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第五章
綺麗な恋人を持つと苦労するんだ
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「南、帰る?」
帰り支度をしていたら、どういうわけか笹山がやって来た。
「うん」
「……もしかして保健室に寄る?」
きっと周りに聞かれないようにという配慮からだろう。笹山は小声で僕に聞いた。
「うん。約束してるし」
「……そうか」
「なに? 何かあった?」
なんだかちょっと気になって聞き返すと、笹山の目が泳ぐ。
「……いや、何かってわけじゃないけど……、ちょっとさ」
「……?」
「帰ろーぜー、南ー」
笹山が言い淀んでいる時に、奏多が鞄を担いでこっちに来た。もごもごしている笹山を見て、奏多が小首を傾げた。
「あ、笹山も南を誘いに来たのか? 南、別行動だけど、よければ俺と一緒に帰る?」
「え? あ、いや。雄基たちと一緒に帰るから……」
「そう? じゃあ、明日な」
「お、おう。じゃあな」
「あ、バイバイ」
訝しる僕らを後に、笹山はそそくさと雄基たちの所へと歩いて行った。
本当は、何か相談したいことでもあったんじゃないのかな?
「日暮のことかな」
ポツリと呟く奏多に、ああ、そうかと思い至った。
「そうかもしれないね」
「悪いことしたなー。俺、邪魔しちゃったかもしれない」
「え?」
「だってさ、聞いてほしくない人が傍に居たら、相談したくても出来ないじゃん」
「あー。まあ、それはそうかもね」
う~ん、と唸る僕を見て、奏多は「ま、しょうがないよ」と言いながら「よいしょ」と鞄を担いだ。
「そろそろ行こ。待ってんじゃね? 先生」
「あ、そうだね」
「でも、良いよなー、同棲」
「……! ど、同居だから!」
「アハハ。そうだね、お母さんたちもいるもんな」
「そうだよ!」
奏多のおかげで、ちょっとだけ浮かれて保健室に向かえた。
やっぱりあの時のマクの気配が、どうしても気になってしまっていたから。
「失礼しまーす」
明るい声で挨拶をしながら、カラカラと奏多が扉を開ける。
奥からは「はい」という声がするだけで、いつものように姿を現さないので、怪訝に思いながらも中に入ると、怪我をした生徒の消毒中だった。
「いっててててて……。しみるー!」
「オーバーだな。……はい、終わり」
「……ありがとうございました」
治療を受けていた男子はペコリと頭を下げて席を立ち、待っている友達と一緒に保健室を出て行った。なんとなく僕と奏多は彼らの感じが気になって、閉まった扉に自然と視線を向けていると、外から呆れるようにはしゃぐ声が聞こえてきた。
「すっげー! 評判通りだな!」
「だよな。何あの綺麗な顔! 男だなんて、もったいねー!」
「女子に自慢してやろ!」
「ああ、してやれ。してやれ! もしかしたら羨ましがって体中触られまくるかもしれないぞー」
燥ぐ声はだんだん遠くなっていく。
何とも言えない気持ちでロベールを見ると、さほど気にもならないのか保健医らしく何やら記入し棚の整理をしていた。
……一応、仕事はするんだ。
「ねえ、ロベール」
「んー? なんだ?」
「……ああいう事、よくあるの?」
「なに?」
本当に気にもしていないのだろう。何かあったか?という疑問文を顔に張り付けて僕を見た。
奏多が隣で忍び笑いをしている。
「……だから、その、ロベールを見て燥ぐ奴らとかだよ」
「半々くらいはいるかな」
「…………」
むうっ。
やっぱいるんだ。
剥れる僕に、奏多がポンポンと肩を叩いた。
「じゃ、俺帰るから。……先生も、南をあんまヤキモチ焼かせないでね」
「は?」
「奏多!」
「じゃなー」
焦る僕をよそに、奏多は手を振り保健室を出て行った。
……まったく。
ちらりとロベールを見ると、どことなく嬉しそうな顔をしていた。
帰り支度をしていたら、どういうわけか笹山がやって来た。
「うん」
「……もしかして保健室に寄る?」
きっと周りに聞かれないようにという配慮からだろう。笹山は小声で僕に聞いた。
「うん。約束してるし」
「……そうか」
「なに? 何かあった?」
なんだかちょっと気になって聞き返すと、笹山の目が泳ぐ。
「……いや、何かってわけじゃないけど……、ちょっとさ」
「……?」
「帰ろーぜー、南ー」
笹山が言い淀んでいる時に、奏多が鞄を担いでこっちに来た。もごもごしている笹山を見て、奏多が小首を傾げた。
「あ、笹山も南を誘いに来たのか? 南、別行動だけど、よければ俺と一緒に帰る?」
「え? あ、いや。雄基たちと一緒に帰るから……」
「そう? じゃあ、明日な」
「お、おう。じゃあな」
「あ、バイバイ」
訝しる僕らを後に、笹山はそそくさと雄基たちの所へと歩いて行った。
本当は、何か相談したいことでもあったんじゃないのかな?
