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第五章
ロベールVSスノウ
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ロベールのお泊りが決まったのは良いんだけど部屋は別だった。
母さんは一応いつ下宿が決まってもいいようにと布団もちゃんと干してくれていて、ばあちゃんの部屋の掃除も綺麗に済ませていてくれたらしい。
だけどばあちゃんの部屋は一階で、僕が二階。だから同じ家の中でもちょっと遠すぎる。
「せめてさ……、兄貴の部屋なら二階だから近かったんだけどな……」
なんの理由もなしにロベールの部屋に入り浸るのはなんだか変な気がして、寝る時間が近くなった僕は、今二階に上がってきたところだ。
「はあ」
ため息を吐いてベッドに寝転がり目を閉じる。
分かってるんだよ、贅沢だってことは。
だけどさ。……最初は凄く嬉しいことだと思っていても、それが当たり前になってくると、もっと欲しいもっと欲しいって段々欲張りになっちゃうんだ。
「今日はフェロモンは無いんだな」
突然頭上から気味の悪い声が降って来た。驚いて目を開けたらいつの間にかスノウがいて、僕を観察するように見下ろしている。
びっくりして飛び起きた。
「な、なんでいるんだよ!」
「南に会いに来たに決まってるだろ」
「僕は会いたくないよ。帰って!」
「帰ってと言われてもなあ」
スノウが一歩僕の下へと足を踏み出した。ギョッとして咄嗟に後ずさる。
「なんで今日はあのフェロモンを纏ってないんだ?」
「知らないよ! 好きで出してるんじゃないもの。帰れよ!」
「嫌だね。……出さないんなら、こっちから出させてやるか」
はあ!? 何言ってんのこいつ!
「てか、近寄んなよ! 来んな! 来るなって言ってんだろ!」
ニヤニヤ笑いながら近寄るスノウが気持ち悪すぎる。ベッドにまで上がって来たので足でけり落そうとしたのだけど、逆にその足を取られてしまった。
ジタバタもがく僕をあざ笑うかのように、スノウの手がパジャマのパンツに手をかけた。慌てて手でその動きを制止しようとしたとき、突然スノウの表情が変わる。
「……ったくよー、何だってんだまったく」
……え?
スノウの視線の先に顔を向けると、冷たく怖いオーラを放ったロベールが、これまた恐ろしい形相でスノウを睨んでいた。僕が見たロベールの表情の中でも一番怖い顔だ。
「それはこっちのセリフだ。少しは穏便に済ませてやろうかとも思っていたが、どうやらそれは間違いだったようだな」
そう言いながらスノウを蹴り飛ばし、僕の手を取り腕の中に抱き込んだ。
……あ。
温かく力強い腕の中に閉じ込められて、安堵で僕の余分な体の力が抜けていく。
「ロベール……」
自分からもギュッと縋りついて、ロベールの胸に頬を擦りつけた。
「南?」
「ロベール、ロベール……!」
安心してホッとして、どうしてもロベールに甘えたくて仕方がなくなっちゃったんだ。
僕はロベールにも抱きしめ返してほしくて、頬を擦り付け額をぐりぐりしながら掻き抱く腕の力を強めた。
「お前……、質悪いぞ」
「え? 何?」
「お前ら! 見せつけてんじゃねーよ!」
「!?」
バチバチ!!
え?
「……つうっ!」
ぐりぐりロベールに抱き着くのに夢中で、スノウの存在をしっかり忘れていた。
スノウの怒声のすぐ後に火花の散る音がしたかと思ったら、スノウが苦悶の声と同時にしゃがみ込んだ。
「え、な、なに?」
「お前! 無駄に魔力は使わないんじゃなかったのかよ!」
よく見ると、スノウの手が赤くなっている。もしかしてさっきの火花の散る音は、ロベールがスノウに何かをしたせいなのか?
「今のは無駄な力じゃない。……スノウ、私は追放されてはいても、力が減ったわけでは無いぞ」
「……それくらい知っている。強さは魔王レベルだろ」
「…………」
え? そうなの?
ロベールって、そんなに力がある悪魔なの?
