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番外編
君にメリークリスマス♪♪♪
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腹いっぱいになって、楽しい時間を過ごした後、そろそろお暇しようかという事になる。礼人は俺らとイルミネーションを見に行くからと言って、一緒に家を出た。
「じゃあ、俺たちはここで」
寒い寒いと剛先輩の腕に抱きついた千佳が、白い息を吐きながら小さく手を振る。
「ああ、今日は、その……。ありがとな」
言いにくそうに頭を掻きながら、礼人が千佳にお礼を言っている。
そっか。
やっぱり千佳のあれって、2人の背中をちゃんと押してあげれてたんだな。
明るくて屈託の無い千佳だから出来る、素敵な配慮だ。きっと当の本人は、力まずに普通にやれている事なんだろう。
俺も随分と救われてきたその優しさが、単純にうれしく思えてならない。
「じゃあな、工藤。剛先輩も!」
陸が手を上げて、2人だけのクリスマスを過ごそうと去っていく2人に声を掛けた。
「おう、お前らも楽しんでな」
「じゃあね、みんな」
「メリークリスマス!」
去っていく2人に、俺も手を振って声を掛けた。俺の声が届いて、千佳が満面の笑みで振り返る。
「メリークリスマス! 楽しく過ごしてね!」
ぶんぶんと大きく手を振った千佳を、剛先輩の腕が引き寄せた。
周りを気にしないのは相変わらず。
2人は遠慮なく仲良く引っ付いて、楽しそうに夜の街へと消えていった。
「さてと、じゃあ俺もお邪魔だろうから……」
「ちょっと待って。邪魔じゃないよ、それくらい。3人で一緒に見よう、な?」
「そうだよ。こんな公道で工藤らじゃないんだから、くっついたりなんて出来ないだろ?」
俺と陸に呼び止められて、礼人も「それもそうか」とここに残った。
そして3人で繁華街の通りに並ぶ街路樹に煌めくシャンパンゴールドの波を見渡す。
点在するブランドショップにも、それぞれに彩られとても綺麗だ。
街行く人たちも足を止めて眺めていたり、カップルで手を繋いで楽しそうに微笑みあう人などと、皆それぞれにこの光溢れる街並みを楽しんでいるようだ。
「おっと、危ないっ」
夢中になって光の洪水を眺めていたら、パシッという音と共に礼人の声が飛び込んできた。
視線をそこに向けると、礼人の横に中学生らしき男の子が焦った顔をしていた。
「す、すみません! ありがとうございました」
「ああ、はい」
礼人はそう言って、彼にスマホを手渡した。
男の子が落としそうになったスマートフォンを、キャッチしたってところだろうか?
「もしかして受験生?」
綺麗な顔の礼人にじっと見つめられて、彼の顔がじわじわと赤くなっていく。忙しなくパチパチと瞬きを繰り返すその姿は、明らかに緊張を意味しているようだ。
「ほ、本当は家で勉強した方が良いんでしょうけど、せっかくのイブに机にかじりついてるのもなんだか悔しくて、それでアプリで勉強しながらなら良いかなってそう思って……」
たどたどしく話す彼の傍で、礼人は優しい表情をしている。
「珍しいな」
「え? うん、そうだよね」
人見知りの礼人には珍しい彼らのやり取りに、思わず聞き耳を立てていたら、陸も同じ事を感じていたらしい。
2人でひそひそと話しながら礼人たちを見ていたら、当の本人がパッとこちらを向いた。
「シロ、クロ。俺、もう行くわ。こいつの勉強、そこらの店に入って付き合う事にしたから」
「えっ!?」
俺らもびっくりしたけど、この子もびっくりしたようだった。素っ頓狂な声を上げている。
「なんだ、迷惑だったか?」
「い、いいえ、まさかっ! あの、でもこちらこそご迷惑では……」
「俺が良いって言ってるからいいんだよ」
そう言って彼の頭をグリグリと撫でる。
呆気にとられる俺らを残して、「じゃあな」と礼人が手を振った。
「びっくりした……」
「だな……」
なんだか微笑ましいやり取りをしながら去っていく礼人らの後ろを、俺らは狐につままれたようにポカンと見送った。
そして、その受験生が俺らの高校に合格し、礼人の一番近くを陣取ることになろうとは、この時の俺らにはまだ知る由も無かった。
「じゃあ、俺たちはここで」
寒い寒いと剛先輩の腕に抱きついた千佳が、白い息を吐きながら小さく手を振る。
「ああ、今日は、その……。ありがとな」
言いにくそうに頭を掻きながら、礼人が千佳にお礼を言っている。
そっか。
やっぱり千佳のあれって、2人の背中をちゃんと押してあげれてたんだな。
明るくて屈託の無い千佳だから出来る、素敵な配慮だ。きっと当の本人は、力まずに普通にやれている事なんだろう。
俺も随分と救われてきたその優しさが、単純にうれしく思えてならない。
「じゃあな、工藤。剛先輩も!」
陸が手を上げて、2人だけのクリスマスを過ごそうと去っていく2人に声を掛けた。
「おう、お前らも楽しんでな」
「じゃあね、みんな」
「メリークリスマス!」
去っていく2人に、俺も手を振って声を掛けた。俺の声が届いて、千佳が満面の笑みで振り返る。
「メリークリスマス! 楽しく過ごしてね!」
ぶんぶんと大きく手を振った千佳を、剛先輩の腕が引き寄せた。
周りを気にしないのは相変わらず。
2人は遠慮なく仲良く引っ付いて、楽しそうに夜の街へと消えていった。
「さてと、じゃあ俺もお邪魔だろうから……」
「ちょっと待って。邪魔じゃないよ、それくらい。3人で一緒に見よう、な?」
「そうだよ。こんな公道で工藤らじゃないんだから、くっついたりなんて出来ないだろ?」
俺と陸に呼び止められて、礼人も「それもそうか」とここに残った。
そして3人で繁華街の通りに並ぶ街路樹に煌めくシャンパンゴールドの波を見渡す。
点在するブランドショップにも、それぞれに彩られとても綺麗だ。
街行く人たちも足を止めて眺めていたり、カップルで手を繋いで楽しそうに微笑みあう人などと、皆それぞれにこの光溢れる街並みを楽しんでいるようだ。
「おっと、危ないっ」
夢中になって光の洪水を眺めていたら、パシッという音と共に礼人の声が飛び込んできた。
視線をそこに向けると、礼人の横に中学生らしき男の子が焦った顔をしていた。
「す、すみません! ありがとうございました」
「ああ、はい」
礼人はそう言って、彼にスマホを手渡した。
男の子が落としそうになったスマートフォンを、キャッチしたってところだろうか?
「もしかして受験生?」
綺麗な顔の礼人にじっと見つめられて、彼の顔がじわじわと赤くなっていく。忙しなくパチパチと瞬きを繰り返すその姿は、明らかに緊張を意味しているようだ。
「ほ、本当は家で勉強した方が良いんでしょうけど、せっかくのイブに机にかじりついてるのもなんだか悔しくて、それでアプリで勉強しながらなら良いかなってそう思って……」
たどたどしく話す彼の傍で、礼人は優しい表情をしている。
「珍しいな」
「え? うん、そうだよね」
人見知りの礼人には珍しい彼らのやり取りに、思わず聞き耳を立てていたら、陸も同じ事を感じていたらしい。
2人でひそひそと話しながら礼人たちを見ていたら、当の本人がパッとこちらを向いた。
「シロ、クロ。俺、もう行くわ。こいつの勉強、そこらの店に入って付き合う事にしたから」
「えっ!?」
俺らもびっくりしたけど、この子もびっくりしたようだった。素っ頓狂な声を上げている。
「なんだ、迷惑だったか?」
「い、いいえ、まさかっ! あの、でもこちらこそご迷惑では……」
「俺が良いって言ってるからいいんだよ」
そう言って彼の頭をグリグリと撫でる。
呆気にとられる俺らを残して、「じゃあな」と礼人が手を振った。
「びっくりした……」
「だな……」
なんだか微笑ましいやり取りをしながら去っていく礼人らの後ろを、俺らは狐につままれたようにポカンと見送った。
そして、その受験生が俺らの高校に合格し、礼人の一番近くを陣取ることになろうとは、この時の俺らにはまだ知る由も無かった。
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