近くにいるのに君が遠い

くるむ

文字の大きさ
上 下
20 / 59
俺に触れて?

少しは素直に

しおりを挟む
昼休み。
陸と2人で弁当を食べていると、礼人がたくさんの女の子に纏わりつかれながら、俺らのクラスにやって来た。

「悪いけど、シロ達と飯食うから」
「えぇ~? って、黒田君だ!」
「あ、ホントだ。ねえ、ねえ、礼人~」
「だーめ。お前らだって、クロの性格知ってんだろ?」

しっしっと言うように、礼人が彼女らを手で追い払い、教室に入って来た。
…相変わらずモテるよな。礼人も陸も。

陸がモテることくらいは分かっているんだけど、やっぱりそれを目にするたびにちょっと落ち込む。
彼女たちは俺と違って可愛いし、何より俺が横に並ぶよりもずっと絵になる。

「邪魔するぞ」

俺らの前の席の椅子をくるっと逆にして、向かい合い弁当箱をトンと机に置く。そしてその脇に、スマホを置いた。

「ホント、邪魔だな」

陸のあからさまな嫌そうな顔に、礼人が笑う。

「あー、クロなら絶対そう言うと思った。ホント、期待外さないやつだよな、お前」

陸の、あまりにもらしい冗談をサラッと流して、礼人が弁当の包みを解く。
中には、相変わらず彩りよくバランスの取れたおかずが並べられていた。きっと礼人の新しいお母さんも、礼人の本当の意味でのお母さんになりたいと頑張っているんだろう。
外見にそぐわず人見知りで神経質な彼には、それは容易な事ではないのだろうけれど。

「それはそうとさ」

モグモグと美味しそうにご飯を頬張りながら、礼人が俺を見る。

「なに?」
「シロ、今日は大丈夫か? まだ美術部のバイト、残ってるだろ」
「辞めさせろ、あんなもん」

陸が不愉快そうに眉をしかめて口を挟んできた。

「大丈夫だよ、陸。あと2日だろ? 千佳も一緒だし」
「…倒れたじゃねーか、お前。無理してたんだろ」
「…それは…」

倒れた原因はそんな事じゃなくて、陸とギクシャクしていたせいなんだけど…。
チラッと陸を窺い見るも、どうやら本当にそのことには思い当たっていないようで、モデルの事をマジで心配しているようだ。

「大丈夫。…それより陸、今日も付き合って…くれるよな?」
「……」

陸に本心を言う勇気がない俺は、とにかく陸に安心してもらおうと出来るだけ明るく話しかけたのに、陸は渋面を変えようとはせず、面白くなさそうに俺から視線を外した。

「あ~、もう、なんだよお前ら、まどろっこしいなぁ。シロはもうちょっと可愛くおねだりしろよ。少しは千佳を見習え」

パカン!

「って!」

陸が食べ終わり、空になった弁当箱で礼人の頭を叩いていた。

「何で水が工藤なんかを見習わなきゃなんねーんだよ。あんな水、嫌だぞ俺は」

真顔で言う陸に礼人がキョトンとする。そしてすぐに爆笑した。

「なんだお前、やっぱべたぼれじゃねーの! シロ、お前もう少し自信持て」
言いながら、礼人はヒーヒーと腹を抱えて笑っていた。

…なんて奴だよ、もう…。
だけど――


「本当に大丈夫だよ俺。だけど陸がいてくれると誰といるより心強いんだ。だから俺、陸に来てもらいたい。ダメかな…?」

心の中では誰よりも、俺は陸に甘えたいって思っているんだ。
言えない本心は別としても、言葉に出せることくらいは陸に伝えたいってそう思う。

すがる思いで見つめる俺に、陸も一瞬驚いた顔をしていたけれど、肩の力を抜くように、ふうっと息を漏らした。

「分かった。水がモデルを続けるっていうんなら、俺も一緒にいる方が安心だし。付き合うよ」
「ありがとう」


自然に陸に甘えることが出来たのだから、礼人には感謝しなきゃと思った。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

彼氏未満

茉莉花 香乃
BL
『俺ら、終わりにしない?』そんなセリフで呆気なく離れる僕と彼。この数ヶ月の夢のような時間は…本当に夢だったのかもしれない。 そんな簡単な言葉で僕を振ったはずなのに、彼の態度は…… ハッピーエンド 他サイトにも公開しています

処理中です...