近くにいるのに君が遠い

くるむ

文字の大きさ
上 下
12 / 59
俺を見て?

心のかけら

しおりを挟む
とは言え、この面々が大人しく本を読んでいるわけがなく…。

ふと本から目を離して顔を上げると千佳たちの姿が見えない。
あれ?と思ってきょろきょろしてると、例の座布団をしまっているという部屋から小さく物音が聞こえてきた。

…もしかして。

礼人が俺の疑問に気が付いたようで、ニヤリと笑う。

「そ。あいつら。剛先輩が千佳を抱っこして連れてった」

「…ったく。ホントに剛の奴、節操ないよな」

要さんが長い脚を投げ出した格好で、呆れたように呟いた。…とはいえ、その要さんも涼さんに膝枕をしてもらっている状態だから、説得力が半減しちゃってるんだけど。

要さんのサラサラとした黒髪を、涼さんの長い指が愛おしげに撫でている。
落ち着いて、自然な姿だ。



何か…、当てられちゃってるよね。

それぞれの仲の良さを見せつけられて、そんなつもりはないのだけど、知らず知らず自分たちと比べてしまい胸の奥が冷えてしまう。

…羨ましいんだよな、ホントのところ。

目を瞑って心の中でため息を吐く。

少しだけ、少しだけでいいから勇気を出してみようか…?
そしたら陸が、今どう思っているのかが分かるかもしれないし…。



「六時回ったな。そろそろ帰るか」

涼さんのその一言で、要さんが教科書を閉じて立ち上がる。
要さんは一冊も本を読むことは無く、出された宿題を済ませていたようだった。


「お前さ、何で読書同好会にしたんだよ。なんか他になかったのか?」

陸が本をぱたんと閉じて礼人に尋ねた。
礼人も読んでいた本をポンと投げて足を伸ばす。

「しょーがねぇだろ。だって涼さんが国語の先生だからさ、その方が通りやすいかと思ったんだよ」
「あーぁ、なーるほどね」


「おら!出てこいよ、剛! 帰る時間だぞ」

要さんが今や個室と化した備品部屋のドアを蹴る。時間を察していたのだろう、そう間をおかずに剛先輩たちは出てきた。

…千佳の後ろ髪が跳ねている。

思わずじっと見ていたら、それに気づいた剛先輩が、千佳の髪を撫でて跳ねを直した。


皆でぞろぞろと歩いて行って、要さんと涼さんは一旦職員室に寄るという事で、校内で別れた。
残りの俺たちも正門前で千佳たちと別れ、その後礼人ともいつもの交差点で別れる。



残ったのは俺と陸。
いつもの帰り道は、既に薄暗くなっていた。


触れたいな。
人通りもないし、手とか繋ぐくらいなら全然大丈夫そう…。

そう思って、勇気を出して手を伸ばしたいと思ったのだけど、緊張でべたべたになってしまった掌が気持ち悪い。
一生懸命、お腹の辺りを擦りながらシャツで汗を拭いている内に、俺の家に着いてしまった。

「じゃあな」と言われてハッとする。
俺は仕方なく顔を上げて、「うん。気を付けて」といつものように挨拶を返した。


…情けない。
俺ってかなり小心者だよな…。


気を取り直して、陸に手を振ろうと思って顔を上げる。
陸の表情は暗い上に逆光なので良く見えないのだけど、動き出す気配がなかった。
何だ?と思って首を傾げると、陸の表情が少し動いたような気がした。

「…明日のこと、あんまり気に病むなよ。俺もそばにいるし」
「えっ?」

「それだけ。じゃあな」

踵を返して走り出してしまったので、俺は何も返事をする事が出来ない。
走り去る陸の後姿は、あっという間に小さくなって行った。



だけど陸のその一言は、明日の俺に勇気をくれる。


俺は、未だに緊張で濡れている自分の掌をじっと見つめ、そしてゆっくりと門に手を伸ばした。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

目標、それは

mahiro
BL
画面には、大好きな彼が今日も輝いている。それだけで幸せな気分になれるものだ。 今日も今日とて彼が歌っている曲を聴きながら大学に向かえば、友人から彼のライブがあるから一緒に行かないかと誘われ……?

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

彼氏未満

茉莉花 香乃
BL
『俺ら、終わりにしない?』そんなセリフで呆気なく離れる僕と彼。この数ヶ月の夢のような時間は…本当に夢だったのかもしれない。 そんな簡単な言葉で僕を振ったはずなのに、彼の態度は…… ハッピーエンド 他サイトにも公開しています

処理中です...