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076-078【第四幕】おっさん妖精と出会った

078 俺は情報過多に付いていけない

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「おっさんは何者なんだ?」

「おいらかぁ? うーん……ただの放浪者だな。冬の妖精とでも呼んでくれ」

 おっさんはゴロ寝の姿で宙に浮き、右手小指で鼻の穴をほじって何かを飛ばしていた。雪の道の上に何が落ちたのかは知らん。百歩譲って氷の結晶だと信じてやるのは無理なので。

「断る。お前には妖精たる全てが備わっていない」

 童貞妖精の方だと言うなら納得してやるが。おっさんの経験を聞くのも腹を壊しそうだからしない。

 するとおっさんは「ははーん」と、俺の何かを見透かしたように声を出した。

「さては、てめえ。転生者だな? 妖精を過度に美化している奴はみんなそうだ」

 勝手に決めつけられている。まあ間違いではない。妖精とは必ず綺麗なもので無くてはならないのだ。

「俺が転生者だとしてどうする。捕まえて売りに出すか?」

「まさか。はぐれ者同士仲良くしたいよ」

 俺は、寝たまま移動できるおっさんが羨ましかった。だがおっさんにそれ以上の価値は見出だせなかった。おっさんは結局、飯を出せる魔法は使えないらしかったからな。今は近くに町があると言うのを疑いながら歩かされているだけだ。

「仲良くしたら俺と一緒に戦ってくれるのか?」

「うーん。いいよぉ~」

 不真面目にあくびを垂らしながら答えた。

 俺はおっさんのことを信用できないと思っていた。しかし確かに道のりの先には町が繋がっていたのだ。この寒さと空腹で知らずに正気を失っていた俺は、おっさん妖精のことをマジもんだと感動したくらいにはバグっていたらしい。

 開いていた飯屋で腹を膨らませていると、色々なことが考えられるようになる。そうすると妖精は、ただのおっさんであると見間違わない。高い視点から物を見下ろしていたわけだから、道の先に町があるのを言い当てたのだって、妖精の不思議な能力を使ったのでは断じて無い。

 おっさんはおっさんらしく塩の串焼きと豆の小皿が好きだし、茶を頼む金が惜しいのを理由に、水で良いと店主に譲らなかった。

「どうみてもおっさんだ……」

「おっさん、おっさん言うな。妖精だって歳を取る。昔は『YO-Say! paradise☆』のメンバーだったんだぞ」

 は? となる俺に、おっさんは深々と溜め息をする。「今時の若者は頂けない」と項垂れており、おっさんみたいに湿気でよれた紙に書いた文字がそれだった。おっさんが妙に整った星を書けることが、唯一の説得力を得ているのかもしれない。

「今はビン流が主流だからな」

 それはカン流に対抗したボケなんだろうか。分からないが。YO-Say! paradise☆ 略してヨーパラはイケメン揃いの歌って踊れるアイドルなんだそう。おっさんはそこで黄色い歓声を浴びていたんだそう。

「おお! あれだ、あれ!!」

 突然嬉しそうにおっさんが言うのを見上げると、店の中にヨーパラのポスターが貼ってあったらしい。美男揃いのおんなじ顔の、ひとつを指して「おいらだ」とおっさんは言うのであった。
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