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第三章

保健室の恋人(バカップルw)たち

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「もう……っ、バカ」

やっと唇を離してくれたロベールに涙目で文句を言っても、どうやらあまり効果は無いようだ。やけにニヤニヤと嬉しそうだ。
ロベールは機嫌のいいまま僕の肩を引き寄せて、僕に凭れ掛かるよう促す。

……あんまり時間無いんだけど、五分くらいならいいかな。

「あ……」
「ん?」

急に思い出してしまった。今朝あった、上から目線のあの威圧的な天界人。

「今朝の、すっげ綺麗で威圧的な天界人、あの人どうした? 帰ったの?」
「ああ、マクグラスのことか。あいつならとっくに帰った。気にすんな」
「…………」

気にすんなって言われて、素直に気にしないなんてとてもじゃないけど言えない。
だってあの人、ロベールのこといやに気に入ってたじゃないか。しかも僕のこと値踏みしてさ。……確かにあいつ、綺麗だし迫力あるし頭も良さそうだったけどさ、すっげ性格悪そうじゃん。

唇尖らせて心の中でぐちぐち文句を言っていると、目の前に綺麗な顔がひょいと現れた。

「どうした? ヤキモチ焼いてんのか?」

「――だって……、だってあの人ロベールのこと気に入ってたみたいじゃない。……あっ、もしかしてあの人なの? 前に言ってた魔力を使って見つかったら面倒だって言ってた人って」

「……まあ、そうだ」
「なんで? そういえばどうして悪魔と天界人が知り合いだったりするの? 普通、敵対している相手だよね?」
「まあな」
「…………」

いつになく口の重いロベールの様子が気になる。探るように見つめ続けていると、軽くため息を吐かれた。

「……前に、私が気紛れであいつを助けたことがあるんだ」
「助けた? どう言う事?」

「何があったのかは知らないが、すごい雪の日にマクグラスが怪我をして倒れているところを発見したんだ。いったんはそのまま通り過ぎたんだが、なんだかやけにあいつの白い羽が目に焼き付いてな……。気が付いたら近くの小屋に運んで火を起こしてやっていた」

「それって、ロベールが助けてなかったらそのマク……、何とかって人、死んでたってこと?」
「おそらくな」
「そうなんだ……。あっ!」
前に言ってた、魔界を追放されたってそのせいなのか?
その天界人の……、せい?

「何?」
「あ、うん。だからあのマク何とかって人、ロベールのこと気に入っているんだね?」

浮かんだのはそのことじゃなかったけど、なんとなくそれをロベールには言いたくなくて咄嗟にごまかした。そう言うと、ロベールの顔が嫌そうに歪む。

「気に入っているというよりは、変な恩義を感じているらしい。鬱陶しいから気にするなと言っているのに、私を探し出しては監視したがってうざいったらない」
「…………」

やっぱりそれって、気に入ってるっていうんじゃないの?

「なんだ? まだ何か気になるのか?」
「だって……。マク……、上からだし綺麗だし迫力あるし……」

それでもってロベールのことが好きなのだとしたら、どう戦っていけばいいんだよ……。

「おーまーえー!」

ビシッ!
「いたっ!」

ロベールが僕の額を人差し指でツンと小突いた。突然だったので本気でびっくりした。

「私の気持ちをないがしろにするな。……こんなに溺れたのは初めてなんだぞ。誰が南を手放すかよ」
「ロベール……」

ああ、もう狡い。そんな綺麗な顔で、そんな風に優しく見つめられたらこれ以上剥れることなんてできないじゃないか。

「……今日も、一緒に帰るよね?」
「ああ、言ったろ?」
「うん。……勉強会終わったら、保健室に呼びに行くね」
「――ああ。昨日の、アレな?」

ロベールのため息に、やっぱり笹山たちを警戒しているのが見て取れて苦笑いがこぼれる。

「うん。じゃあもう行くね。みんな待ってるだろうから」
「そうだな。――南」

チュッ。

「/////」

呼ばれてひょいっと顔を上げたら、ロベールに可愛いバードキスをされた。
もう~。

パチン。
「いたっ!」

せっかく幸せな気分になっていたのに、今度はほっぺを叩かれた。なぜか結構強めだったので幸せが半分くらい吹き飛ぶ。

「なんだよ、もう!」
「変態防止だ」
「……へ?」
「南は可愛すぎる。ただでさえお前はヤバいフェロモンが出やすいのに、そんな顔で私のいないオオカミの元へ行くのは拙い」
「オオカミって……」

だったら、キスなんてしなきゃいいのに。
いや……、うれしくないわけじゃ……無いけどさ。

「じゃ……、行くね」
「ああ、またあとでな」
「うん」

ロベールの手を名残惜しく触りながら、保健室の扉を開けた。

「じゃ、行ってきます」

手を振り見送るロベールを残して、僕はまた教室へと全力疾走をした。
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