13 / 59
俺を見て?
モデル初日
しおりを挟む
「どうも、部長の佐竹です」
握手をしようと千佳に差し出された手。
だけど千佳が手を出す前に剛先輩が横からすかさず手を出して、佐竹さんの手を握った。
「オイ。俺は工藤君に挨拶しようとしているのに、何でお前が手を出すんだよ」
「気にするな。俺の手は千佳の代わりだ」
シレッと答える剛先輩に、佐竹さんが眉をひそめた。
「工藤君、良いの? こんな奴で」
言われて千佳は一瞬キョトンとして、破顔した。
「はい。少し過保護のところはありますけど、こう見えて剛先輩は凄く優しいんですよ」
そう言って甘えるように千佳が剛先輩を見上げる。
周りに無頓着というか、気にしなさ過ぎる二人の態度に、美術部の面々がぽかんと見ていた。
なんというか、大物なんだよなこの2人…。
今日から三日間は、一時間だけ美術部に顔を出すことになっている。
それで今、俺と陸も合わせて四人が美術室へと来ていた。
佐竹さんは呆れたような顔をしたけど、思い直してこちらを振り向く。だけど無表情に佐竹さんを見ている陸に気が付き、少し驚いたようだった。
「ああ、えっと。すまないね、三日間お世話になるよ。白石君も良い素材だから期待して…、期待してるからよろしくね」
佐竹さんは途中変に言葉を詰まらせたかと思ったら、早口で残りの言葉を俺に伝え、そそくさと準備に取り掛かった。
机を片付けてスペースを作った真ん中に長椅子が置かれる。
美術部のみんなは、そこから少し離れたところでぐるっと取り囲むようにしてスタンバイした。
「せっかく2人同時にいるので、普段描かないようなポーズにしよう。白石君はその縁に座って」
「はい」
「で、工藤君はこちら側を向いて、白石君の膝に頭を置いてくれるかな? いわゆる膝枕状態だね」
「え?」
俺と千佳とで膝枕? 思わず二人で顔を見合わせてしまった。
…大丈夫かな? 剛先輩怒らないだろうか?
気になって、チラッと剛先輩を窺う。だけどそれほど気にもしていないようだったのでホッとした。
「大丈夫だよ。シロと俺とだと先輩は変に嫉妬なんかしないから。クロや礼人なら嫌がるかもしれないけど」
「そうなの?」
「うん。だって俺らじゃ、間違い起こりそうにないだろ? …受け同志だし」
最後の方は、俺にだけ聞こえるようにコソッと耳打ちをして、にっこり笑った。
「えっ!?」
と、突然なんて事言い出すんだよ、千佳の奴。
素っ頓狂な声を出して真っ赤になった俺を、周りの奴らが凝視する。するとすかさず陸がツカツカと近づいてきて、俺の前に立ち塞がった。
「工藤」
冷えたオーラを出す陸に低い声で呼ばれて、千佳が珍しくビクッと体を揺らす。それを見た剛先輩が近づいて来ようとしたところを、千佳が大丈夫と言うように笑いながら先輩を手で制した。
「ゴメン、ゴメン。悪かったよ。シロがこんなにウブだったとは思わなかったからさ」
「ち、千佳…」
恥ずかしいこと言わないでくれよ! クロが傍にいるのに。
「お前、これいじょう水を困らせるのなら、同好会の方に水を連れて帰るぞ。モデルなんて一人でやれ」
冷やかに陸に返されて、千佳が慌てる。
「ゴ、ゴメン。マジで。真面目に大人しくしてるから水を連れて帰るなんて言わないでよ。俺だって一人でやるのはたいく…、いや心細いんだよ」
…今、退屈って言おうとした。
多分陸も気が付いたんだろうけど、あえてそれは流したようだ。そのまま元いた場所へと戻って行った。
陸が元の場所へ戻った事を確認して、佐竹さんがぱんぱんと手を叩いた。
「じゃあ、そろそろ始めようかな。あーっと、白石君はちょっときっちりし過ぎだな。それじゃ魅力も出ないから、まずTシャツを先に脱いじゃって、Yシャツを着よう。で、着方なんだけど、ボタンは全部外したままで肩の所まで寛げて、はだけた感じにしてくれる? ちょっぴり色気を出す感じでさ」
