フェロモン? そんなの僕知りません!!

くるむ

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第六章

無自覚で罪な蜜 6

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それからしばらく、たぶん一時間ほどロベールの腕の中でごろごろした後、そろそろ動かないといけないからと起きることにした。

「……体は、大丈夫か?」
「えっ! う、うん、大丈夫……」

……腰とか、ちょっと怠いし、……いつもより事後感があるけど……。
ちゃんと動けるし。

コクコク頷く僕を見てクスリと笑ったロベールは、僕にシャワーを浴びてくるよう勧めた。その間に出る準備をしておくということで。

★★★


フロントで何やら挨拶を交わした後、ロベールが「待たせたな」と、僕の下にやってきた。そのロベールの姿を、そこにいる男女問わず誰もが目で追いかけている。華やかで姿勢よく歩くロベールに見惚れているという風情で。

……僕なんかの心配より、自分だよね?

ロベールをチラリと見上げながらそんなことを考えていたら、彼は意味深に方眉を上げ軽く顎を上げた。

「……今は駄々洩れてないからだぞ?」
「!?」

よ、読まれてた!

「代わりに色香は増しているが、あの凶悪なフェロモンに比べれば可愛いもんだ」
「……!?」

な、な、何それ!
凶悪ーーー!?

照れるところなのか恐怖に慄くところなのか分からない。
僕のフェロモンって、いったいどんななの!

「大丈夫だ。この先も私がもらってやるから」

色っぽく僕を見つめながらそう言うロベールに、カーッと顔に熱が集まった。何を言い返していいのか最早わからない。

「ほら、帰るぞ」
「……分かった」

背後からのロベールを追う視線と、なんだか分けのわからない恥ずかしさや慄きを抱きつつ、僕はロベールに促される格好でホテルを後にした。


「お帰り、お疲れ様」
「ただいまー」
「ただいま戻りました。これからお世話になります」
「あらあら、こちらこそよろしくね」

「疲れたでしょう。荷物持ちましょう」

父さんが気を遣って、ロベールに手を差し出した。

「いいえ、大丈夫ですよ。運んだのはタクシーですし」

そう言ってやんわりと断り、さっさと奥へと入って行く。僕もこの異常なスーツケースの軽さを知られちゃいけないと、慌ててロベールの後をついていった。

部屋に入りスーツケースを置いたロベールが、「片付けておくか」と呟いた。
ん?と思い、その手元を見ると、スーツケースを開けた途端、次々とロベールの服がなだれ込んできた。

「ええっ、なにこれ!」
「ん? 便利だろ。人には見えない道を作って移動させてる」
「……はあ」

横着だなあ。……確かに便利だけど。

ベッドに腰かけているロベールの隣に座って、ちょこんと凭れかかる。ロベールは「ん?」とこちらに視線を向けた。

「……ちょっと疲れちゃった」
「そうか……。私には存分に甘えろ。いやというほど甘えていい」
「……本当に?」
「ああ」
「漏れるフェロモンも何もかも、丸ごとまとめて面倒見てやる」
「……家族に見られない程度にだね」
「そうだな。南の傍にいられなくなるようでは意味がない」

「ロベール先生、南、ご飯にしましょー!」
「はあーい!」

言ってる端から僕らを呼ぶ母さんの声が飛んできた。
僕らは互いに顔を見合わせてクスリと笑った後、ロベールの部屋を後にした。
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