近くにいるのに君が遠い

くるむ

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俺を見て?

見えた本心

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 喧嘩などろくにしたことはないが、幼いころから、ヤクザや刑事の役を演じる男たちの芝居風景を見慣れてきたせいで、どうすれば強い男に見られるか、本能的に習得していたのだ。
 上級生たちは、大人しいと思っていた竹弥の気迫と演技力に気圧されてしまって、肩をすくめて去っていった。彼らが見えなくなってから身体がふるえてきた。
 だが、今自分の前にいる男は、あのときの中学生たちのように、はったりが通じるような相手ではない。
 この状況でどう立ち向かえばいいのか。竹弥はまさに絶体絶命だった。
「うう……」
 びりびりに切りきざんだ下着の残骸を引っ張ると、相手は笑ってそれを床に投げすてる。
「色っぽいな。近江竹弥のストリップか。高く売れるぞ」
「……ひ、卑怯者! こんなことして、なんになるんだよぉ……」
 先の言葉は気強く放ったものの、後の言葉は涙声になってしまう。
「泣くなよ。うんといい気持ちにしてやるから」
「あっ! よ、よせ!」
 男が、竹弥の前に膝をついた。
 さすがに初心うぶな竹弥も、相手がこれからしようとしていることに気づいて、全身を硬直させた。
「小さい、可愛い芽だ。かわいそうに、こんなに怯えて」
 やんわりと、相手は指に力をこめて、竹弥の若芽をいじる。
「つぅ……!」
「よしよし、俺がこれから大きくしてやるからな」
 まさか……、と竹弥はこの期におよんでも、未練がましいほどの期待を捨てれず、それにしがみついた。
 竹弥だとて二十歳になる若い男で、男子寮で過ごしていたのだから、当然、男があつまると当たり前のように交わされる猥談から、通常の性の知識は得ていたし、僚友や学友のなかには早いものなら、すでに初体験を済ませた者も何人かいることはいるが、だが、男のしようとしていることは、竹弥には驚愕だった。
 そういう行為は聞き知ってはいるが、それは別世界のことのように竹弥には遠かったのだ。
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