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第五章
コントロールなんて出来ないし
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僕の心配が杞憂だったのかと思うくらい、何事もなく時間が過ぎていった。
お昼休みになり、奏多と一緒に弁当持参で保健室へと向かう。
カラカラと扉を開けると、ロベールが笑って出迎えてくれた。
「悪いな、近江。南のボディガードになってもらって」
「気にしないでください。南の変態遭遇率の高さが異常だってことは、俺も知ってるし。今はロベール先生がいてくれてるから、俺としてはかなり安心してはいるんですけど。な?」
「え? う、うん……」
急に振られて驚いた。照れ臭かったけど事実なので、僕は素直にコクンと頷く。
「そうか……。悪いな。ほら、ココ座れ」
ロベールが折り畳みの椅子を二つ並べて、奏多にも座るよう促した。
「あーりがとうございます。……でも、俺お邪魔じゃないですか?」
「はあ? 何言ってんだよ!」
「邪魔なわけないが……」
と言いつつ、ロベールは何かを探るように顎に手を当て、視線を斜め下へと持っていく。
「まあ、大丈夫だろう。なにも用事がないならここで食ってけ」
「? はい、わかりました。じゃあ遠慮なく」
ロベールの仕草に少し違和感を覚えたようだったが、奏多は流した。然程大事なことだとは思わなかったんだろう。
でも多分あの仕草は、スノウの気配を探っていたんだと思う。もしもまたあいつが現れでもしたら、奏多を巻き込んでしまう事にもなりかねないから。
「そういえばそろそろ終業式だよね。春休み、デートとかするの?」
「あ、そっか! すっかり忘れてた!」
「ええ? 忘れてたの? 俺なんてだいぶ前からカレンダー眺めては、あと何日あと何日って、ワクワクしてたんだぞ」
「なに? もしかして礼美ちゃんとデートの約束してるから?」
「へへー♪ そ。あー、でも仮にも先生だから生徒と付き合ってるってことになると拙いのかな?」
「あ……、そうか……」
ブロッコリーを頬張り、もぐもぐしながら考える。
ロベールが人間じゃないから、うっかりしてたけど確かに拙いか。
「別に問題ないだろ。明日にでも南の家に下宿することになるんだから」
「え!? なに、南。先生と同棲するの!?」
「バ、バカ! 人聞きの悪いこと言うなよ。下宿だよ、下宿! ロベールが今住んでるアパートが取り壊しになるからって、……だからだよ!」
「へえー、そうなんだ。よかったねー」
「ん、……うん。とは言っても、まだ決まったわけじゃないけどね」
「へ?」
「今日南の家にお願いに行くことになってる。私としては、断られるなんてことはこれっぽっちも考えてはいないけどな」
「へえ……」
まあ、うん。僕もそう思うんだけどね。
ロベールの自信満々な言葉に、奏多は一瞬感心したような表情をした後、ニヤニヤと僕を見つめた。
「……何?」
「いやー、頼もしい彼氏だなあと思って」
「か……、奏多!」
揶揄うようなそのニヨニヨ顔やめて。ロベールも苦笑してるじゃないか!
ロベールと二人っきりじゃないからイチャイチャしたり甘えたりなんて出来ないけれど、今は奏多が作ってくれるのほほんとした空気が居心地よかった。
多分それって、僕に忍び寄っている嫌な気配のことを考えなくてもいい時間になっているからなのかもしれないね。
あ……、もしかしたらロベールもそう思って奏多と一緒にご飯を食べることを勧めたんだろうか? いつもなら、逆に二人きりになってエロいことしたがるはずなのに。
「南」
「え? 何?」
ロベールに呼ばれて顔を上げると、何とも言えない表情をしている。
……?なんだ?
「近江、悪いが少し向こうを向いててくれないか?」
「え!? な、何だよロベール!」
奏多がいるところで何する気?
そんな慌てふためく僕を横目にいやらしく口角を上げた奏多が、「いいですよ。向こう向いてます」と言ってくるりと向こうを向いてしまった。
「ちょっとロベ……」
「お前が悪い。……溢れ始めてる」
「え?」
なにそれ。もしかしてフェロモンとかいう奴?
