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第一章

都合のいい記憶操作

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そのまま三人で登校していると、同じ学校の人たちが通りすがりにロベールに挨拶をしていく。

「ロベール先生、おはようございます」
「おはよう」
「おはようございまーす」
「ああ、おはよう」

「…………」

ロベールに挨拶していく人の波が途切れ、奏多がすれ違う誰かと話をしている隙を狙ってロベールの袖を引っ張った。

「なあ」
「なんだ?」
「なんでみんな既にロベールの顔知ってんだよ? たかが保健医に変じゃないか」
「――ああ、教師だけを選別して暗示にかけるのが面倒くさかったから、この学校に常時いるみんなに暗示を掛けといたんだよ」
「…………」

それにしても、みんな(特に女子が)ヤケにキラキラした目でロベールを見ていくよな。あいつら絶対、あとで仮病使って保健室になだれ込むだろ。

そう想像したら、なんだかすごくモヤモヤしてきた。

「…………」

だって、こいつ絶対エロいの好きだし、かわいい子に言い寄られたら美味しくいただいちゃいそうじゃないか。
ムウウ~。

「おい」
プスッ。

ついついふくれっ面を作っていた僕の頬を、ロベールが横から指でぷすっと潰す。

「なんて顔してるんだ。……変なこと考えてるんじゃないだろうな?」
「へ……、変なことってなんだよ!」

図星を刺されると、人は動揺する生き物だ。まさに今の僕もそういう訳で、カッとして真っ赤になり、噛みつくようにロベールに反撃した。
そんな僕の表情を見て、ロベールは片眉を上げ薄く笑う。

「まあいい。大体想像は付くが……、近江、南のことを頼んだぞ」
「はい、任せてください」

どうやら奏多は、完璧にロベールの記憶操作に掛かってしまっているようだ。先ほどまでの警戒心はすっかりなくなり、笑顔で彼に対峙していた。

「じゃあ、またな」

ロベールは僕にとんでもなく色っぽく微笑んだ後、片手を上げて職員室の方へと歩いて行った。その周りを、あちらこちらから女子たちが集まり、わらわらとロベールの周りを取り囲んでいく。

「…………」

やっぱりなんだかおもしろくない。
むうっと頬を膨らませる僕に、キョトンとした顔で奏多が見つめる。

「保健の先生と喧嘩でもしたの?」
「え! う、ううん。何もないよ!」
「そうなのか? ……でも、ロベール先生いい人だよね」
「……え?」

……なんだ?
いったいロベールに、どういう記憶を植え付けられたんだ?

「だって、南が襲われそうなところを撃退してくれたじゃないか。その後颯爽とかっこよく去って行ったりしてさ、紳士な良い先生で良かったよなー」
「…………」

……助けてくれたのは事実だけど、後半違うから。
キスされたしエロかったし……。

いや、もちろん言う気は無いけどね。

「急ごう、南。遅刻しちゃうよ」
「あ、そうだね。行こう」

奏多と二人で早歩きに歩いて、僕らはギリギリ教室へと滑り込んだ。
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