来るんです~」

男の声は今にも泣きだしそうだ。

アストは懸念した。

窓から移る夜空には、雲ひとつない。

それどころか風ひとつない心地良い夜だからだ。

「貴様、賊か?」

アストは怒鳴り、握っていた剣に力をいれた。

「違います、あっしには天気を予知する能力があるんです」

男は訳の解らない言い訳を口にした。

このままではラチがあかない。

賊ならば何人いるか解らないが、おちおち一夜も過ごせない。

ましてやミレアに危険があるやもしれない…。

アストはミレアに奥に隠れるように指示をし、剣を構え直す。

例え何人何十人いようが、アストには負ける気がしなかった。

そしてアストは勢いよく、扉を開けた。

男は勢いよく開けた扉に驚き、腰を抜かした。

男の後ろには、もうひとり男が立っていた。

「エルフ…とドワーフ…?」

アストは二人の男を目にし、つぶやくように言った。

腰を抜かした方が耳長亜人のエルフ。

後ろにいるのが、寸胴短身の髭を無造に伸ばしたドワーフ。

この龍地球には、人間の他に様々な人に似た亜人種が存在する。

エルフもドワーフもその一つだ。

「なんだキミ達は…?」

アストは拍子抜けしたかのように問いた。

「あっしは丘エルフのペテン、こっちのドワーフはタンク」

ペテンと名のったエルフは立ち上がり、答えた。

見れば二人ともみすぼらしい格好をしており、エルフはボロボロのピエロが着てそうな服を、ドワーフもボロけた真鍮の鎧を身に纏っていた。

「何処から来たんだ?」

「西のバル…、いや北のトムクスからです」

アストの問いにペテンは即答した。

明らかに嘘だとわかった。

「申し訳ないが、今日結婚したんだ…、だから今日は泊めれないんだ」

アストは丁重に断った。

訳の解らない連中の相手などしてられない。

アストは扉を閉めようとした。

「嵐が来るんですよ」

ペテンがアストに懇願する。

「雲一つないんだ、嵐なんて来ないよ」

「だからあっしには、天気や地震を予知する能力があるんです」

アストにペテンは叫ぶように言った。

「凄い能力だな、ならまだ来そうにないから王国に行けばいい…、ここからなら一時間もかからないぞ」

「王国は無理なんです」

ペテンは一行に引く気配を見せない。

ドワーフのタンクは黙ったまま、二人のやり取りを見つめている。

「だから、ボクには…」

「アスト様、二人は困ってる様子です。泊めてあげれば…」

アストの言葉を突如、遮った。

ミレアだ。

「えっ?」

アストは振り向き、ミレアを見つめる。

ミレアは、困った人を見捨てるような性格ではない。

アストには、ミレアの性格を誰よりも把握していた。

虫一匹殺せない優しい聖女のような性格を…。

そこにアストは彼女に惹かれたのだから、文句など言えるはずなかった。

今夜はお預けか…。

アストは二人の珍客を呪った。
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