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第四章

一応勉強しています

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ロベールの暖かな体温に包まれて、ずっとうとうととしていた。夢心地な気分が気持ちよくて、ずーっとこのままでいられたら幸せなのにって、そんなことを考えながら。

でももちろん、現実はそう甘くはなかった。

「南、そろそろ時間だ」
「……うん」

「南」
「……ん~」
「南!」
「…………」

「……しょうがない奴だな」

くにっ。
ビクン!
くに、くに。
ビクビクッ!

「ロ……、ロベッ……! あっ!」

服の上からロベールが、僕の胸の粒を捏ねるように指で押しつぶしている。おかげで勝手に体が恥ずかしい反応をしちゃってる。

止めてよ! 変な起こし方しないで!

「……っ、バ、バカ!」
「一石二鳥の起こし方だろ?」
「なんだよ、それ」
「うん? 私は南の可愛い顔を見て楽しめるし、南は気持ちよくなれただろ?」
「~~~~!」

もうっ、なんでそんな恥ずかしいこと言うんだよっ!
膨れっ面をして涙目でにらんだ。だけどロベールは、ちっとも気になんかしていないようだ。

時計を確認すると、一時を回ったところだった。そういえばそろそろお腹も空いてきたし、昼ご飯の時間だ。
僕は一旦下に降りてご飯を食べ、そして部屋に戻る。ロベールはやっぱり特に食事は必要ないからと言ったけど、コロッケが余分にあったからそれをくすねて食パンで挟み、こっそりと部屋に持ち帰った。

ロベールは何に興味を示したのか、僕の教科書やらノートやらをぺらぺらと捲り眺めていた。

「食事は済んだか?」
「うん。これあげる」
「え? ああ、悪いな。気にすることなかったのに」
「だってさ……」
食べないとお腹空くじゃん。

「ふっ……、ありがとう。じゃあ遠慮なくいただく」
「うん」

笑って素直に食べ始めたロベールにホッとした。一応美味しそうに食べてくれているから、この食事に意味がないわけじゃ無さそうだよな?

「……ああ、南。悪かった。ほら、座れよ。するんだろ? 試験勉強」
「……するけどさ」

僕が立ってロベールの食べているところを見ていることに、自分が席を占領しているせいで邪魔をしていると思ったのか、ロベールは席を立って僕に座るように促した。

……別に急ぐことないのに。

勉強なんてあんまりしたくない僕はぐずぐずと鞄に近寄り、英語の教科書と辞書を取り出した。

「ああ、今度は英語か」
「英語、喋れる?」
「喋れないことはないが、お前、それはどのくらいのレベルで理解してるんだ?」
「え……?」

真正面からの問いに、つい僕の目が泳いだ。その僕の様子を見て、ロベールが目を眇める。

あ、今小馬鹿にしたな!
どうせ僕は頭悪いよ!

「なに膨れてる。怒る暇が合ったら単語くらい調べろ」
「……分かってるよ」

ぶつぶつ文句を言いながら、教科書をめくり英文をざっと眺める。なんと訳していいのか分からない熟語らしきものが出てきたので辞書で調べた。

え~っと、何だこれ。one by one? ……一人ずつ。ふうーん。
次は、と……。

一通り主な範囲内とされている文章の中で、分からない単語をピックアップ続けるも、だんだんとその作業に飽きてくる。凝った肩に嫌気がさして首を回して顔を上げたら、ベッドに俯せになって眠るロベールの姿が視界に入った。

穏やかな表情で寝入る姿にしばし見惚れて、……やっぱり疲れてるんだなって思った。

そっと近寄って、その綺麗な顔を間近で見た。柔らかな髪に手を伸ばし、そっと撫でてみる。
愛しさが、心の底からあふれ出した。

不思議。好きって気持ちはすごく幸せな気持ちにさせてくれるね。
暖かな気持ちに満たされて、なんだか泣きたくなってくるよ。

そっとロベールの背中を包み込むように腕を広げた。温かな体温が伝わってくる。

「……温かいな」
「え? あ、ごめん。起こしちゃった?」
「いい」

パッと体を離そうとしたら、ロベールの手が僕の腕を掴んだ。

「……南のフェロモンは心地いい。お前のそれに包まれると、癒される。無意識に匂い立つときは質が悪いが」
「ロベール……」

ロベールを癒して翻弄するだけなら願ったり叶ったりなんだけど、でも昨夜の気持ちの悪いものまで惹きつけるのは嫌だな……。

「大丈夫だ。誰にもちょっかいなんて掛けさせないから」

敏いロベールは僕の表情から心を読み取ったみたいだ。ロベールは僕を引き寄せて、チュッと軽く唇を啄んだ。
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