「私に勝てっこないと分かっているならさっさと帰れ。いつまでものんびりしていたら拙いんじゃないのか?」
「は? 説教? 冗談じゃねえ。そいつの甘いフェロモンを味わわない限りは……、グワッ!!」
「味わわない限りは……、なんだって?」
「グアッ……、せ! は、離せ……! グウウゥゥ……」
僕を抱きしめたままの態勢なのに、ロベールが何をしているのかよくわからない。
ただ少し離れたところにいるスノウが、苦悶の表情で少しずつ宙に浮き上がっていく。まるで誰かに頭を鷲掴みにされ持ち上げられているかのように。
見上げたロベールの表情は、本当に怖かった。
母さんは一応いつ下宿が決まってもいいようにと布団もちゃんと干してくれていて、ばあちゃんの部屋の掃除も綺麗に済ませていてくれたらしい。
だけどばあちゃんの部屋は一階で、僕が二階。だから同じ家の中でもちょっと遠すぎる。
「せめてさ……、兄貴の部屋なら二階だから近かったんだけどな……」
なんの理由もなしにロベールの部屋に入り浸るのはなんだか変な気がして、寝る時間が近くなった僕は、今二階に上がってきたところだ。
「はあ」
ため息を吐いてベッドに寝転がり目を閉じる。
分かってるんだよ、贅沢だってことは。
だけどさ。……最初は凄く嬉しいことだと思っていても、それが当たり前になってくると、もっと欲しいもっと欲しいって段々欲張りになっちゃうんだ。
「今日はフェロモンは無いんだな」
突然頭上から気味の悪い声が降って来た。驚いて目を開けたらいつの間にかスノウがいて、僕を観察するように見下ろしている。
びっくりして飛び起きた。
「な、なんでいるんだよ!」
「南に会いに来たに決まってるだろ」
「僕は会いたくないよ。帰って!」
「帰ってと言われてもなあ」
スノウが一歩僕の下へと足を踏み出した。ギョッとして咄嗟に後ずさる。
「なんで今日はあのフェロモンを纏ってないんだ?」
「知らないよ! 好きで出してるんじゃないもの。帰れよ!」
「嫌だね。……出さないんなら、こっちから出させてやるか」
はあ!? 何言ってんのこいつ!
「てか、近寄んなよ! 来んな! 来るなって言ってんだろ!」
ニヤニヤ笑いながら近寄るスノウが気持ち悪すぎる。ベッドにまで上がって来たので足でけり落そうとしたのだけど、逆にその足を取られてしまった。
ジタバタもがく僕をあざ笑うかのように、スノウの手がパジャマのパンツに手をかけた。慌てて手でその動きを制止しようとしたとき、突然スノウの表情が変わる。
「……ったくよー、何だってんだまったく」
……え?
スノウの視線の先に顔を向けると、冷たく怖いオーラを放ったロベールが、これまた恐ろしい形相でスノウを睨んでいた。僕が見たロベールの表情の中でも一番怖い顔だ。
「それはこっちのセリフだ。少しは穏便に済ませてやろうかとも思っていたが、どうやらそれは間違いだったようだな」
そう言いながらスノウを蹴り飛ばし、僕の手を取り腕の中に抱き込んだ。
……あ。
温かく力強い腕の中に閉じ込められて、安堵で僕の余分な体の力が抜けていく。
「ロベール……」
自分からもギュッと縋りついて、ロベールの胸に頬を擦りつけた。
「南?」
「ロベール、ロベール……!」
安心してホッとして、どうしてもロベールに甘えたくて仕方がなくなっちゃったんだ。
僕はロベールにも抱きしめ返してほしくて、頬を擦り付け額をぐりぐりしながら掻き抱く腕の力を強めた。
「お前……、質悪いぞ」
「え? 何?」
「お前ら! 見せつけてんじゃねーよ!」
「!?」
バチバチ!!
え?
「……つうっ!」
ぐりぐりロベールに抱き着くのに夢中で、スノウの存在をしっかり忘れていた。
スノウの怒声のすぐ後に火花の散る音がしたかと思ったら、スノウが苦悶の声と同時にしゃがみ込んだ。
「え、な、なに?」
「お前! 無駄に魔力は使わないんじゃなかったのかよ!」
よく見ると、スノウの手が赤くなっている。もしかしてさっきの火花の散る音は、ロベールがスノウに何かをしたせいなのか?
「今のは無駄な力じゃない。……スノウ、私は追放されてはいても、力が減ったわけでは無いぞ」
「……それくらい知っている。強さは魔王レベルだろ」
「…………」
え? そうなの?
ロベールって、そんなに力がある悪魔なの?
「私に勝てっこないと分かっているならさっさと帰れ。いつまでものんびりしていたら拙いんじゃないのか?」
「は? 説教? 冗談じゃねえ。そいつの甘いフェロモンを味わわない限りは……、グワッ!!」
「味わわない限りは……、なんだって?」
「グアッ……、せ! は、離せ……! グウウゥゥ……」
僕を抱きしめたままの態勢なのに、ロベールが何をしているのかよくわからない。
ただ少し離れたところにいるスノウが、苦悶の表情で少しずつ宙に浮き上がっていく。まるで誰かに頭を鷲掴みにされ持ち上げられているかのように。
見上げたロベールの表情は、本当に怖かった。
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