近くにいるのに君が遠い

くるむ

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俺に触れて?

触れる喜び

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「お疲れさん、明日も頼むよ」
「はい」

一時間のノルマが終わって、千佳と腕を回したり首を左右に倒したりと、コリをとる。

「クロ、戻って来なかったな」
「……」
「大丈夫だよ。クロの事だから、絶対慌てて戻ってくるって!」

「う、ん」


スクバはそのまま、俺のと一緒に置いてあるから、戻って来なきゃならないのだけど…。
俺は自分の荷物と一緒に陸の物を肩にかけ、入り口から外を覗いた。
すると廊下の向こうから、すごい勢いで陸が走ってくるのが見えた。

良かった…。

思わず肩の力が抜けて、バックが肩からずり落ちてしまった。

「ね? 言った通りだっただろ?」

千佳が、ポンポンと俺の肩をたたいた。

「うん。…安心した」



はあはあと荒い息を吐きながら、陸が近づいて来た。

「わり…。済んじまったな」


額に大粒の汗を掻いて、息もまだ整っていない。よっぽど遠くから走って来たんだろうか。
俺はポケットからハンカチを取り出して、陸の額の汗を拭く。

湿った髪を掻き上げた途端、陸に強い力で抱き寄せられた。


いきなりの陸の熱い体温と匂いに、心臓がきゅうっとなる。
まるでしおれた花が、いきなり太陽や水をたくさん浴びたような、そんな急激に満たされる思い。
心だけじゃない、細胞レベルで、俺のすべてが陸の体温を喜んでいた。


ホントに…、どれだけ自分は陸を求めて焦がれていたんだろう。

自分に自分で呆れてしまう。
だけど、そんな自分も嫌ではなかった。


俺は、力強く抱きしめる陸を全身で受け止める。陸は俺を抱きしめたまま、俺の髪に顔をうずめるように額や頬を擦り付けた。



ずっと求めていた陸の温もり…。俺は、目眩がしそうなほどうれしかった。



「おい!」

剛先輩の低い声でハッとする。
陸も肩を叩かれて我に返ったようだ。パッと体を離された。

「邪魔してごめんね~。でも、そろそろ片付け済んだみたいだから。万が一見られたりしたら嫌でしょ?」



「…悪い」


陸はバツが悪そうに下を向き、無造作に頭を掻いた。

「悪くなんかないから」
「え…?」


俺の言葉にびっくりしたのか、三人が驚いた顔で俺を見る。
だけどここで有耶無耶にしたら絶対だめだ。


きっと――


「だって、うれしかったから…」
「み、ず…」

言ったとたん、恥ずかしさで顔が熱くなった。そんな俺の顔を見て、陸の顔も赤くなる。


「うわ~、あっつーい。剛先輩、部室行くよー」
「だな」

そう言って、二人は俺らを置いて先に歩き出した。
もちろん俺らも後に続く。



隣の陸をそっと見ると、陸もこちらを向いていて目が合った。
そして目を細めて、いつものように優しく微笑んでくれる。




良かった…。ちゃんと俺の気持ちは陸に届いたようだ。

陸だけが俺を求めているんじゃない。俺だって陸に触れたいんだ。
陸の事が、すごく大好きだから…。
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