上 下
76 / 100
076-078【第四幕】おっさん妖精と出会った

076 俺はラーメンを探さない

しおりを挟む
「転生者様、どうぞこちらもお味見を」

 見覚えのない女が俺に小さじを向けてくる。それをペロッと舐めて微笑めば「可愛い」と言われた。

「ちょっと! 私の料理が先よ!」

「いいえ、私の料理を転生者様は欲しているの!」

 俺に食い物を運んでくる女たちの列だ。俺は困ってしまい、とりあえず喧嘩だけはやめてくれと告げる。物分かりの良い彼女たちは笑顔で「はーい!」と答えていた。

 ここは異なる世界とは言っても、料理はまるで日本や地球のものと同じである。唐揚げ、煮魚、カレーライス、うどん、麻婆豆腐、グラタン、ローストビーフ。なんでも揃っている。しかも味は抜群に俺好み。

 きっと前の転生者が食通だったんだ。あのトロたくをラインナップに入れた特上の寿司な。デザートがわらび餅で驚かされたのは忘れられない。ほうじ茶と相性が良いったら。

「転生者様。こちらを」

「おお、ありがとう」

 テーブルの上はもうすでに食い物で溢れているが、俺の目の前に置かれたはちを覗けば涙が出そうになった。

「こ、これは!!」

「ラーメンです!!」

 ラララ、ラーメン! 俺はずっと麺類が食いたかった。しかも即席麺の方じゃないか。少しの野菜とハムが乗っていて!? 玉子は必須だがちゃんと半熟を守って落とされてある!

「完璧なんだが……」

「嬉しいです! 転生者様!!」

 女は俺に箸を持たせる。ひとくちすすってみて、やっぱりな。と俺は思った。そのタイミングで「どうそ」と女が俺にコショウ瓶を向けたのだ。

「そうだ。やっぱりラーメンにはこれだろう。これでもかというくらいかけて良い。それがピリリと刺激ふぉっ……ふっ……うっ……ぶぇっくしょん!!」

 豪快なくしゃみをし、鼻水が垂れ出たのを感じつつ俺は顔を上げた。

 ……目の前はボロ屋の窓。外は吹雪が吹き付けている。割れたガラスなので寒さに紛れて雪も中に入ってくる。まるで夢のような豪華な食卓はどこにもなく、笑顔を振りまき俺のために喧嘩をしてくれる女たちもいない。

 異世界の生活は楽なものではない。魔物は俺の肉を食糧にしようと追ってくるし、人さらいや盗賊は俺の臓器を金にしようと襲ってきた。少しくらい現実から逃避したって良いだろう。

 腹が減った。あんな夢を見たからだ。

「ラーメン食いてえ……」

 食ってから起きれば良かったと謎な後悔が残っている。腰の高さほど積もった雪を掻き分けたら、ちゃっかり埋もれていたりしないだろうか。ラーメン……。

 底冷えの寒さで尻から身震いが起こった。ここは現実だ。アホなことは考えないことだな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でいきなり経験値2億ポイント手に入れました

雪華慧太
ファンタジー
会社が倒産し無職になった俺は再就職が決まりかけたその日、あっけなく昇天した。 女神の手違いで死亡した俺は、無理やり異世界に飛ばされる。 強引な女神の加護に包まれて凄まじい勢いで異世界に飛ばされた結果、俺はとある王国を滅ぼしかけていた凶悪な邪竜に激突しそれを倒した。 くっころ系姫騎士、少し天然な聖女、ツンデレ魔法使い! アニメ顔負けの世界の中で、無職のままカンストした俺は思わぬ最強スキルを手にすることになったのだが……。

女神に同情されて異世界へと飛ばされたアラフォーおっさん、特S級モンスター相手に無双した結果、実力がバレて世界に見つかってしまう

サイダーボウイ
ファンタジー
「ちょっと冬馬君。このプレゼン資料ぜんぜんダメ。一から作り直してくれない?」 万年ヒラ社員の冬馬弦人(39歳)は、今日も上司にこき使われていた。 地方の中堅大学を卒業後、都内の中小家電メーカーに就職。 これまで文句も言わず、コツコツと地道に勤め上げてきた。 彼女なしの独身に平凡な年収。 これといって自慢できるものはなにひとつないが、当の本人はあまり気にしていない。 2匹の猫と穏やかに暮らし、仕事終わりに缶ビールが1本飲めれば、それだけで幸せだったのだが・・・。 「おめでとう♪ たった今、あなたには異世界へ旅立つ権利が生まれたわ」 誕生日を迎えた夜。 突如、目の前に現れた女神によって、弦人の人生は大きく変わることになる。 「40歳まで童貞だったなんて・・・これまで惨めで辛かったでしょ? でももう大丈夫! これからは異世界で楽しく遊んで暮らせるんだから♪」 女神に同情される形で異世界へと旅立つことになった弦人。 しかし、降り立って彼はすぐに気づく。 女神のとんでもないしくじりによって、ハードモードから異世界生活をスタートさせなければならないという現実に。 これは、これまで日の目を見なかったアラフォーおっさんが、異世界で無双しながら成り上がり、その実力がバレて世界に見つかってしまうという人生逆転の物語である。

追放からはじまる異世界終末キャンプライフ

ネオノート
ファンタジー
「葉山樹」は、かつて地球で平凡な独身サラリーマンとして過ごしていたが、40歳のときにソロキャンプ中に事故に遭い、意識を失ってしまう。目が覚めると、見知らぬ世界で生意気な幼女の姿をした女神と出会う。女神は、葉山が異世界で新しい力を手に入れることになると告げ、「キャンプマスター」という力を授ける。ぼくは異世界で「キャンプマスター」の力でいろいろなスキルを獲得し、ギルドを立ち上げ、そのギルドを順調に成長させ、商会も設立。多数の異世界の食材を扱うことにした。キャンプマスターの力で得られる食材は珍しいものばかりで、次第に評判が広がり、商会も大きくなっていった。 しかし、成功には必ず敵がつくもの。ライバルギルドや商会から妬まれ、陰湿な嫌がらせを受ける。そして、王城の陰謀に巻き込まれ、一文無しで国外追放処分となってしまった。そこから、ぼくは自分のキャンプの知識と経験、そして「キャンプマスター」の力を活かして、この異世界でのサバイバル生活を始める! 死と追放からはじまる、異世界サバイバルキャンプ生活開幕!

【完結】おじいちゃんは元勇者

三園 七詩
ファンタジー
元勇者のおじいさんに拾われた子供の話… 親に捨てられ、周りからも見放され生きる事をあきらめた子供の前に国から追放された元勇者のおじいさんが現れる。 エイトを息子のように可愛がり…いつしか子供は強くなり過ぎてしまっていた…

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

処理中です...