「日暮のことかな」
ポツリと呟く奏多に、ああ、そうかと思い至った。
「そうかもしれないね」
「悪いことしたなー。俺、邪魔しちゃったかもしれない」
「え?」
「だってさ、聞いてほしくない人が傍に居たら、相談したくても出来ないじゃん」
「あー。まあ、それはそうかもね」
う~ん、と唸る僕を見て、奏多は「ま、しょうがないよ」と言いながら「よいしょ」と鞄を担いだ。
「そろそろ行こ。待ってんじゃね? 先生」
「あ、そうだね」
「でも、良いよなー、同棲」
「……! ど、同居だから!」
「アハハ。そうだね、お母さんたちもいるもんな」
「そうだよ!」
奏多のおかげで、ちょっとだけ浮かれて保健室に向かえた。
やっぱりあの時のマクの気配が、どうしても気になってしまっていたから。
「失礼しまーす」
明るい声で挨拶をしながら、カラカラと奏多が扉を開ける。
奥からは「はい」という声がするだけで、いつものように姿を現さないので、怪訝に思いながらも中に入ると、怪我をした生徒の消毒中だった。
「いっててててて……。しみるー!」
「オーバーだな。……はい、終わり」
「……ありがとうございました」
治療を受けていた男子はペコリと頭を下げて席を立ち、待っている友達と一緒に保健室を出て行った。なんとなく僕と奏多は彼らの感じが気になって、閉まった扉に自然と視線を向けていると、外から呆れるようにはしゃぐ声が聞こえてきた。
「すっげー! 評判通りだな!」
「だよな。何あの綺麗な顔! 男だなんて、もったいねー!」
「女子に自慢してやろ!」
「ああ、してやれ。してやれ! もしかしたら羨ましがって体中触られまくるかもしれないぞー」
燥ぐ声はだんだん遠くなっていく。
何とも言えない気持ちでロベールを見ると、さほど気にもならないのか保健医らしく何やら記入し棚の整理をしていた。
……一応、仕事はするんだ。
「ねえ、ロベール」
「んー? なんだ?」
「……ああいう事、よくあるの?」
「なに?」
本当に気にもしていないのだろう。何かあったか?という疑問文を顔に張り付けて僕を見た。
奏多が隣で忍び笑いをしている。
「……だから、その、ロベールを見て燥ぐ奴らとかだよ」
「半々くらいはいるかな」
「…………」
むうっ。
やっぱいるんだ。
剥れる僕に、奏多がポンポンと肩を叩いた。
「じゃ、俺帰るから。……先生も、南をあんまヤキモチ焼かせないでね」
「は?」
「奏多!」
「じゃなー」
焦る僕をよそに、奏多は手を振り保健室を出て行った。
……まったく。
ちらりとロベールを見ると、どことなく嬉しそうな顔をしていた。
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