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第五章
不安は募っても
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翌朝、登校時は一人だ。
ロベールは『陰からしっかり見てるから安心しろ』と言いおいて、僕が顔を洗いに行く前に部屋を出て行ってしまった。
何か考えがあっての行動なんだろうけど、今の僕には一人で歩くことすら心許無くて仕方がない。
「南ー!」
いつもの明るく元気な声に振り返ると、奏多が手を振りながら駆け寄ってきた。
バックに陽の光を背負った姿が、今の僕には神様のようにありがたい。思わず両手を広げて奏多に走り寄り、子供のように抱き着いた。
「奏多ぁ、奏多ー」
「えええっ? 何、何どうしたの南?」
ぎゅううと抱き着いてぐりぐりする僕に、さすがの奏多も驚いている。こんな風にあからさまに甘えたことなんて、多分したことは無い。
「もしかして、また変態に遭った?」
「うん……」
「そっかー、いやな思いしたなあ。……大丈夫だったか? いやな目に遭った?」
「……大丈夫。ロベールが、追っ払ってくれた」
思い出すだけで虫唾が走る、あのスノウの目。
怖くて気持ちが悪くて、奏多にしがみつく手に力がこもった。
それを感じてか、奏多がポンポンと背中を宥めるように叩いた。
ああ、ホッとする。
ロベールとはまた違った感じなんだけど、奏多といると昔から安心できるんだ。多分それは、僕が心から信頼できる友達だからなんだろう。
奏多に甘えてちょっぴり気持ちが浮上した時、奏多が「あっ!」と小さく叫んで、抱き着く僕の腕を強めにパシパシ叩いた。
「南! ロベール先生、先生が来たよ!」
「え?」
促されて振り返り、ロベールの姿を確認した途端じわじわと体から余分な力が解れてくるのを感じた。
「おはよう、いい天気だな」
「おはようございます、ロベール先生。南がお待ちかねですよ」
そう言いながら奏多は、余分な力が抜けてぼーっとしている僕の体を離し、背中を押した。
「近江……、まあ、いいか。あまりあからさまにされると拙いだろうから、一応は言動に気を付けてくれよ?」
「大丈夫です。他に人がいる時は内緒にしてますから」
ロベールは奏多の言葉に軽く愛想笑いをした後、こちらに視線を向けた。
「南」
「……はい」
やっぱりどうしても元気の出ない僕の様子に苦笑して、ポンポンと軽く頭を撫でる。
「昨日も言った通り、大丈夫だから。そう心配するな」
「ん……」
三十センチほど離れたところにあるロベールの体。頭を撫でられるだけじゃなくて、ギュッて抱きしめられたいよ。
こんな往来で人目も憚らずに抱きしめてほしいだなんて、普段の僕では考えられない事なのに。不安で落ち込んでいるせいなのか、甘えたい気持ちに歯止めが利かない。
ドシンとぶつかるように抱き着いて、ぐりぐりと額を擦りつける。ギュギューとしがみつく僕の様子にロベールは一瞬びっくりしたようだったけど、その内小さく笑い体が小刻みに揺れた。
「可愛らしい奴だなあ……。大丈夫、大丈夫だから」
優しく耳元でそう囁いて、一瞬ギュッと力を込めて抱きしめてくれた。
ああ……、うん。安心した。
やっぱりロベールの体温が、一番僕を安心させてくれる。
そっと体を離し、僕の目を見たロベールが優しく笑った。
「少し、落ち着いたようだな」
「……ん。ごめん、心配かけて」
「いいさ。南のことを考えるのは嫌いじゃない」
「ロベール……」
優しくクシャリと頭を撫でて、ロベールは傍で見ていた奏多に声をかけた。
「近江、くれぐれも南を頼むな。私も南も、君のことを一番信頼しているから」
「え? お、おう! 任しとけ!」
