36 / 100
036-038 一人では到底辿り着けない
036 俺はキリンを疑えない
しおりを挟む
「実はこっちが本物よ」と言われて、俺は女騎士に連れて来られた。鬱蒼とした藪への入り口だ。手押し用のフェンス扉があるにはあるが、無惨にも壊れて朽ちている。
「本物というのは?」
「さっき居たのは一般人向け。ギルドや冒険者はこっちの祠に用がある場合が多いわ」
こっちの、と言っても全貌はまだ見えていない。しかしここからは険しい道のりが予想される。傷付き汚れる覚悟を決めなくちゃならなそうだ。
「先に言っておくが、俺はあんまり戦えないので」
女騎士は力強く「私もよ!」と言った。頼りにならないな。とは俺が言うべきでは無いし、彼女には自慢のポシェットがある。中は空間収納魔法でいて、奇妙奇天烈な薬品やポーションが入っている。俺より相当な有能者で間違いない。
ならばいざ行かん。棘の道を。この、意図せず稼いだ小遣いで買った片手剣を空にかざし、いよいよ俺は冒険者だ。
「じゃあ、はい。どうぞっ」
「おお、どうも」
そんな門出に渡されたものは網だった。綱ではないぞ。網である。長い柄のついた虫取り網だ。当然、渡したのだから女騎士には狙いがあるのだろう。
「ここはカブトの群生地なんだけど、レイゼドールの祠に入るには最低でも40匹必要だわ」
俺はポカンとする。剣を持つ右手も、網を持つ左手も同時に力が抜けた。
「あら? もしかして転生者はカブトを知らない? 黒くて角のある変わった見た目の昆虫よ。カブトビールは飲んだでしょう? それの主原料に使われるものよ」
そこから丁寧に手法を教えてくれようとするが、待ったをかける。まさかキリンの方には材料にキリンなんて使っていないよな……。怖いことを考え出してしまった。
信じたくないことを払拭するためにも俺は腕を振った。右手も左手もだ。
剣の方は慣れていないからよく樹木に刺さって抜けなくなるが、左手の方はむしろ職人技であった。俺は生前、サウスポーでバドミントン部だったのだ。
「う、嘘でしょ!? あなたひとりで35匹も捕まえたの!? 神業じゃない!?」
もしもキリンにキリンが使われる世界線に生きたことがあったなら。俺は天下のカブト狩り職人になっただろうな。しかし世界線があまりに違うのでバカな事を言わせないで欲しい。
「こんなに捕まえてレイゼドールは何をするんだ。まさかこれを主食にしているのか?」
「えっ? 栄養豊富よ?」
女騎士は慣れた手付きでカブトを……それはモザイク必須だしやめておく。俺からは「蟹じゃないんだから」と、気を遣ったコメントをしたつもりだ。心の中はいたって冷静。だが「まじかよ」ってなってる。
それと、レイゼドールの出身は絶対的に京都府じゃ無い。断言させてもらう。
「本物というのは?」
「さっき居たのは一般人向け。ギルドや冒険者はこっちの祠に用がある場合が多いわ」
こっちの、と言っても全貌はまだ見えていない。しかしここからは険しい道のりが予想される。傷付き汚れる覚悟を決めなくちゃならなそうだ。
「先に言っておくが、俺はあんまり戦えないので」
女騎士は力強く「私もよ!」と言った。頼りにならないな。とは俺が言うべきでは無いし、彼女には自慢のポシェットがある。中は空間収納魔法でいて、奇妙奇天烈な薬品やポーションが入っている。俺より相当な有能者で間違いない。
ならばいざ行かん。棘の道を。この、意図せず稼いだ小遣いで買った片手剣を空にかざし、いよいよ俺は冒険者だ。
「じゃあ、はい。どうぞっ」
「おお、どうも」
そんな門出に渡されたものは網だった。綱ではないぞ。網である。長い柄のついた虫取り網だ。当然、渡したのだから女騎士には狙いがあるのだろう。
「ここはカブトの群生地なんだけど、レイゼドールの祠に入るには最低でも40匹必要だわ」
俺はポカンとする。剣を持つ右手も、網を持つ左手も同時に力が抜けた。
「あら? もしかして転生者はカブトを知らない? 黒くて角のある変わった見た目の昆虫よ。カブトビールは飲んだでしょう? それの主原料に使われるものよ」
そこから丁寧に手法を教えてくれようとするが、待ったをかける。まさかキリンの方には材料にキリンなんて使っていないよな……。怖いことを考え出してしまった。
信じたくないことを払拭するためにも俺は腕を振った。右手も左手もだ。
剣の方は慣れていないからよく樹木に刺さって抜けなくなるが、左手の方はむしろ職人技であった。俺は生前、サウスポーでバドミントン部だったのだ。
「う、嘘でしょ!? あなたひとりで35匹も捕まえたの!? 神業じゃない!?」
