62 / 93
第五章
お似合いだろ?(奏多談)
しおりを挟む
「そろそろお昼休み終わるね」
壁に掛かっている時計を見て、奏多がつぶやいた。
「もう戻った方がいいな。帰り、待ってるからな」
「うん」
「じゃあね、先生」
「ああ、南をよろしくな」
「任せとけって、じゃなー」
「良かったなあ、南」
「え? 何が?」
保健室を出て渡り廊下を歩きながら、奏多がニコニコしながら話しかける。
「いやー、だってあれさ。ロベール先生、南にべたぼれって感じじゃん。過保護なのは南の体質から仕方ないけど、それを抜きにしても愛されてるよなー」
「そ、……そうかな」
「そうだよー」
笑いながら前を行く奏多の後ろで、僕は振り返って保健室の窓を見た。なんとなく、ロベールの気配を感じたいと思って。
……え?
一瞬、心臓がスッと冷えた。
一人だと思っていたあの部屋に、もう一人の影が見えたから。しかもあの感じは、例の上からで感じの悪いマクだった。
「…………」
あいつ、ロベールに昔助けてもらったからって言って、すごくロベールのこと気にかけていて……。
……好きなんだろうな。僕に対しても、なんだかちょっとヤな感じだし。
「おーい、どした? 南」
立ち止まる僕に気が付いて、奏多が戻って来た。そして僕の視線の先、保健室に目を向けた。
「アレ? あんな先生、居たっけ? ……すげえ綺麗な人だな。……あれ、男だよな」
「うん……。綺麗な人だよね」
ホント、二人で並ぶと嫌になるくらいの迫力だ。絵になるというか何というか……。僕と二人じゃ、あんな雰囲気なんて出せるわけないし。
「なんだ、南。ヤキモチ焼いてんの?」
「う……、べ、別に……」
「焼く必要なんてないだろー。ありゃ、全然似合ってないし」
然も当たり前のことを言っているという雰囲気で、さらっと奏多が言う。僕への励ましのつもりなのかもしれないけど、あまりにも突拍子の無い発言に苦笑いしか出ない。
「……似合ってんだろ。すさまじい美形同士だぞ?」
「そうかあ? 綺麗なもの同士がくっ付いていてもお互い相殺しあうだけだろ? その点、南は可愛いからロベール先生の美貌を際立たせているし、逆もそうだよな。南はさらに可愛く見えるし。すげーお似合いだと思うけど?」
「……可愛いって、あんま誉め言葉じゃない」
「わりー、わりぃ。でもお似合いなのは南の方だってのは譲らないからな」
ニッと笑ってそういう奏多に、ほんの少しだけ救われて僕らはそのまま教室へと急いだ。
だけど……、と思う。
こんなに頻繁にロベールに会いに来て、しかも好意を持っているのは明らかなんだ。
モヤモヤする気持ちは、やっぱり収まりそうには無かった。
壁に掛かっている時計を見て、奏多がつぶやいた。
「もう戻った方がいいな。帰り、待ってるからな」
「うん」
「じゃあね、先生」
「ああ、南をよろしくな」
「任せとけって、じゃなー」
「良かったなあ、南」
「え? 何が?」
保健室を出て渡り廊下を歩きながら、奏多がニコニコしながら話しかける。
「いやー、だってあれさ。ロベール先生、南にべたぼれって感じじゃん。過保護なのは南の体質から仕方ないけど、それを抜きにしても愛されてるよなー」
「そ、……そうかな」
「そうだよー」
笑いながら前を行く奏多の後ろで、僕は振り返って保健室の窓を見た。なんとなく、ロベールの気配を感じたいと思って。
……え?
一瞬、心臓がスッと冷えた。
一人だと思っていたあの部屋に、もう一人の影が見えたから。しかもあの感じは、例の上からで感じの悪いマクだった。
「…………」
あいつ、ロベールに昔助けてもらったからって言って、すごくロベールのこと気にかけていて……。
……好きなんだろうな。僕に対しても、なんだかちょっとヤな感じだし。
「おーい、どした? 南」
立ち止まる僕に気が付いて、奏多が戻って来た。そして僕の視線の先、保健室に目を向けた。
「アレ? あんな先生、居たっけ? ……すげえ綺麗な人だな。……あれ、男だよな」
「うん……。綺麗な人だよね」
ホント、二人で並ぶと嫌になるくらいの迫力だ。絵になるというか何というか……。僕と二人じゃ、あんな雰囲気なんて出せるわけないし。
「なんだ、南。ヤキモチ焼いてんの?」
「う……、べ、別に……」
「焼く必要なんてないだろー。ありゃ、全然似合ってないし」
然も当たり前のことを言っているという雰囲気で、さらっと奏多が言う。僕への励ましのつもりなのかもしれないけど、あまりにも突拍子の無い発言に苦笑いしか出ない。
「……似合ってんだろ。すさまじい美形同士だぞ?」
「そうかあ? 綺麗なもの同士がくっ付いていてもお互い相殺しあうだけだろ? その点、南は可愛いからロベール先生の美貌を際立たせているし、逆もそうだよな。南はさらに可愛く見えるし。すげーお似合いだと思うけど?」
「……可愛いって、あんま誉め言葉じゃない」
「わりー、わりぃ。でもお似合いなのは南の方だってのは譲らないからな」
ニッと笑ってそういう奏多に、ほんの少しだけ救われて僕らはそのまま教室へと急いだ。
だけど……、と思う。
こんなに頻繁にロベールに会いに来て、しかも好意を持っているのは明らかなんだ。
モヤモヤする気持ちは、やっぱり収まりそうには無かった。
1
お気に入りに追加
177
あなたにおすすめの小説
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
お客様と商品
あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)
【完結】僕の大事な魔王様
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。
「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」
魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。
俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/11……完結
2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位
2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位
2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位
2023/09/21……連載開始
[BL]デキソコナイ
明日葉 ゆゐ
BL
特別進学クラスの優等生の喫煙現場に遭遇してしまった校内一の問題児。見ていない振りをして立ち去ろうとするが、なぜか優等生に怪我を負わされ、手当てのために家に連れて行かれることに。決して交わることのなかった2人の不思議な関係が始まる。(別サイトに投稿していた作品になります)
最初から可愛いって思ってた?
コプラ
BL
マッチョの攻めから溺愛される可愛い受けが、戸惑いながらもそのまっすぐな愛情に溺れていく大学生カップルのBLストーリー。
男性ホルモンで出来た様なゼミ仲間の壬生君は、僕にとってはコンプレックを刺激される相手だった。童顔で中性的な事を自覚してる僕こと田中悠太はそんな壬生君と気が合って急接近。趣味の映画鑑賞を一緒にちょくちょくする様になっていた。ある日そんな二人の選んだ映画に影響されて、二人の距離が友達を超えて…?
★これはTwitterのお題でサクッと書いたミニストーリーを下地に作品にしてみました。
『吐息』『ゼロ距離』のお題で「事故でもそれは。」Twitter小話の中にあります。
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる