上 下
86 / 93
第六章

無自覚で罪な蜜 5

しおりを挟む
……怠い。
どう表現した方が的確だろう。甘怠い……?

背中を擦る気持ちのいい感触で目が覚めて、裸のまま温かいロベールの腕の中で目を覚ました。

何もかもが心地よかった。
ロベールに僕の丸ごとをゆだねて預けきっているこの感触と、そして甘く沈んでいくような怠さまでもが。

「気が付いたのか」
「……うん」

僕の返事にロベールは、さらに腕の力を込めてキュッと僕を抱きしめた。

「抑えが効かずに悪かったな」
「……ううん。大丈夫」

僕もロベールの背に腕を回して、頬を彼の肩口にスリッと擦りつける。

「……本当に南は……」
「――え?」

ため息交じりに呟かれて、ちょっぴりドキッ。
なんだか知らないけど、呆れられてる?

「こんなに我を忘れるくらいに溺れさせられるのは初めてだ。……質が悪いぞ、南」
「……えっ」

ロベールは僕のこめかみ辺りに手を当てて、瞳を覗き込むように見つめる。
とくん、と可愛い音が僕の心臓から聞こえた。

お……、溺れてるのは僕の方だよ。
こんな間近で真剣な顔で……。吸い込まれちゃいそうじゃないか。

恥ずかしくてどうしていいのか分からず、しきりに目をぱしぱしと瞬いて胡麻化してみた。

「……ふっ、可愛いな南は」
「……ロ、ロベールはかっこいいよ」
「…………」
「…………」

ぷはっ。
「そうか、それは良かった」

しばらく目を丸くして僕を見た後、噴き出したように笑ったロベールが、またぎゅっと僕を抱きしめた。

「南……」
「……何?」

ロベールは僕を抱きしめたまま、片方の手で優しく僕の髪を撫で始めた。その優しい感触が、すごく気持ちがいい。

「無自覚で無意識な南に言ってもどうしようもないかもしれないけど、私は南に溺れてる。もう息すらできていないんじゃないかと思うくらいにだ」

「……ロベール……」

「だから、南から見て私が平静に見えていたとしても例え離れていたとしても、私が南のことを思っていることも、気配を追っていることも忘れるな。……無駄にフェロモン駄々洩れにして私を心配させないでくれ」

「…………」
ぎゅううっ。

僕からも力いっぱいロベールにしがみついた。

優しい声が、心配そうで真剣なその声が、僕の心を甘く、何とも言えない切ないような気持で締め付ける。

分かった、って言ってあげたくてもそう言い切れない。
僕はフェロモンなんて、いつ出してるのか出てるのか当人のくせにさっぱり分からないんだ。
だって、レストランでスイーツを物色してる時なんて、目の前のティラミスのことしか考えてなかったはずだ。そんな状況でさえ駄々洩れになっているものを、僕はどうやって管理したらいいわけ?

困惑する僕の体をそっと離してロベールは、僕の目を見つめた。

「私が南に溺れていることを、分かってくれればそれでいい」
「……う、ん。でもあのっ!」
「うん?」

「僕も! 僕もロベールに溺れているからね!」

「――そうか、分かった」

大声で宣言する僕に、ロベールはハッとするくらい綺麗に……、花が綻ぶように優しく微笑んだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

両腕のない義弟との性事情

papporopueeee
BL
父子家庭で育ったケンと、母子家庭で育ったカオル。 親の再婚によりふたりは義兄弟となったが、 交通事故により両親とカオルの両腕が失われてしまう。 ケンは両腕を失ったカオルの世話を始めるが、 思春期であるカオルは性介助を求めていて……。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

すてきな後宮暮らし

トウ子
BL
後宮は素敵だ。 安全で、一日三食で、毎日入浴できる。しかも大好きな王様が頭を撫でてくれる。最高! 「ははは。ならば、どこにも行くな」 でもここは奥さんのお部屋でしょ?奥さんが来たら、僕はどこかに行かなきゃ。 「お前の成長を待っているだけさ」 意味がわからないよ、王様。 Twitter企画『 #2020男子後宮BL 』参加作品でした。 ※ムーンライトノベルズにも掲載

俺のかつての護衛騎士が未だに過保護すぎる

餡子
BL
【BL】護衛騎士×元王子もどきの平民  妾妃の連れ子として王家に迎え入れられたけど、成人したら平民として暮らしていくはずだった。というのに、成人後もなぜかかつての護衛騎士が過保護に接してくるんだけど!? ……期待させないでほしい。そっちには、俺と同じ気持ちなんてないくせに。 ※性描写有りR18

【完結・R18】28歳の俺は異世界で保育士の仕事引き受けましたが、何やらおかしな事になりそうです。

カヨワイさつき
BL
憧れの職業(保育士)の資格を取得し、目指すは認可の保育園での保育士!!現実は厳しく、居酒屋のバイトのツテで、念願の保育士になれたのだった。 無認可の24時間保育施設で夜勤担当の俺、朝の引き継ぎを終え帰宅途中に揉め事に巻き込まれ死亡?! 泣いてる赤ちゃんの声に目覚めると、なぜか馬車の中?!アレ、ここどこ?まさか異世界? その赤ちゃんをあやしていると、キレイなお母さんに褒められ、目的地まで雇いたいと言われたので、即オッケーしたのだが……馬車が、ガケから落ちてしまった…?!これってまた、絶対絶命? 俺のピンチを救ってくれたのは……。 無自覚、不器用なイケメン総帥と平凡な俺との約束。流されやすい主人公の恋の行方は、ハッピーなのか?! 自作の"ショウドウ⁈異世界にさらわれちゃったよー!お兄さんは静かに眠りたい。"のカズミ編。 予告なしに、無意識、イチャラブ入ります。 第二章完結。

大魔法使いに生まれ変わったので森に引きこもります

かとらり。
BL
 前世でやっていたRPGの中ボスの大魔法使いに生まれ変わった僕。  勇者に倒されるのは嫌なので、大人しくアイテムを渡して帰ってもらい、塔に引きこもってセカンドライフを楽しむことにした。  風の噂で勇者が魔王を倒したことを聞いて安心していたら、森の中に小さな男の子が転がり込んでくる。  どうやらその子どもは勇者の子供らしく…

処理中です...