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プロローグ
想定外でした。(青年談
しおりを挟む丁度その時、キールは先ほどの川の行き着く先であり、本来の目的地でもある湖に来ていた。
走ってたどり着いたものの、目標はどこかと見渡す。なかなか大きい湖だ。
そこへダイアウルフの咆哮が水面を揺らす。衝撃波のようにキールへ向けられるが、体に纏わせるように宙に待っているミストによりかき消される。
それは低く喉を鳴らしながら、湖に姿を映す。
怒りで毛も逆立ち、大きいからだがより一層大きく見え、その瞳はまっすぐにキールを捉えており、攻撃のチャンスを狙っている。
「んー…セランと逆がよかったかな?」
キールが持つ水の力は、その二つ名“水癒の魔術師”の通り、治癒をはじめサポート向けの術が多く、あまり攻撃性の物はない。
しかも攻撃性であっても大してダメージを与えるものでもない。
『ガゥッ!』
苦笑するキールの元へ大口を開けて迫るダイアウルフ。
流石群れをまとめる存在、一蹴でかなりの距離をつめてくる。
すれすれでキールは避け、ダイアウルフはすぐ後ろに立っていた樹を砕くように噛み千切った。
その牙の強さにひゅーと唇を鳴らすキール。
大きい身体なのに、似合わない程の素早さだ。
「どうしたもんかなー…」
それにはつい小声で呟く。
また再度突っ込んでくるダイアウルフにキールは樹に飛び乗り、そのまま枝を伝い湖のすぐ淵に着地。
それを追って突っ込んでくるダイアウルフ。
「―水槍!
紡ぎて水の精霊よ、共生の為に力を化さんと命ず、―水面の制裁!」
そう言い放った途端、湖の水面の一部が上昇し、その中から槍のように形を変えた水が一斉にダイアウルフに襲い掛かり、そして貫く。
その上から上昇した水面がまるで津波のように襲い、ダイアウルフを覆い隠す。
大半が水面へ戻る中、ダイアウルフを包むようにとどまる水の塊が宙に浮いている。
水の塊の中必死にもがくダイアウルフだったが、一時を過ぎると力が抜け、それと一緒に地にぐったりと倒れこんだ。
津波が発生する前に樹の上に避難したキールは、その下に横たわったダイアウルフを見下ろした。
見たところ、もう生きてはいないようだ。
軽く音をたて地に足を着ける。
「…そういえばファンゴの残りのやつらは…?」
そもそも、セランと合流した際にダイアウルフの長とファンゴ特大を引き連れてきた理由。
セランを追っていった他に残っていた群れと長。
その群れを川の下流へ攻め、そこで相手をしていたのだが、湖のすぐ近くにファンゴの巣があったらしく、戦闘中に突っ込んでいったやつらにより、何匹か乱入。
そのまま一緒に相手をしていたのだが、ダイアウルフが他の種族と協力できるわけもなく、途中でファンゴを襲い始めてしまったのだ。
すると流石に出てきたのが今度はファンゴの長、という訳なのだ。
湖の周りにはそのときの名残としてところどころにファンゴの無残な残骸。
食べるなら残さず綺麗に食べてほしいものだ。
「おそらくこの辺に…」
首を傾げながら足を進めるキール。向かうのはファンゴが出てきた草むら。
ここから出てきたということは、この先に巣がある筈…と、慎重一歩一歩静かに足を進めるキールだが…
「…………あーあーあー…」
目の前に広がるのはダイアウルフにやられたのであろう、先ほどあったようなファンゴの無残な姿たち。
あちゃーとキールは頭を抱える。
「こっちまでは気が回らなかった…」
捕獲。依頼内容は出来るだけ生きたまま。
惨状は生死以前に、形すら把握できない。僅かにのこった毛皮を手に取ってみるが、状態も悪いうえ、きれいなところを見つけても一匹分にもみたない。
…これは、無理か…
そう思い、また湖の方へ歩き出す。
―と。
どこからか、大きな音…地鳴りに近い、そんな音が耳に入った。
だんだん近づいてくる音。
「…なんだ?」
身構えつつ、ゆっくりと進んで行く。
…………見間違えだろうか。
いや、見間違えであってほしい。
目を凝らした先に、何かが、前方から走ってくる。
そう、
セランが。
「ちくしょーあいつドコまで行ってンだよ!あーもー超重ぇーーーーー!」
セランが生成したロープ代わりのモノで先ほど倒したファンゴを拘束し、そして天翔を使いまくりキールを探して暫く…。
いくら生成したからといっても、一応きちんと具現化になってるもんだから手にマメはできるのである。
しかも天翔つかってるから勢いもつよく、つぶれかけてるから大分痛いようだ。
「キールゥゥゥ!!!」
「…おれ、いまでていかないほうがいいきがするなぁ…」
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