僕らに真顔で見つめられて、奏多は一瞬目をぱちくりとさせた後、明るく朗らかに拳を握った。
ロベールは『陰からしっかり見てるから安心しろ』と言いおいて、僕が顔を洗いに行く前に部屋を出て行ってしまった。
何か考えがあっての行動なんだろうけど、今の僕には一人で歩くことすら心許無くて仕方がない。
「南ー!」
いつもの明るく元気な声に振り返ると、奏多が手を振りながら駆け寄ってきた。
バックに陽の光を背負った姿が、今の僕には神様のようにありがたい。思わず両手を広げて奏多に走り寄り、子供のように抱き着いた。
「奏多ぁ、奏多ー」
「えええっ? 何、何どうしたの南?」
ぎゅううと抱き着いてぐりぐりする僕に、さすがの奏多も驚いている。こんな風にあからさまに甘えたことなんて、多分したことは無い。
「もしかして、また変態に遭った?」
「うん……」
「そっかー、いやな思いしたなあ。……大丈夫だったか? いやな目に遭った?」
「……大丈夫。ロベールが、追っ払ってくれた」
思い出すだけで虫唾が走る、あのスノウの目。
怖くて気持ちが悪くて、奏多にしがみつく手に力がこもった。
それを感じてか、奏多がポンポンと背中を宥めるように叩いた。
ああ、ホッとする。
ロベールとはまた違った感じなんだけど、奏多といると昔から安心できるんだ。多分それは、僕が心から信頼できる友達だからなんだろう。
奏多に甘えてちょっぴり気持ちが浮上した時、奏多が「あっ!」と小さく叫んで、抱き着く僕の腕を強めにパシパシ叩いた。
「南! ロベール先生、先生が来たよ!」
「え?」
促されて振り返り、ロベールの姿を確認した途端じわじわと体から余分な力が解れてくるのを感じた。
「おはよう、いい天気だな」
「おはようございます、ロベール先生。南がお待ちかねですよ」
そう言いながら奏多は、余分な力が抜けてぼーっとしている僕の体を離し、背中を押した。
「近江……、まあ、いいか。あまりあからさまにされると拙いだろうから、一応は言動に気を付けてくれよ?」
「大丈夫です。他に人がいる時は内緒にしてますから」
ロベールは奏多の言葉に軽く愛想笑いをした後、こちらに視線を向けた。
「南」
「……はい」
やっぱりどうしても元気の出ない僕の様子に苦笑して、ポンポンと軽く頭を撫でる。
「昨日も言った通り、大丈夫だから。そう心配するな」
「ん……」
三十センチほど離れたところにあるロベールの体。頭を撫でられるだけじゃなくて、ギュッて抱きしめられたいよ。
こんな往来で人目も憚らずに抱きしめてほしいだなんて、普段の僕では考えられない事なのに。不安で落ち込んでいるせいなのか、甘えたい気持ちに歯止めが利かない。
ドシンとぶつかるように抱き着いて、ぐりぐりと額を擦りつける。ギュギューとしがみつく僕の様子にロベールは一瞬びっくりしたようだったけど、その内小さく笑い体が小刻みに揺れた。
「可愛らしい奴だなあ……。大丈夫、大丈夫だから」
優しく耳元でそう囁いて、一瞬ギュッと力を込めて抱きしめてくれた。
ああ……、うん。安心した。
やっぱりロベールの体温が、一番僕を安心させてくれる。
そっと体を離し、僕の目を見たロベールが優しく笑った。
「少し、落ち着いたようだな」
「……ん。ごめん、心配かけて」
「いいさ。南のことを考えるのは嫌いじゃない」
「ロベール……」
優しくクシャリと頭を撫でて、ロベールは傍で見ていた奏多に声をかけた。
「近江、くれぐれも南を頼むな。私も南も、君のことを一番信頼しているから」
「え? お、おう! 任しとけ!」
僕らに真顔で見つめられて、奏多は一瞬目をぱちくりとさせた後、明るく朗らかに拳を握った。
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