近くにいるのに君が遠い

くるむ

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俺を見て?

モデル初日

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「どうも、部長の佐竹です」

握手をしようと千佳に差し出された手。
だけど千佳が手を出す前に剛先輩が横からすかさず手を出して、佐竹さんの手を握った。

「オイ。俺は工藤君に挨拶しようとしているのに、何でお前が手を出すんだよ」
「気にするな。俺の手は千佳の代わりだ」

シレッと答える剛先輩に、佐竹さんが眉をひそめた。

「工藤君、良いの? こんな奴で」

言われて千佳は一瞬キョトンとして、破顔した。

「はい。少し過保護のところはありますけど、こう見えて剛先輩は凄く優しいんですよ」

そう言って甘えるように千佳が剛先輩を見上げる。
周りに無頓着というか、気にしなさ過ぎる二人の態度に、美術部の面々がぽかんと見ていた。

なんというか、大物なんだよなこの2人…。


今日から三日間は、一時間だけ美術部に顔を出すことになっている。
それで今、俺と陸も合わせて四人が美術室へと来ていた。

佐竹さんは呆れたような顔をしたけど、思い直してこちらを振り向く。だけど無表情に佐竹さんを見ている陸に気が付き、少し驚いたようだった。

「ああ、えっと。すまないね、三日間お世話になるよ。白石君も良い素材だから期待して…、期待してるからよろしくね」

佐竹さんは途中変に言葉を詰まらせたかと思ったら、早口で残りの言葉を俺に伝え、そそくさと準備に取り掛かった。


机を片付けてスペースを作った真ん中に長椅子が置かれる。
美術部のみんなは、そこから少し離れたところでぐるっと取り囲むようにしてスタンバイした。

「せっかく2人同時にいるので、普段描かないようなポーズにしよう。白石君はその縁に座って」
「はい」

「で、工藤君はこちら側を向いて、白石君の膝に頭を置いてくれるかな? いわゆる膝枕状態だね」

「え?」

俺と千佳とで膝枕? 思わず二人で顔を見合わせてしまった。
…大丈夫かな? 剛先輩怒らないだろうか?
気になって、チラッと剛先輩を窺う。だけどそれほど気にもしていないようだったのでホッとした。

「大丈夫だよ。シロと俺とだと先輩は変に嫉妬なんかしないから。クロや礼人なら嫌がるかもしれないけど」
「そうなの?」
「うん。だって俺らじゃ、間違い起こりそうにないだろ? …受け同志だし」

最後の方は、俺にだけ聞こえるようにコソッと耳打ちをして、にっこり笑った。

「えっ!?」

と、突然なんて事言い出すんだよ、千佳の奴。
素っ頓狂な声を出して真っ赤になった俺を、周りの奴らが凝視する。するとすかさず陸がツカツカと近づいてきて、俺の前に立ち塞がった。

「工藤」

冷えたオーラを出す陸に低い声で呼ばれて、千佳が珍しくビクッと体を揺らす。それを見た剛先輩が近づいて来ようとしたところを、千佳が大丈夫と言うように笑いながら先輩を手で制した。

「ゴメン、ゴメン。悪かったよ。シロがこんなにウブだったとは思わなかったからさ」
「ち、千佳…」

恥ずかしいこと言わないでくれよ! クロが傍にいるのに。

「お前、これいじょう水を困らせるのなら、同好会の方に水を連れて帰るぞ。モデルなんて一人でやれ」
冷やかに陸に返されて、千佳が慌てる。

「ゴ、ゴメン。マジで。真面目に大人しくしてるから水を連れて帰るなんて言わないでよ。俺だって一人でやるのはたいく…、いや心細いんだよ」


…今、退屈って言おうとした。


多分陸も気が付いたんだろうけど、あえてそれは流したようだ。そのまま元いた場所へと戻って行った。


陸が元の場所へ戻った事を確認して、佐竹さんがぱんぱんと手を叩いた。

「じゃあ、そろそろ始めようかな。あーっと、白石君はちょっときっちりし過ぎだな。それじゃ魅力も出ないから、まずTシャツを先に脱いじゃって、Yシャツを着よう。で、着方なんだけど、ボタンは全部外したままで肩の所まで寛げて、はだけた感じにしてくれる? ちょっぴり色気を出す感じでさ」

「…え?」

ええっと、ちょっとなに? そこまでする必要あるの? そりゃ、女子じゃないから大したことないって言えばそうだけど…。

しかもなんだか、部員たちの目つきが怖い。男子なんか、まるで獲物を目の前にした肉食獣のような、いやな感じさえする。自意識過剰なのかもしれないけど…。


「帰るぞ」

戸惑っておろおろする俺に、陸が凛とした声で告げた。
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