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第七章
潜むモノ
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「で、で? どうだった? 同棲初日」
「同居だから……!」
「うん、うん。で?」
なんだこの奏多の興味津々ぶりは。あまりにもキラキラと瞳を輝かせて聞くものだから、僕の腰がちょっぴり引ける。
「……別に普通だよ。どんどん甘えていいとは言ってもらったけど……」
「甘えて? わー、なになにそれ!」
バシバシッ!
一人で勝手に興奮をした奏多が、僕の肩を容赦なく叩く。
「いって! 痛いよ、奏多」
「ああ、ごめんごめん! ……でも、良いよなあ。羨ましい。寂しいって言われたら抱き寄せて、慰めてって言われたら押し倒してキスしてさあ……。そしてついには……っ!」
「あのさ、奏多……」
「くぅ~、いいなあ、俺も礼美ちゃんと同棲したいなあ……」
「同居だって!」
「うんうん、同居、同居。……いいなあ」
どうやら奏多の頭の中では、礼美ちゃんとの仲睦まじい新婚生活でも描かれているのだろう。ほわほわニヤニヤと、幸せそうなだらけた顔で宙を見ている。
……まあ、いいんだけどさ。
楽しそうに妄想に浸る奏多に呆れていると、教室の後ろの方から楽しそうに騒ぐ雄基たちの声が聞こえてきた。相変わらず楽しそうな彼らだけど、笹山の様子がいつもと違っているように見える。
「南、どうかした?」
僕が笹山の様子を気にしてみていると、それに気付いた奏多が同じく視線を後方に向けた。
どうやら礼美ちゃんとの妄想から抜け出してきたらしい。
「ん……、なんだか笹山の様子が気になって。なんかちょっと変じゃない?」
「あー、ぼーっとしてる?」
「うん。……やっぱこないだの、僕に何か相談があったのかなー」
「どうだろ? あっ!」
笹山のところに日暮がやってきた。どうやら話がしたいようで、廊下に出るように誘っている。
少し抵抗のそぶりを見せた後、結局笹山の方が折れたようで、日暮の後をついていった。
日暮の表情は強張っているし、笹山の方はどこか落ち着かないような感じだ。
日暮の気持ちを知っている僕としては、二人のことが気になって仕方がない。廊下に出てそのまま向こうに歩いていく二人を追いかけようと思った。
「ちょっと見てくる」
「え? 何言ってんだよ南!」
走り出した僕を追いかけようと、奏多もつられて席を立った。
「痛っ! ちょっと何してんのよ近江!」
どうやら勢いよく立ち上がった時に、奏多は周りを見ていなかったらしい。歩いてきた女子と強かぶつかって、尻餅をつかせてしまったらしかった。
奏多を待つべきかとも思ったけど、笹山たちがどんどん遠ざかっていくので焦った僕は、心の中で奏多に『ごめん』と呟いて、一人で彼らの後を追った。
「同居だから……!」
「うん、うん。で?」
なんだこの奏多の興味津々ぶりは。あまりにもキラキラと瞳を輝かせて聞くものだから、僕の腰がちょっぴり引ける。
「……別に普通だよ。どんどん甘えていいとは言ってもらったけど……」
「甘えて? わー、なになにそれ!」
バシバシッ!
一人で勝手に興奮をした奏多が、僕の肩を容赦なく叩く。
「いって! 痛いよ、奏多」
「ああ、ごめんごめん! ……でも、良いよなあ。羨ましい。寂しいって言われたら抱き寄せて、慰めてって言われたら押し倒してキスしてさあ……。そしてついには……っ!」
「あのさ、奏多……」
「くぅ~、いいなあ、俺も礼美ちゃんと同棲したいなあ……」
「同居だって!」
「うんうん、同居、同居。……いいなあ」
どうやら奏多の頭の中では、礼美ちゃんとの仲睦まじい新婚生活でも描かれているのだろう。ほわほわニヤニヤと、幸せそうなだらけた顔で宙を見ている。
……まあ、いいんだけどさ。
楽しそうに妄想に浸る奏多に呆れていると、教室の後ろの方から楽しそうに騒ぐ雄基たちの声が聞こえてきた。相変わらず楽しそうな彼らだけど、笹山の様子がいつもと違っているように見える。
「南、どうかした?」
僕が笹山の様子を気にしてみていると、それに気付いた奏多が同じく視線を後方に向けた。
どうやら礼美ちゃんとの妄想から抜け出してきたらしい。
「ん……、なんだか笹山の様子が気になって。なんかちょっと変じゃない?」
「あー、ぼーっとしてる?」
「うん。……やっぱこないだの、僕に何か相談があったのかなー」
「どうだろ? あっ!」
笹山のところに日暮がやってきた。どうやら話がしたいようで、廊下に出るように誘っている。
少し抵抗のそぶりを見せた後、結局笹山の方が折れたようで、日暮の後をついていった。
日暮の表情は強張っているし、笹山の方はどこか落ち着かないような感じだ。
日暮の気持ちを知っている僕としては、二人のことが気になって仕方がない。廊下に出てそのまま向こうに歩いていく二人を追いかけようと思った。
「ちょっと見てくる」
「え? 何言ってんだよ南!」
走り出した僕を追いかけようと、奏多もつられて席を立った。
「痛っ! ちょっと何してんのよ近江!」
どうやら勢いよく立ち上がった時に、奏多は周りを見ていなかったらしい。歩いてきた女子と強かぶつかって、尻餅をつかせてしまったらしかった。
奏多を待つべきかとも思ったけど、笹山たちがどんどん遠ざかっていくので焦った僕は、心の中で奏多に『ごめん』と呟いて、一人で彼らの後を追った。
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