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第一章

認めるしかないじゃないか

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「ふ……、んっ……」

キュッとロベールの舌が、何度も何度も強く弱く僕の舌に甘く絡まる。
僕はただただロベールの甘い口中の愛撫を受け入れるだけだ。でも、翻弄されるのが心許なくて、ロベールのシャツをギュッと握る。

「南……」

唇をそっと離したロベールが、僕の頬を撫でながら、かすれた声で僕を呼んだ。

ゾクンと下腹部に甘い疼きが走る。

「お前……、本当に私のモノになれよ」

トクンッ。

トクン、トクン、トクン……。

ま、また……っ。
なんだよ、もうっ!

これはもう、認めるしかないじゃないか……っ。

「……ってたじゃん」
「――なに?」
「ぼ……、僕はロベールのモノだからって、僕らにそう言ってたじゃないか……っ。なに……、今更」
「――真剣に好きだからだ。南も……、私のことを好きだよな?」
「……っ」

カーッと顔が一気に熱くなった。
心臓がドキドキバクバクといっそう煩くなる。

そう……だよ。だって……。

キスをされても気持ち悪くない。(それどころか気持ちよすぎるし!)
抱きしめられても嫌悪感ない。(それどころかもっとそのままでって思っちゃう!)
変態チックな事をされても許しちゃう。(それどころか……以下自粛;)

チラッとロベールの顔を窺うと、ロベールは真剣な表情で僕を見ている。
僕は手を伸ばして、ロベールの袖口をキュッと掴んだ。

「そ……う、だよ。好きになっちゃってるよ……っ! 何でだかわかんないよ、こんな変態なのに!」
「変態じゃないだろう? みんな愛ある行為だ。それに――」
「……え?」
「好きになってしまったから……、本気だから随分我慢している。――そうじゃなきゃ、お前……。もっと私に色々とされているぞ?」
「……え?」

色っぽく眇められた瞳に、背筋をザワザワッと寒気のようなものが駆け上がる。小さな子猫が、大きなライオンに餌認定されてしまったような気分とでもいうのだろうか。
……正直怖い。

「…………」

僕もしかしたら、とんでもない奴を好きになっちゃったとか……?

ポフン。
ロベールの掌が、僕の頭に優しく乗っかった。

「そう怯えた顔をするな。大丈夫だ。ゆっくり段階を踏んで行ってやるから。……南に嫌われるようなことはしないよ」
「ロベール……」

優しい掌の感触と優しいその声音が僕にロベールの本気さを伝えてくれて、僕は心底ホッとした。
そんなあからさまにホッとする僕を見て、ロベールが苦笑する。

「……まったくなあ。私も他人のことは言えないってことだ」
「……え?」
「ん? ああ、いや。……昔の知り合いに、朔也って奴がいたんだがな……、そいつが恋人のことをすごく溺愛していてさ。こいつがまた随分と……、と、ヤバイな。そろそろ時間が無いか。南――」

「え?」
「南からキスしろ。それで礼としといてやる」
「ええっ!? ぼ、僕からっ?」
「そうだ。――? なにそんなに驚いてる?」

不思議そうな顔で僕を見るロベールに、なんだかすごくムッとした。ムッとして膨れっ面になっていく。
そりゃあ、きっとロベールはモテるだろうし大人だからキスの一つや二つ当たり前のようにいろんな人に仕掛けて来たんだろうけど、僕は……、僕はこれが初恋なんだからな!

無言で真っ赤になって睨み続ける僕を見て、きっとロベールは僕が言いたいことを理解したんだろう。不思議そうに僕を見ていたその顔は一変し、代わりに少しうれしそうな顔をした。

「南」
「……なんだよ」
「過去は変えられないが、これから先は南以外の奴とそういう真似はしない。絶対だ」
「…………」
「南……」

低く、甘い声音で僕を呼ぶ。

狡い。
本当に狡いよ。
でももうこうなったら、腹を括るしかない。

「……目、閉じてよ」
「ふっ……。分かった。――これでいいか?」

長い睫毛をばさりと閉じて、冷たく怪しい瞳が隠された。

こうやって見てみると、ロベールの顔は本当に綺麗に整っている。
シャープ過ぎない顎のラインも、スッと通った鼻筋も……、それに……。

それに官能的で、形のいい唇も……。

震える手のひらをロベールの腕にそっと添えて、背伸びをしてロベールの唇に、そっと自分の唇を触れ合わせた。
ほんの一瞬。だけど今の僕には、これが精いっぱいだ。

……ふうっ。

力を抜いてかかとを下ろしてホッと一息吐いていたら、突然腕を引き寄せられて噛みつくようなキスをされた。

うわわ、なに? なに!?
授業戻らなきゃいけないから、僕からのキスで勘弁してくれるんじゃなかったのーーーー!?

もがもがジタバタする僕を余所に、ロベールはさんざん深いキスを貪った後その唇を首筋にまで下降してきた。


必死で、ホント――――に必死で大暴れしてやっとロベールから解放された時には、既に授業開始から五分を経過していたのだった(怒)
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