もしもキリンにキリンが使われる世界線に生きたことがあったなら。俺は天下のカブト狩り職人になっただろうな。しかし世界線があまりに違うのでバカな事を言わせないで欲しい。
「こんなに捕まえてレイゼドールは何をするんだ。まさかこれを主食にしているのか?」
「えっ? 栄養豊富よ?」
女騎士は慣れた手付きでカブトを……それはモザイク必須だしやめておく。俺からは「蟹じゃないんだから」と、気を遣ったコメントをしたつもりだ。心の中はいたって冷静。だが「まじかよ」ってなってる。
それと、レイゼドールの出身は絶対的に京都府じゃ無い。断言させてもらう。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
異世界でいきなり経験値2億ポイント手に入れました
雪華慧太
ファンタジー
会社が倒産し無職になった俺は再就職が決まりかけたその日、あっけなく昇天した。
女神の手違いで死亡した俺は、無理やり異世界に飛ばされる。
強引な女神の加護に包まれて凄まじい勢いで異世界に飛ばされた結果、俺はとある王国を滅ぼしかけていた凶悪な邪竜に激突しそれを倒した。
くっころ系姫騎士、少し天然な聖女、ツンデレ魔法使い! アニメ顔負けの世界の中で、無職のままカンストした俺は思わぬ最強スキルを手にすることになったのだが……。
女神に同情されて異世界へと飛ばされたアラフォーおっさん、特S級モンスター相手に無双した結果、実力がバレて世界に見つかってしまう
サイダーボウイ
ファンタジー
「ちょっと冬馬君。このプレゼン資料ぜんぜんダメ。一から作り直してくれない?」
万年ヒラ社員の冬馬弦人(39歳)は、今日も上司にこき使われていた。
地方の中堅大学を卒業後、都内の中小家電メーカーに就職。
これまで文句も言わず、コツコツと地道に勤め上げてきた。
彼女なしの独身に平凡な年収。
これといって自慢できるものはなにひとつないが、当の本人はあまり気にしていない。
2匹の猫と穏やかに暮らし、仕事終わりに缶ビールが1本飲めれば、それだけで幸せだったのだが・・・。
「おめでとう♪ たった今、あなたには異世界へ旅立つ権利が生まれたわ」
誕生日を迎えた夜。
突如、目の前に現れた女神によって、弦人の人生は大きく変わることになる。
「40歳まで童貞だったなんて・・・これまで惨めで辛かったでしょ? でももう大丈夫! これからは異世界で楽しく遊んで暮らせるんだから♪」
女神に同情される形で異世界へと旅立つことになった弦人。
しかし、降り立って彼はすぐに気づく。
女神のとんでもないしくじりによって、ハードモードから異世界生活をスタートさせなければならないという現実に。
これは、これまで日の目を見なかったアラフォーおっさんが、異世界で無双しながら成り上がり、その実力がバレて世界に見つかってしまうという人生逆転の物語である。
【完結】おじいちゃんは元勇者
三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話…
親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。
エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活
SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。
クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。
これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。
転生者の相棒〜転生者には常識がない!〜
くろこん
ファンタジー
転生者
私達の世界では最早聞き慣れたと言っても過言ではないようなその言葉は、異世界転生ものもして人気を集めている。しかし、その言葉を全く知らない人達がいる。そう、転生した世界の人間たちだ。今回の主人公は、そんな転生者の不可思議な行動を見守る男の物語である!
人間、魔族、亜人種、エルフ。
1人の英雄の活躍によって全ての異種族が共存する世界、アヴァロム。そんな世界の小さな国の、これまた小さな村に生まれたエルフの少年、アルフィリオン(通称アル)彼はこの剣と魔法の世界に憧れる普通の少年だったが、そんな『平凡』な彼の隣の家に、全く同じ日に生まれた少年は普通じゃなかった!?
常識知らずの隣人、シルフィールドに振り回される少年、アルの一生を書いた異世界転生冒険譚!!
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる