フェロモン? そんなの僕知りません!!

くるむ

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第二章

居残り勉強

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放課後になって、僕は笹山との約束通り奏多と一緒に勉強を教えるために教室に残った。

「で? 教えて欲しいのって、なに?」
「うん、数学。俺、微分、積分、確率分布ってなんだよって感じだから」
「……あー」
「それは俺らも似たり寄ったりだよなぁ」
「まあ、でも、一応勉強はしないといけないから……」

教科書を広げノートを出して、とりあえず理解する努力だけはすることにした。

「確率変数xの確率密度関数f(x)が……、あ~問題文読むだけで嫌になる……」
「とりあえず、ノート見てみようぜ。この例題と付き合わせて……」

僕も眉間にしわを寄せて唸っているけど、笹山もどうやら真面目に勉強したいと思っているのは間違いないらしい。三人で、ああだこうだと一生懸命理解しようと奮闘した。

「なんだ、居残り勉強してんの?」

突然の背後からの声に振り返ると、天の助けというのだろうか、委員長の日暮が立っていた。

「あ、日暮! ちょうどいい。ここ教えてよ。日暮なら簡単だろ?」

もう頭の中がぐじゃぐじゃになっていた僕は、思わずそう返事を返していた。それに静かに微笑んだ日暮は、僕らの下にゆっくりと近づいて来た。

「いいよ。甘木の頼みなら」
「おい、こんな奴に頼むのかよ」

日暮がせっかく了承してくれたというのに、笹山はあからさまに嫌な顔を作った。

……? そんなに日暮のことが嫌いなのか?

「だってさ、僕らじゃちっとも先に進めないじゃないか。クラスで一番頭の良い奴に頼んだ方が効率いいいだろ?」
「……かもしれないけどさぁ」
「じゃあ、決まり! 日暮、これ教えてよ。自慢じゃないけど僕ら、これあんまり理解してないんだよな」

教科書の問題文を指して、日暮に教えを請うた。なんだか知らないけど、未だに日暮を睨み続けている笹山に苦笑しながらも、日暮は僕らに分かりやすいようにと丁寧にかみ砕いて教えてくれた。


「うっわー、スッゲ―! 俺、ここまで理解できたの初めてかも!」
奏多が感嘆の声を上げる隣で、僕も盛大に頷いていた。

「な? 日暮に頼んでよかっただろ?」
「……まあな」

凄く不本意と言った表情をしたままだけど、笹山も渋々頷いた。本当に、日暮の教えは上手かった。

「でも俺は大した事してないよ。みんなの呑み込みが良かったからで」
「うわー、謙遜してるよ。なあなあ、また教えてもらってもいい?」
「おい、近江」

奏多が日暮に頼んでいるのを聞いて、笹山が非難の声を上げた。

「なんだよ、いいじゃん、いいじゃん。日暮教え方上手いし、笹山だって認めてんだろ?」
「……それは、だけどさ……」

ムスッと返事を返した笹山は、なぜか僕の方をチラリと見た。

「……? 僕も奏多の意見には賛成だよ。だって、僕らじゃどうあがいてもさっきの問題解けてないだろ」
「俺は、構わないよ。復習も出来るから一石二鳥だし」

「じゃ、お願いしまーす!」

奏多と二人で元気よくお願いした。隣では、笹山が「しょーがねぇな」と苦虫をかみつぶしたような表情をしている。どうやら本当に気に入らないみたいだ。

「こちらこそ、よろしく」

日暮は静かにニッコリと微笑んだ。

本当に、日暮って性格いいんだな。あんなに笹山に嫌な顔されてるのに、ちっとも気にも留めずに流せるなんて大人と言うかさすがと言うか……。

「じゃあ、そろそろ帰ろうか」

奏多が鞄を手にしたと同時に、みんなそれぞれ帰り支度を始めた。
教室を閉めてすっかり暗くなった廊下を歩く。四人でぞろぞろ歩いていたら、向こうの方からロベールが歩いて来た。

「あれ、ロベール先生」
気づいた奏多が声を上げた。

「やあ、今帰りか?」
「はい、そうです。先生も?」
「ああ」

ロベールはチラリと日暮と笹山に視線を向けて、ほんの一瞬目を細めた。その表情はヒヤッとするような冷めたものだった。

……?
なんなんだろう。

「私も一緒に帰ってもいいかい?」
「はい、もちろんですよ。な、南?」
「は、はいっ」

頷く僕の隣で、日暮は相変わらず静かに微笑んでいた。
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