63 / 93
第五章
綺麗な恋人を持つと苦労するんだ
しおりを挟む
「南、帰る?」
帰り支度をしていたら、どういうわけか笹山がやって来た。
「うん」
「……もしかして保健室に寄る?」
きっと周りに聞かれないようにという配慮からだろう。笹山は小声で僕に聞いた。
「うん。約束してるし」
「……そうか」
「なに? 何かあった?」
なんだかちょっと気になって聞き返すと、笹山の目が泳ぐ。
「……いや、何かってわけじゃないけど……、ちょっとさ」
「……?」
「帰ろーぜー、南ー」
笹山が言い淀んでいる時に、奏多が鞄を担いでこっちに来た。もごもごしている笹山を見て、奏多が小首を傾げた。
「あ、笹山も南を誘いに来たのか? 南、別行動だけど、よければ俺と一緒に帰る?」
「え? あ、いや。雄基たちと一緒に帰るから……」
「そう? じゃあ、明日な」
「お、おう。じゃあな」
「あ、バイバイ」
訝しる僕らを後に、笹山はそそくさと雄基たちの所へと歩いて行った。
本当は、何か相談したいことでもあったんじゃないのかな?
「日暮のことかな」
ポツリと呟く奏多に、ああ、そうかと思い至った。
「そうかもしれないね」
「悪いことしたなー。俺、邪魔しちゃったかもしれない」
「え?」
「だってさ、聞いてほしくない人が傍に居たら、相談したくても出来ないじゃん」
「あー。まあ、それはそうかもね」
う~ん、と唸る僕を見て、奏多は「ま、しょうがないよ」と言いながら「よいしょ」と鞄を担いだ。
「そろそろ行こ。待ってんじゃね? 先生」
「あ、そうだね」
「でも、良いよなー、同棲」
「……! ど、同居だから!」
「アハハ。そうだね、お母さんたちもいるもんな」
「そうだよ!」
奏多のおかげで、ちょっとだけ浮かれて保健室に向かえた。
やっぱりあの時のマクの気配が、どうしても気になってしまっていたから。
「失礼しまーす」
明るい声で挨拶をしながら、カラカラと奏多が扉を開ける。
奥からは「はい」という声がするだけで、いつものように姿を現さないので、怪訝に思いながらも中に入ると、怪我をした生徒の消毒中だった。
「いっててててて……。しみるー!」
「オーバーだな。……はい、終わり」
「……ありがとうございました」
治療を受けていた男子はペコリと頭を下げて席を立ち、待っている友達と一緒に保健室を出て行った。なんとなく僕と奏多は彼らの感じが気になって、閉まった扉に自然と視線を向けていると、外から呆れるようにはしゃぐ声が聞こえてきた。
「すっげー! 評判通りだな!」
「だよな。何あの綺麗な顔! 男だなんて、もったいねー!」
「女子に自慢してやろ!」
「ああ、してやれ。してやれ! もしかしたら羨ましがって体中触られまくるかもしれないぞー」
燥ぐ声はだんだん遠くなっていく。
何とも言えない気持ちでロベールを見ると、さほど気にもならないのか保健医らしく何やら記入し棚の整理をしていた。
……一応、仕事はするんだ。
「ねえ、ロベール」
「んー? なんだ?」
「……ああいう事、よくあるの?」
「なに?」
本当に気にもしていないのだろう。何かあったか?という疑問文を顔に張り付けて僕を見た。
奏多が隣で忍び笑いをしている。
「……だから、その、ロベールを見て燥ぐ奴らとかだよ」
「半々くらいはいるかな」
「…………」
むうっ。
やっぱいるんだ。
剥れる僕に、奏多がポンポンと肩を叩いた。
「じゃ、俺帰るから。……先生も、南をあんまヤキモチ焼かせないでね」
「は?」
「奏多!」
「じゃなー」
焦る僕をよそに、奏多は手を振り保健室を出て行った。
……まったく。
ちらりとロベールを見ると、どことなく嬉しそうな顔をしていた。
帰り支度をしていたら、どういうわけか笹山がやって来た。
「うん」
「……もしかして保健室に寄る?」
きっと周りに聞かれないようにという配慮からだろう。笹山は小声で僕に聞いた。
「うん。約束してるし」
「……そうか」
「なに? 何かあった?」
なんだかちょっと気になって聞き返すと、笹山の目が泳ぐ。
「……いや、何かってわけじゃないけど……、ちょっとさ」
「……?」
「帰ろーぜー、南ー」
笹山が言い淀んでいる時に、奏多が鞄を担いでこっちに来た。もごもごしている笹山を見て、奏多が小首を傾げた。
「あ、笹山も南を誘いに来たのか? 南、別行動だけど、よければ俺と一緒に帰る?」
「え? あ、いや。雄基たちと一緒に帰るから……」
「そう? じゃあ、明日な」
「お、おう。じゃあな」
「あ、バイバイ」
訝しる僕らを後に、笹山はそそくさと雄基たちの所へと歩いて行った。
本当は、何か相談したいことでもあったんじゃないのかな?