「――少ない量だ。奴に変な気を起こさせないためにも私がいただいておく」
そう言って、ロベールが首筋に唇を寄せた。
密着し、甘い息が触れて背筋をぞくぞくと甘い痺れが走る。
「南――」
「ロ、ロベ……」
「これ以上溢れさせると、奏多のいる場で襲うぞ」
「!!!!!」
低ーい低ーい、地の底を這うような声で囁かれ、冷や水を浴びたように背筋が凍った。
「……消えたな」
「バ、バカッ!!」
「済んだの?」
「ああ、悪い。もういいぞ」
振り返った奏多は、真っ赤になって剥れる僕を見て小首を傾げていた。
お昼休みになり、奏多と一緒に弁当持参で保健室へと向かう。
カラカラと扉を開けると、ロベールが笑って出迎えてくれた。
「悪いな、近江。南のボディガードになってもらって」
「気にしないでください。南の変態遭遇率の高さが異常だってことは、俺も知ってるし。今はロベール先生がいてくれてるから、俺としてはかなり安心してはいるんですけど。な?」
「え? う、うん……」
急に振られて驚いた。照れ臭かったけど事実なので、僕は素直にコクンと頷く。
「そうか……。悪いな。ほら、ココ座れ」
ロベールが折り畳みの椅子を二つ並べて、奏多にも座るよう促した。
「あーりがとうございます。……でも、俺お邪魔じゃないですか?」
「はあ? 何言ってんだよ!」
「邪魔なわけないが……」
と言いつつ、ロベールは何かを探るように顎に手を当て、視線を斜め下へと持っていく。
「まあ、大丈夫だろう。なにも用事がないならここで食ってけ」
「? はい、わかりました。じゃあ遠慮なく」
ロベールの仕草に少し違和感を覚えたようだったが、奏多は流した。然程大事なことだとは思わなかったんだろう。
でも多分あの仕草は、スノウの気配を探っていたんだと思う。もしもまたあいつが現れでもしたら、奏多を巻き込んでしまう事にもなりかねないから。
「そういえばそろそろ終業式だよね。春休み、デートとかするの?」
「あ、そっか! すっかり忘れてた!」
「ええ? 忘れてたの? 俺なんてだいぶ前からカレンダー眺めては、あと何日あと何日って、ワクワクしてたんだぞ」
「なに? もしかして礼美ちゃんとデートの約束してるから?」
「へへー♪ そ。あー、でも仮にも先生だから生徒と付き合ってるってことになると拙いのかな?」
「あ……、そうか……」
ブロッコリーを頬張り、もぐもぐしながら考える。
ロベールが人間じゃないから、うっかりしてたけど確かに拙いか。
「別に問題ないだろ。明日にでも南の家に下宿することになるんだから」
「え!? なに、南。先生と同棲するの!?」
「バ、バカ! 人聞きの悪いこと言うなよ。下宿だよ、下宿! ロベールが今住んでるアパートが取り壊しになるからって、……だからだよ!」
「へえー、そうなんだ。よかったねー」
「ん、……うん。とは言っても、まだ決まったわけじゃないけどね」
「へ?」
「今日南の家にお願いに行くことになってる。私としては、断られるなんてことはこれっぽっちも考えてはいないけどな」
「へえ……」
まあ、うん。僕もそう思うんだけどね。
ロベールの自信満々な言葉に、奏多は一瞬感心したような表情をした後、ニヤニヤと僕を見つめた。
「……何?」
「いやー、頼もしい彼氏だなあと思って」
「か……、奏多!」
揶揄うようなそのニヨニヨ顔やめて。ロベールも苦笑してるじゃないか!
ロベールと二人っきりじゃないからイチャイチャしたり甘えたりなんて出来ないけれど、今は奏多が作ってくれるのほほんとした空気が居心地よかった。
多分それって、僕に忍び寄っている嫌な気配のことを考えなくてもいい時間になっているからなのかもしれないね。
あ……、もしかしたらロベールもそう思って奏多と一緒にご飯を食べることを勧めたんだろうか? いつもなら、逆に二人きりになってエロいことしたがるはずなのに。
「南」
「え? 何?」
ロベールに呼ばれて顔を上げると、何とも言えない表情をしている。
……?なんだ?
「近江、悪いが少し向こうを向いててくれないか?」
「え!? な、何だよロベール!」
奏多がいるところで何する気?
そんな慌てふためく僕を横目にいやらしく口角を上げた奏多が、「いいですよ。向こう向いてます」と言ってくるりと向こうを向いてしまった。
「ちょっとロベ……」
「お前が悪い。……溢れ始めてる」
「え?」
なにそれ。もしかしてフェロモンとかいう奴?
「――少ない量だ。奴に変な気を起こさせないためにも私がいただいておく」
そう言って、ロベールが首筋に唇を寄せた。
密着し、甘い息が触れて背筋をぞくぞくと甘い痺れが走る。
「南――」
「ロ、ロベ……」
「これ以上溢れさせると、奏多のいる場で襲うぞ」
「!!!!!」
低ーい低ーい、地の底を這うような声で囁かれ、冷や水を浴びたように背筋が凍った。
「……消えたな」
「バ、バカッ!!」
「済んだの?」
「ああ、悪い。もういいぞ」
振り返った奏多は、真っ赤になって剥れる僕を見て小首を傾げていた。
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