フェロモン? そんなの僕知りません!!

くるむ

文字の大きさ
上 下
37 / 93
第四章

使い魔の狙い

しおりを挟む

《ヤット、ヨンデクレタネ》
《マッテイタゾ、クロイノ》

(えっ……?)

 ハッと目を開く。
 飛び込んできたのは、色とりどりに輝く光の玉たちだった。

《ドウシテボクラヲヨバナカッタノ、クロイコ》

 
爽やかな緑の光を放ってくるくる飛び回るのは、風のヴェントス。こんなときだというのに、ものの言い方も態度もなぜか無邪気だ。

《ソウダゾー、マッテタンダゾー、オレタチ!》

 のんびり口調で言う茶色い光は土のソロ。

《ソナタガヨンデクレタナラ、イツデモトンデキテヤッタノダゾ? ワタシタチハ》

 ほんの少しだけ恨みがましく残念そうなのは黄金色の金のメタリクム。

《ソンナニワレラハ、タヨリナイノカ?》
《あ。そ、そんなことっ! ご、ごめんなさい……》
《イヤイヤ。イインダヨ》

 とりなしてくれたのは、どうやら青い光を放つ水のアクアらしかった。

《ジブンデガンバルノ、エライヨ。サイショカラ、ボクラヲタヨルヨリ、ズーットイイノサ》
《……ン。ソレモソッカ》
《ダナー》
《……ナルホド》

「精霊さまがたのおっしゃる通りだ、シディ。人は自分がやれるところまではやらねばならない。人事を尽くしてこそ道は開けるのだから」
《えっ。インテス様、精霊さまたちの声、聞こえるんですか?》
「ああ。普段はぼんやりとしか感じないが……どうもそなたといると、感覚が明瞭になるようなんだ」

 なるほど、そんなこともあるのか。

《オシャベリシテルヒマ、ナイヨ?》
《サラガ、マタ、チカラヲマシタナ》
《えっ》

 見れば精霊たちの言うとおり、《皿》はますます反発を強め、今にも《光る網》を消しとばしそうなまでに膨張していた。

《ソウダナ。ハヤクトリカカルトイタソウ》

 四色の光は一度パッと散開すると、すぐに反転し、一斉にシディに向かってきた。

《えっ? あ、あのっ》
《シンパイシナイデ》
《イチド、オマエノナカニハイルンダ》
《えっ、えっ……? オレの中に……?》
《ソナタノカラダノナカデ、マリョクヲマゼアワセル。ソウシテ、ゾウフクサセルノダ!》
《増幅……》

 なるほど。
 どうやら、かれらの魔力を一旦シディの中で馴染ませる過程が必要らしい。

《ダカラ、トジナイデ、クロイコ》
《コワガラナイデ、ココロヲヒライテ》
《オレタチヲ、ウケイレルンダ!》
《は……はいっ》

 返事をしたとたん、目もくらむようなまばゆい光が全身を包み、凄まじい魔力が流れ込んできた。体全体が熱く燃え上がり、光り輝く感覚。
 あまりの衝撃で、シディは一瞬、気が遠くなりかけた。
 「シディ、しっかり!」というインテス様の声が届かなければ、あやうく失神する手前だった。

《ダイジョウブ?》
《シッカリスルンダ、クロイノ》
《ソナタガキヲウシナッテハ、モトモコモナイゾ》
《は……はい》

 そうは言ったが、くらくらする。全身の細胞が蒸発してしまうのではないかと思うほどの衝撃。

(なんだ……この魔力は!)

 なんという力強さ。そして、量。
 それが一気に自分ごときの器に流れこんできている。自分という「器」の表面が、恐ろしいほど薄く感じられて心細い。あまりの魔力の圧力で、今にもパリンと粉々になってしまいそうだ。ともすれば、自分が自分であるという認識すら手放してしまいそうになる。
 気がつくと、背中のインテス様もひどく苦しそうになさっていた。

《だいじょうぶ、ですかっ……インテス、さまっ……》
「……私のことは心配するな、シディ。集中するんだ。ほかのことはいい」
《でもっ……》
「いいから。自分自身に集中してくれ。シディ!」
《……は、はいっ……》

 そんなギリギリのこちらの状態とは裏腹に、精霊さまたちの暢気のんきそうな会話が耳に届く。

《ソウイエバアイツ、コナイノ? コンナトキニ》
《ナンダ。マダヘソヲマゲテイルノカ、アヤツハ》
《ソウラシイネー》
《ナニヲソンナニスネテルンダ? シカタガナイダロウ》
《ソウソウ。ヤツガアンマリアバレルト、ニンゲンハコマルンダカラヨ》
《ソウナンダヨネー》

 いったい何の話だろう、と思考することすら難しかった。
 シディは自分が自分であることを維持するだけで精一杯だったのだ。体内で暴れまわる魔力の奔流は、それほど凄まじいものだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

ルピナスの花束

キザキ ケイ
BL
王宮の片隅に立つ図書塔。そこに勤める司書のハロルドは、変わった能力を持っていることを隠して生活していた。 ある日、片想いをしていた騎士ルーファスから呼び出され、告白を受ける。本来なら嬉しいはずの出来事だが、ハロルドは能力によって「ルーファスが罰ゲームで自分に告白してきた」ということを知ってしまう。 想う相手に嘘の告白をされたことへの意趣返しとして、了承の返事をしたハロルドは、なぜかルーファスと本物の恋人同士になってしまい───。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

つまりは相思相愛

nano ひにゃ
BL
ご主人様にイかないように命令された僕はおもちゃの刺激にただ耐えるばかり。 限界まで耐えさせられた後、抱かれるのだが、それもまたしつこく、僕はもう僕でいられない。 とことん甘やかしたいご主人様は目的達成のために僕を追い詰めるだけの短い話です。 最初からR表現です、ご注意ください。

処理中です...