「日暮のことかな」
ポツリと呟く奏多に、ああ、そうかと思い至った。
「そうかもしれないね」
「悪いことしたなー。俺、邪魔しちゃったかもしれない」
「え?」
「だってさ、聞いてほしくない人が傍に居たら、相談したくても出来ないじゃん」
「あー。まあ、それはそうかもね」
う~ん、と唸る僕を見て、奏多は「ま、しょうがないよ」と言いながら「よいしょ」と鞄を担いだ。
「そろそろ行こ。待ってんじゃね? 先生」
「あ、そうだね」
「でも、良いよなー、同棲」
「……! ど、同居だから!」
「アハハ。そうだね、お母さんたちもいるもんな」
「そうだよ!」
奏多のおかげで、ちょっとだけ浮かれて保健室に向かえた。
やっぱりあの時のマクの気配が、どうしても気になってしまっていたから。
「失礼しまーす」
明るい声で挨拶をしながら、カラカラと奏多が扉を開ける。
奥からは「はい」という声がするだけで、いつものように姿を現さないので、怪訝に思いながらも中に入ると、怪我をした生徒の消毒中だった。
「いっててててて……。しみるー!」
「オーバーだな。……はい、終わり」
「……ありがとうございました」
治療を受けていた男子はペコリと頭を下げて席を立ち、待っている友達と一緒に保健室を出て行った。なんとなく僕と奏多は彼らの感じが気になって、閉まった扉に自然と視線を向けていると、外から呆れるようにはしゃぐ声が聞こえてきた。
「すっげー! 評判通りだな!」
「だよな。何あの綺麗な顔! 男だなんて、もったいねー!」
「女子に自慢してやろ!」
「ああ、してやれ。してやれ! もしかしたら羨ましがって体中触られまくるかもしれないぞー」
燥ぐ声はだんだん遠くなっていく。
何とも言えない気持ちでロベールを見ると、さほど気にもならないのか保健医らしく何やら記入し棚の整理をしていた。
……一応、仕事はするんだ。
「ねえ、ロベール」
「んー? なんだ?」
「……ああいう事、よくあるの?」
「なに?」
本当に気にもしていないのだろう。何かあったか?という疑問文を顔に張り付けて僕を見た。
奏多が隣で忍び笑いをしている。
「……だから、その、ロベールを見て燥ぐ奴らとかだよ」
「半々くらいはいるかな」
「…………」
むうっ。
やっぱいるんだ。
剥れる僕に、奏多がポンポンと肩を叩いた。
「じゃ、俺帰るから。……先生も、南をあんまヤキモチ焼かせないでね」
「は?」
「奏多!」
「じゃなー」
焦る僕をよそに、奏多は手を振り保健室を出て行った。
……まったく。
ちらりとロベールを見ると、どことなく嬉しそうな顔をしていた。
1
お気に入りに追加
183
あなたにおすすめの小説
老舗カフェ「R」〜モノクロの料理が色づくまで〜
yolu
ファンタジー
café Rの『if』ストーリー───
現代は、エルフが治める『フィールヴ』という異世界と繋がって40年になる。
今はエルフと人が、少なからず行き来をし、お互いの世界で会社を立ち上げ、共存共栄している。
莉子が一人で切り盛りする、老舗カフェ「R」にも、エルフの来店が増えてきたこの頃。
なんと、 エルフの製薬会社・ラハ製薬によって立退き勧告!
4週間後には店を畳んで出ていかなくてはならない状況に……!
そこで立ち上がったのは、常連になると決めたイリオ製薬に勤めるエルフ4人。
イリオ製薬社長のトゥーマ、通訳である人間とエルフのハーフ・アキラ、彼の上司に当たるトップ営業マンのケレヴ、そしてケレヴの同僚の調剤師・イウォールだ。
カフェの料理によって、古典的エルフと言われるほどのイウォールが、莉子に一目惚れ!
イウォールの猛烈アタックに振り回されながらも、『異文化コミュニケーション』を重ねながら、美味しい料理はもちろん、恋愛も挟みつつ、この危機を乗り越えていきます!

ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(10/21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる