近くにいるのに君が遠い

くるむ

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俺に触れて?

期待と緊張

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陸も礼人も心配してくれていたけれど、あれ以来竹下は俺に近づいてくることは無かった。

そして土曜日、旅行当日。
俺らの学校は一応制服だけど私服登校も可能なので、今日は全員私服で登校し、そのまま一泊のプチ旅行に行くことになっていた。
気のせいかもしれないけれど、普段私服で登校することが無かった俺は、皆にじろじろ見られているような気がして落ち着かない。

「どうした、水?」
「あ…。んー、なんて言うか…。私服で登校するのって初めてだから、なんか落ち着かなくって」

きょろきょろと周りを見渡す俺の様子に、陸も視線を巡らせて眉間にしわを寄せる。

「…まあ、確かに水が変に視線を浴びるのは面白くは無いけど。…少しの我慢だな」
「……」

あ、あれ? ちょっと顔が熱くなってきた。
…陸って時々、自覚なしに俺への気持ちを言葉にしてくれてるんだよな。
(……)

「俺も…」
「何?」

俺だって嬉しいって思うんだ。だからきっと、俺も陸に自分の思っていることを伝えたら、嬉しいって思ってくれるかもしれない。今までは、恥ずかしい気持ちの方が先だって、一つ一つ言葉にできていなかったから。

「…陸の、私服姿…。カッコイイとは思うんだけど、朝からずっと女子が陸の事チラチラ見てるのが…ちょっとモヤモヤする…」
「――っ」

案の定すごく驚いた陸は、一瞬大きく目を見開いて、そのまま俯いてしまった。
髪の間から見える耳が、真っ赤になっている。

うっわ。か、可愛過ぎる…っ!

普段の無表情で、不愛想な陸とは思えない表情に、抱きしめたい気持ちに駆られてしまった。
「……」

そう、だよな。
俺だって男なんだ。好きな人には触れたいし、抱きしめたいとも思う。キスだって…。
もちろん人前でそんな事する気はないから、おくびにも出さないようにはするけど。



「水…」
「ん?」

顔を下に向けたまま、陸が頭をガシガシ掻いている。

「……」
「陸?」

何かを俺に言おうとしていたようだったんだけど、それを俺に伝えることを躊躇しているようだった。
そして結局は、俺に伝えない方を選択してしまった。

「…何でもない。…それより、竹下、あれから近づいて来てないよな」
「うん。たぶん、あれって魔がさしただけなんじゃないかな。竹下もきっと後悔してると思うよ」

これは俺の本音だ。決して竹下を庇うために陸に嘘を言っているわけじゃない。
だけど陸はそうは思っていないようで、あからさまに眉間にしわを寄せ、嫌そうな顔をした。


「水は優しすぎる。……まあ、その分俺が警戒してればいいんだけどさ」



陸はポツリとつぶやいて、そして視線を教室の後ろの方へと巡らせた。
そうこうしているうちに、担任がやって来たので陸が自分の席に戻って行く。

授業が済んだら旅行が待っている。


楽しみと同時に、俺の緊張は半端ない。
陸とちゃんと向き合って、そして……。

千佳や要さん達のように、もっと信頼しあって忌憚のない付き合いがしたい。
本当の恋人だって心の底から思えるように…。


無意識に小さく息を吐いていた。
自覚して笑った俺は、その後しっかりと力強く息を吸い込んだ。
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