近くにいるのに君が遠い

くるむ

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俺を見て?

見えた本心

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「は? ちょっと何だよ、帰るって。あのさー、部外者は黙っててくれないかな」
 「あぁ? そっちこそ、なに言ってんだ」

 顎をしゃくりあげ、冷たい視線で佐竹さんを見る陸は結構な迫力だった。
その様子を見て、長椅子で寝転んだまま様子を見ていた千佳が、ぱっと体を起こした。

 「ちょっと、ちょっとー。ヤダよ、そんな険悪なムード」

 軽い感じで二人の間に口を挿む千佳に、陸が眉間にしわを寄せて振り返った。佐竹さんも、陸ほどではないけれど、不愉快そうに千佳を見る。

 「怖ーいなぁ、その顔。まずは俺の折衷案聞いてよ。シロはぁ、Tシャツは脱がないで良し! んでー、Yシャツだけはだけちゃおう。健全+色気。ね、良いでしょ」

 千佳が、どう?と言うように俺の顔を見た。

…うん。それなら全然抵抗ない。大丈夫と頷いて陸を見ると、「それなら文句はない」と陸も千佳に答えた。
 続いて千佳が佐竹さんを見る。佐竹さんは少し不服そうで、「う~」とか言いながら頭を掻いていたが、ふーと息を吐いて顔を上げた。

 「ま、しょーがないか。白石君を描く機会を失う訳にはいかないからな。OK、それで良いことにしよう」

 佐竹さんの一言で、俺も千佳も長椅子に要望通りにポーズをとった。食い入るように見てくる美術部の面々に戸惑いはしたものの、モデルをしている以上はしょうがないと腹を括る。

フーッと細く息を吐いて、視線を少し下にずらして誰とも目が合わないようにしてみた。
うん。この方がよけいな緊張をしないで済むな。
この姿勢で25分、頑張り続けた。

ずっと一時間ぶっ通しでモデルをしないといけないと思っていたのだけど、それだととても持たないからと、25分間じっとして、その後10分の休憩を挟み、また25分頼むという事だった。
 確かに、たった30分も無い時間なのに、動かず同じ姿勢でいるのは苦痛だった。

 寝転んでいただけの千佳も、隣で伸びをしている。
 剛先輩は休憩に入った途端、千佳の横に来て顔を撫でたりしてあやして(?)いる。…いや、というよりは今まで千佳に触れるのをじっと我慢していたから、限界がきたって所だろうか。

 陸はそのままさっきから同じ場所で腕を組み、美術部の人たちを睨むような鋭い視線を巡らせていた。



 休憩が済んでまた同じ姿勢でポーズをとって、今日1日のバイトが終了。


 腕を回したり首を動かしてコリを解している俺たちの所に、佐竹さんがやってきた。

 「お疲れさん。あと2日、よろしく頼むね」
 「はい。じゃあ、また明日」

 陸たちがドア近くで俺たちを促したので、そのままおれたちは美術室を後にした。

 目の前では、疲れた千佳が甘えるように剛先輩の腕に自分の腕を絡めて、もたれ掛りながら歩いている。
 別にそんなマネがしたいわけではないのだけど、俺も陸に少しでもいいから近づいて甘えたかった。


 無意識に、手が陸の掌に伸びる。
それを察したかのように陸の手がピクリと動いて、反射的にその手が俺の手を避けた。


 一瞬にして体が凍りつく。


 陸の本心が、見えたような気がした――。
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