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091-095 今度こそ終わらせよう

093 俺だけ何も知らない

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「すごいな。地下にひとつの国がある……」

 太陽神でも知らなかった。陽の光の当たらない場所だったからな。

 草花などの彩りがない街には、色付き石のアートで飾られている。こうした芸術を暗がりで作業するのは大変そうだ。しかしヘイトは特別な魔力を目に宿すってルリアが言ってたな。……っていうか。もろ「魔力」って言ってんじゃん。何が魔法は使えない、だよ。

 まんまと騙された俺が一回にらんでやろうと振り返る。太陽神は結構遠くを歩いていた。敵陣だということを何とも思わないのか。美術館を巡るみたいに腕を後ろで組み、ゆったりゆったり歩いていた。

「本当にここで何があったんだ……」

 それは俺だけしか気にかけていないことだ。

 ルリアの旦那と話した場所を行き過ぎた。すると突然状況が変わる。大きな割れた音が耳をつんざいたのだ。キーン、とマイクがハウリングした音。俺と太陽神はどちらも両耳を押さえた。

 国がある空洞全域に響いているようだ。地響きまで起こしていた。荒ぶるマイクはやがて、男の声を届けられるまでに落ち着いた。

「あっ、あーっ。てすてす。えー……ただいま照明トラブル発生中。開演が困難なようですぅ」

 男の声は爽やかなものとは真逆。口の開閉でネチャッと謎の音を届ける、年配層を思わせた……いわば、おっさんの声だった。

「心当たりのあるお方は、どうか明かりを消してけれ……じゃなかった。消して下さいませ、だぁ」

 マイクがゴトゴトと低音を撒き散らしている。加えて、電源を切ってから置けだの、スイッチはどこだの、いざこざを辺りに聞かせてからマイクはオフになった。

「レグネグド。暗くしろだと」

 朝日のような明かりは瞬時に消された。そうなると真っ暗闇だ。自分の指先も見ることが出来ない。

 マイクがオンになる。

「ありがとうございます。それでは開演します!!」

 ライトが点灯した。下から上へ伸びるレーザーライト。洞窟の天井に当たって機械的な動きをしている。

 明るい場所は俺たちがいるところとは別らしい。あっちでは音楽も鳴りはじめ、華やかそうだ。

「急に騒がしいな。何やってんだおっさんは」

「ヨーパラじゃないか!!」

 俺と太陽神とで温度差が生まれていた。色々なことを太陽神から聞く前に、ぴゅーっと飛ぶようにして音と光の方へと行ってしまう。

 俺も後から到着する。そこに用意されていた空間は、まさに驚愕の域を越えていた。

 華やかな舞台が整ってあり、大勢の観客が推し色のサイリウムや団扇うちわを振っている。

 何より驚いたのは、揃いの衣装を着た六人のアイドルである。彼らは軽快な足取りで踊っている。若い声で歌っている……。

「君のハートが酔う! 僕の魅力のせい! YO-Say! paradise~☆」

 歌詞だったのか。

「ワっちゃーん!!」

 ファンの声に答えて、星をちりばめたような瞳がウインクすると、本当に星が流れた。バックモニターには彼の顔が大きく映され、もれなく黄色い歓声の海だ。

「おっさんが……。おっさんが……。おっさんじゃない!!!?」

 知った顔に似ている。だが、紛れもないアイドルがそこにいた。
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