「…え?」
ええっと、ちょっとなに? そこまでする必要あるの? そりゃ、女子じゃないから大したことないって言えばそうだけど…。
しかもなんだか、部員たちの目つきが怖い。男子なんか、まるで獲物を目の前にした肉食獣のような、いやな感じさえする。自意識過剰なのかもしれないけど…。
「帰るぞ」
戸惑っておろおろする俺に、陸が凛とした声で告げた。
握手をしようと千佳に差し出された手。
だけど千佳が手を出す前に剛先輩が横からすかさず手を出して、佐竹さんの手を握った。
「オイ。俺は工藤君に挨拶しようとしているのに、何でお前が手を出すんだよ」
「気にするな。俺の手は千佳の代わりだ」
シレッと答える剛先輩に、佐竹さんが眉をひそめた。
「工藤君、良いの? こんな奴で」
言われて千佳は一瞬キョトンとして、破顔した。
「はい。少し過保護のところはありますけど、こう見えて剛先輩は凄く優しいんですよ」
そう言って甘えるように千佳が剛先輩を見上げる。
周りに無頓着というか、気にしなさ過ぎる二人の態度に、美術部の面々がぽかんと見ていた。
なんというか、大物なんだよなこの2人…。
今日から三日間は、一時間だけ美術部に顔を出すことになっている。
それで今、俺と陸も合わせて四人が美術室へと来ていた。
佐竹さんは呆れたような顔をしたけど、思い直してこちらを振り向く。だけど無表情に佐竹さんを見ている陸に気が付き、少し驚いたようだった。
「ああ、えっと。すまないね、三日間お世話になるよ。白石君も良い素材だから期待して…、期待してるからよろしくね」
佐竹さんは途中変に言葉を詰まらせたかと思ったら、早口で残りの言葉を俺に伝え、そそくさと準備に取り掛かった。
机を片付けてスペースを作った真ん中に長椅子が置かれる。
美術部のみんなは、そこから少し離れたところでぐるっと取り囲むようにしてスタンバイした。
「せっかく2人同時にいるので、普段描かないようなポーズにしよう。白石君はその縁に座って」
「はい」
「で、工藤君はこちら側を向いて、白石君の膝に頭を置いてくれるかな? いわゆる膝枕状態だね」
「え?」
俺と千佳とで膝枕? 思わず二人で顔を見合わせてしまった。
…大丈夫かな? 剛先輩怒らないだろうか?
気になって、チラッと剛先輩を窺う。だけどそれほど気にもしていないようだったのでホッとした。
「大丈夫だよ。シロと俺とだと先輩は変に嫉妬なんかしないから。クロや礼人なら嫌がるかもしれないけど」
「そうなの?」
「うん。だって俺らじゃ、間違い起こりそうにないだろ? …受け同志だし」
最後の方は、俺にだけ聞こえるようにコソッと耳打ちをして、にっこり笑った。
「えっ!?」
と、突然なんて事言い出すんだよ、千佳の奴。
素っ頓狂な声を出して真っ赤になった俺を、周りの奴らが凝視する。するとすかさず陸がツカツカと近づいてきて、俺の前に立ち塞がった。
「工藤」
冷えたオーラを出す陸に低い声で呼ばれて、千佳が珍しくビクッと体を揺らす。それを見た剛先輩が近づいて来ようとしたところを、千佳が大丈夫と言うように笑いながら先輩を手で制した。
「ゴメン、ゴメン。悪かったよ。シロがこんなにウブだったとは思わなかったからさ」
「ち、千佳…」
恥ずかしいこと言わないでくれよ! クロが傍にいるのに。
「お前、これいじょう水を困らせるのなら、同好会の方に水を連れて帰るぞ。モデルなんて一人でやれ」
冷やかに陸に返されて、千佳が慌てる。
「ゴ、ゴメン。マジで。真面目に大人しくしてるから水を連れて帰るなんて言わないでよ。俺だって一人でやるのはたいく…、いや心細いんだよ」
…今、退屈って言おうとした。
多分陸も気が付いたんだろうけど、あえてそれは流したようだ。そのまま元いた場所へと戻って行った。
陸が元の場所へ戻った事を確認して、佐竹さんがぱんぱんと手を叩いた。
