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第四章
気配 2
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教室に戻って席に着いた頃に、女子が急にざわめいた。
なんだ?と思って廊下を見ると、どういうわけかロベールが来ていてこちらを見ている。だけどその表情はなぜか硬い。いつもの余裕ある感じじゃない。
どうしたんだろう?
わずか二、三秒。僕に強い視線を浴びせた後、僕からふいっと視線を外して彼は小さくため息を吐いた。
「あれ? ロベール先生、どうされました?」
「ああ、いや。何でもないです。手が空いていたので、校内の見回りでもと思いまして」
「そうですか? ご苦労様です」
担任と軽い会話を交わした後、ロベールはそのまま廊下を歩いて行った。
あれって、僕に用事があったって事なのかな?
もしかしたらさっきの……、あの違和感のことで何か気付いたんだろうか?
おかげで、モヤモヤそわそわしながら授業を受ける羽目になり、僕の頭には先生の言葉は何一つ頭の中に入ってはこなかった。
「南ー、帰るだろ?」
「うん。でもその前に保健室寄っていい?」
「もちろん。……あ、もしかして俺邪魔か。先に帰ろっか」
「えっ? ……な、何言ってんだよ。邪魔とかないし……」
「んー、じゃあ一応一緒に保健室に行こう。それから先に帰るかどうか考えるよ」
ほらほら、と奏多に急かされてリュックを引っ提げる。視界の隅に笹山たちの姿が映ってちょっと気になったけど、今は他人の恋路の協力とかしている余裕はないので余計なことは考えないことにした。それに、日暮にしても誰かに協力してほしいてか、そんなことを望んでいるとは思えないしな。
保健室に行くと扉が開いていて話し声が聞こえてきた。
「ほら、もう放課後だ。熱も無いようだし家に帰りなさい」
「だぁかぁら~、まだ怠いんだってばー。……先生が構ってくれたらよくなるかもよ?」
「君ね、さっきからそんなことばかり言って――」
「…………」
「…………」
どう考えても誘惑真っ最中だろ! と、突っ込みたくなる会話に、奏多と二人顔を見合わす。もちろん僕の機嫌は急降下だ。むすっとする僕を横目に、奏多が保健室に足を踏み入れた。
「ロベール先生ー、腹痛いー」
ずかずかと入り込む奏多に、ロベールに抱き着こうとしていた女子が固まる。
「アレ? 先生誘惑されてる真っ最中?」
きょとーんとした表情を演出してしれっと確信を突く奏多の言葉に、その女子は慌ててロベールから飛びのいた。顔面蒼白だ。
「バ……、バカッ! 何言ってんのよ、あんた。じ、じゃあね、私帰るから!」
「ああ、お大事に」
バタバタと保健室を出ていく女子を見送って、視線をロベールに向けた。ロベールもこちらを見ていて、視線がかち合う。
一瞬意味深な視線をよこした後、パッと表情を変えた。
「よく来たな。近江は腹を壊しているのか?」
「まさかー。先生が困っているかと思って咄嗟に出た嘘なんだけど」
「なんだ、そうか。気を遣わせたな」
「いいーえ。……じゃ、俺やっぱ先に帰るわ」
ロベールに向けていた視線を僕によこして、奏多は鞄を手に取った。
「えっ、何だよ急に!」
「いいから、いいから」
奏多はポンポンと僕の肩を叩き、「俺がいると話できないだろ?」と囁いて、「失礼しまーす」と言い保健室を出て行った。
……全く、変な気、遣いやがって。
顔を上げると、いつもと違う雰囲気のロベールが真顔でこちらを見ていた。
なんだ?と思って廊下を見ると、どういうわけかロベールが来ていてこちらを見ている。だけどその表情はなぜか硬い。いつもの余裕ある感じじゃない。
どうしたんだろう?
わずか二、三秒。僕に強い視線を浴びせた後、僕からふいっと視線を外して彼は小さくため息を吐いた。
「あれ? ロベール先生、どうされました?」
「ああ、いや。何でもないです。手が空いていたので、校内の見回りでもと思いまして」
「そうですか? ご苦労様です」
担任と軽い会話を交わした後、ロベールはそのまま廊下を歩いて行った。
あれって、僕に用事があったって事なのかな?
もしかしたらさっきの……、あの違和感のことで何か気付いたんだろうか?
おかげで、モヤモヤそわそわしながら授業を受ける羽目になり、僕の頭には先生の言葉は何一つ頭の中に入ってはこなかった。
「南ー、帰るだろ?」
「うん。でもその前に保健室寄っていい?」
「もちろん。……あ、もしかして俺邪魔か。先に帰ろっか」
「えっ? ……な、何言ってんだよ。邪魔とかないし……」
「んー、じゃあ一応一緒に保健室に行こう。それから先に帰るかどうか考えるよ」
ほらほら、と奏多に急かされてリュックを引っ提げる。視界の隅に笹山たちの姿が映ってちょっと気になったけど、今は他人の恋路の協力とかしている余裕はないので余計なことは考えないことにした。それに、日暮にしても誰かに協力してほしいてか、そんなことを望んでいるとは思えないしな。
保健室に行くと扉が開いていて話し声が聞こえてきた。
「ほら、もう放課後だ。熱も無いようだし家に帰りなさい」
「だぁかぁら~、まだ怠いんだってばー。……先生が構ってくれたらよくなるかもよ?」
「君ね、さっきからそんなことばかり言って――」
「…………」
「…………」
どう考えても誘惑真っ最中だろ! と、突っ込みたくなる会話に、奏多と二人顔を見合わす。もちろん僕の機嫌は急降下だ。むすっとする僕を横目に、奏多が保健室に足を踏み入れた。
「ロベール先生ー、腹痛いー」
ずかずかと入り込む奏多に、ロベールに抱き着こうとしていた女子が固まる。
「アレ? 先生誘惑されてる真っ最中?」
きょとーんとした表情を演出してしれっと確信を突く奏多の言葉に、その女子は慌ててロベールから飛びのいた。顔面蒼白だ。
「バ……、バカッ! 何言ってんのよ、あんた。じ、じゃあね、私帰るから!」
「ああ、お大事に」
バタバタと保健室を出ていく女子を見送って、視線をロベールに向けた。ロベールもこちらを見ていて、視線がかち合う。
一瞬意味深な視線をよこした後、パッと表情を変えた。
「よく来たな。近江は腹を壊しているのか?」
「まさかー。先生が困っているかと思って咄嗟に出た嘘なんだけど」
「なんだ、そうか。気を遣わせたな」
「いいーえ。……じゃ、俺やっぱ先に帰るわ」
ロベールに向けていた視線を僕によこして、奏多は鞄を手に取った。
「えっ、何だよ急に!」
「いいから、いいから」
奏多はポンポンと僕の肩を叩き、「俺がいると話できないだろ?」と囁いて、「失礼しまーす」と言い保健室を出て行った。
……全く、変な気、遣いやがって。
顔を上げると、いつもと違う雰囲気のロベールが真顔でこちらを見ていた。
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