近くにいるのに君が遠い

くるむ

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俺を見て?

心のかけら

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とは言え、この面々が大人しく本を読んでいるわけがなく…。

ふと本から目を離して顔を上げると千佳たちの姿が見えない。
あれ?と思ってきょろきょろしてると、例の座布団をしまっているという部屋から小さく物音が聞こえてきた。

…もしかして。

礼人が俺の疑問に気が付いたようで、ニヤリと笑う。

「そ。あいつら。剛先輩が千佳を抱っこして連れてった」

「…ったく。ホントに剛の奴、節操ないよな」

要さんが長い脚を投げ出した格好で、呆れたように呟いた。…とはいえ、その要さんも涼さんに膝枕をしてもらっている状態だから、説得力が半減しちゃってるんだけど。

要さんのサラサラとした黒髪を、涼さんの長い指が愛おしげに撫でている。
落ち着いて、自然な姿だ。



何か…、当てられちゃってるよね。

それぞれの仲の良さを見せつけられて、そんなつもりはないのだけど、知らず知らず自分たちと比べてしまい胸の奥が冷えてしまう。

…羨ましいんだよな、ホントのところ。

目を瞑って心の中でため息を吐く。

少しだけ、少しだけでいいから勇気を出してみようか…?
そしたら陸が、今どう思っているのかが分かるかもしれないし…。



「六時回ったな。そろそろ帰るか」

涼さんのその一言で、要さんが教科書を閉じて立ち上がる。
要さんは一冊も本を読むことは無く、出された宿題を済ませていたようだった。


「お前さ、何で読書同好会にしたんだよ。なんか他になかったのか?」

陸が本をぱたんと閉じて礼人に尋ねた。
礼人も読んでいた本をポンと投げて足を伸ばす。

「しょーがねぇだろ。だって涼さんが国語の先生だからさ、その方が通りやすいかと思ったんだよ」
「あーぁ、なーるほどね」


「おら!出てこいよ、剛! 帰る時間だぞ」

要さんが今や個室と化した備品部屋のドアを蹴る。時間を察していたのだろう、そう間をおかずに剛先輩たちは出てきた。

…千佳の後ろ髪が跳ねている。

思わずじっと見ていたら、それに気づいた剛先輩が、千佳の髪を撫でて跳ねを直した。


皆でぞろぞろと歩いて行って、要さんと涼さんは一旦職員室に寄るという事で、校内で別れた。
残りの俺たちも正門前で千佳たちと別れ、その後礼人ともいつもの交差点で別れる。



残ったのは俺と陸。
いつもの帰り道は、既に薄暗くなっていた。


触れたいな。
人通りもないし、手とか繋ぐくらいなら全然大丈夫そう…。

そう思って、勇気を出して手を伸ばしたいと思ったのだけど、緊張でべたべたになってしまった掌が気持ち悪い。
一生懸命、お腹の辺りを擦りながらシャツで汗を拭いている内に、俺の家に着いてしまった。

「じゃあな」と言われてハッとする。
俺は仕方なく顔を上げて、「うん。気を付けて」といつものように挨拶を返した。


…情けない。
俺ってかなり小心者だよな…。


気を取り直して、陸に手を振ろうと思って顔を上げる。
陸の表情は暗い上に逆光なので良く見えないのだけど、動き出す気配がなかった。
何だ?と思って首を傾げると、陸の表情が少し動いたような気がした。

「…明日のこと、あんまり気に病むなよ。俺もそばにいるし」
「えっ?」

「それだけ。じゃあな」

踵を返して走り出してしまったので、俺は何も返事をする事が出来ない。
走り去る陸の後姿は、あっという間に小さくなって行った。



だけど陸のその一言は、明日の俺に勇気をくれる。


俺は、未だに緊張で濡れている自分の掌をじっと見つめ、そしてゆっくりと門に手を伸ばした。 
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