「じゃあ、そろそろ始めようかな。あーっと、白石君はちょっときっちりし過ぎだな。それじゃ魅力も出ないから、まずTシャツを先に脱いじゃって、Yシャツを着よう。で、着方なんだけど、ボタンは全部外したままで肩の所まで寛げて、はだけた感じにしてくれる? ちょっぴり色気を出す感じでさ」
「…え?」
ええっと、ちょっとなに? そこまでする必要あるの? そりゃ、女子じゃないから大したことないって言えばそうだけど…。
しかもなんだか、部員たちの目つきが怖い。男子なんか、まるで獲物を目の前にした肉食獣のような、いやな感じさえする。自意識過剰なのかもしれないけど…。
「帰るぞ」
戸惑っておろおろする俺に、陸が凛とした声で告げた。
2
お気に入りに追加
281
あなたにおすすめの小説
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
僕の王子様
くるむ
BL
鹿倉歩(かぐらあゆむ)は、クリスマスイブに出合った礼人のことが忘れられずに彼と同じ高校を受けることを決意。
無事に受かり礼人と同じ高校に通うことが出来たのだが、校内での礼人の人気があまりにもすさまじいことを知り、自分から近づけずにいた。
そんな中、やたらイケメンばかりがそろっている『読書同好会』の存在を知り、そこに礼人が在籍していることを聞きつけて……。
見た目が派手で性格も明るく、反面人の心の機微にも敏感で一目置かれる存在でもあるくせに、実は騒がれることが嫌いで他人が傍にいるだけで眠ることも出来ない神経質な礼人と、大人しくて素直なワンコのお話。
元々は、神経質なイケメンがただ一人のワンコに甘える話が書きたくて考えたお話です。
※『近くにいるのに君が遠い』のスピンオフになっています。未読の方は読んでいただけたらより礼人のことが分かるかと思います。
いつの間にか後輩に外堀を埋められていました
雪
BL
2×××年。同性婚が認められて10年が経った現在。
後輩からいきなりプロポーズをされて....?
あれ、俺たち付き合ってなかったよね?
わんこ(を装った狼)イケメン×お人よし無自覚美人
続編更新中!
結婚して五年後のお話です。
妊娠、出産、育児。たくさん悩んでぶつかって、成長していく様子を見届けていただけたらと思います!
こじらせΩのふつうの婚活
深山恐竜
BL
宮間裕貴はΩとして生まれたが、Ωとしての生き方を受け入れられずにいた。
彼はヒートがないのをいいことに、ふつうのβと同じように大学へ行き、就職もした。
しかし、ある日ヒートがやってきてしまい、ふつうの生活がままならなくなってしまう。
裕貴は平穏な生活を取り戻すために婚活を始めるのだが、こじらせてる彼はなかなかうまくいかなくて…。
僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
後輩の甘い支配
ちとせ
BL
後輩(男前イケメン)×先輩(無自覚美人)
「俺がやめるのも、先輩にとってはどうでもいいことなんですね…」
退職する直前に爪痕を残していった後輩に、再会後甘く支配される…
商社で働く雨宮 叶斗(あめみや かなと)は冷たい印象を与えてしまうほど整った美貌を持つ。
そんな彼には指導係だった時からずっと付き従ってくる後輩がいた。
その後輩、村瀬 樹(むらせ いつき)はある日突然叶斗に退職することを告げる。
2年後、戻ってきた村瀬は自分の欲望を我慢することをせず…
後半甘々です。
すれ違いもありますが、結局攻めは最初から最後まで受け大好きで、受けは終始振り回されてます。
更新は2日おきくらいを目安にしています。
よろしくお願いします
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる