近くにいるのに君が遠い

くるむ

文字の大きさ
上 下
8 / 59
俺を見て?

モデルの依頼

しおりを挟む
「あれ、みんな早かったな。呼びに行こうと思ってたのに」

教室から飛び出してきた礼人が、俺らを見て拍子抜けしたようだ。

「これでも結構、楽しみにしてるんだよ。読書どうこうは置いといても。みんなでわちゃわちゃ出来るわけでしょ」
「剛先輩といちゃつけるし?」
「えへへー」

礼人の冷やかしにも千佳は動じる風もない。素直な所は千佳の長所だ。
…ちょっと羨ましいかな。

部室へと向かいながら四人で歩いていると、後ろから大声で千佳を呼ぶ声がした。

「工藤ー! ちょっと待って! 工藤千佳!」

切羽詰まったその声に振り返ると、町田が荒い息をしながら駆け寄ってきた。

「頼む。工藤、頼みがあるっ」
「なんだよ、町田。びっくりした」
「モデル! モデルになってくれ美術部の!」

言われた千佳も、俺らもびっくりして町田の汗だくの顔を凝視した。
四人から一斉に見られたせいか、町田がちょっと後ずさる。だけど俺と目が合って、何か気が付いたように目を見開いた。

「うわ、白石じゃん! こりゃ良いや。工藤と一緒に白石もモデルや…っ、イッテ!」
また陸の足が飛んだようだ。町田が痛そうに足をさすっている。

「何しやがんだよ、黒田! いてーだろ!」
「あぁ?」

睨みながら低い声で威嚇する陸に、一瞬町田もビビるが、引く気は無いようだ。

「頼むよ、工藤。先輩から工藤をモデルに連れて来いって言われてるんだよ!」
「え~? 俺、これから同好会に行くんだけど」
「同好会?」

「そうだよ! 読書同好会! 千佳も会員なんだから、美術部になんて入れさせねーぞ」

礼人も斜め上に顔を上げ、腰に手を当て見下ろすように町田を見る。
綺麗な顔をした礼人の不機嫌そうな顔はそれなりに迫力があり、町田も困惑したようだ。

だけど町田も町田で、美術部の先輩が怖いのか絶対に引く気は無さそうだった。

「美術部に入らなくていいから、い、一週間、いや3日でもいいから工藤と白石を貸してくれ!」

ドカッ!!

「ったー!!」
今度はさっきより力を込めていたようで、陸の足蹴に町田が大きく転んだ。

「ちょっと、陸!」
俺は慌てて止めに入ろうとしたが、礼人に肩をポンと叩かれて止められた。

「今シロに止められたら、あいつよけいに頭に来るから」
「えっ、でも…」

「何するんだよ!」

これは本当に痛かったのだろう。町田も真っ赤になって怒っていた。

「それはこっちのセリフだ! 連れて来いと言われたのは工藤一人だろ! なんでお前は水まで連れて行こうとするんだよ」


…え。

陸が俺を連れて行かせまいとして、怒ってくれてる…? 
どうしよう。凄く嬉しいんだけど…。

ドキドキと喜ぶ心臓に素直に従っていたら、後ろから複雑そうな千佳の声が聞こえてきた。

「クロ、酷ーい。俺はどうでも良いわけー?」

千佳の言葉に一瞬反応した陸は、振り返って千佳を見るが言葉は無い。
そのまま、また町田に向かい合った。

「…工藤もどうやら嫌らしい。諦めろ」
「ええっ!? いや、それは勘弁してくれ。マジで怖いんだよ、あの先輩! 工藤連れて行かなかったら何言われるか!」

「うーん」
その町田の言葉に、千佳が何かを考えるように腕を組んだ。

「バイト代くれる?」

「…へ?」

「バイト代、出してくれるなら。シロと一緒なら出ても良いよ?」

「ちょっと千佳!」
「なんだと、てめー!」
「……」

俺たちの動揺をよそに、千佳はにっこり笑っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

当たって砕けていたら彼氏ができました

ちとせあき
BL
毎月24日は覚悟の日だ。 学校で少し浮いてる三倉莉緒は王子様のような同級生、寺田紘に恋をしている。 教室で意図せず公開告白をしてしまって以来、欠かさずしている月に1度の告白だが、19回目の告白でやっと心が砕けた。 諦めようとする莉緒に突っかかってくるのはあれ程告白を拒否してきた紘で…。 寺田絋 自分と同じくらいモテる莉緒がムカついたのでちょっかいをかけたら好かれた残念男子 × 三倉莉緒 クールイケメン男子と思われているただの陰キャ そういうシーンはありませんが一応R15にしておきました。 お気に入り登録ありがとうございます。なんだか嬉しいので載せるか迷った紘視点を追加で投稿します。ただ紘は残念な子過ぎるので莉緒視点と印象が変わると思います。ご注意ください。 お気に入り登録100ありがとうございます。お付き合いに浮かれている二人の小話投稿しました。

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

【R18】【Bl】王子様白雪姫を回収してください!白雪姫の"小人"の俺は執着王子から逃げたい 姫と王子の恋を応援します

ペーパーナイフ
BL
主人公キイロは森に住む小人である。ある日ここが絵本の白雪姫の世界だと気づいた。 原作とは違い、7色の小人の家に突如やってきた白雪姫はとても傲慢でワガママだった。 はやく王子様この姫を回収しにきてくれ!そう思っていたところ王子が森に迷い込んできて… あれ?この王子どっかで見覚えが…。 これは『【R18】王子様白雪姫を回収してください!白雪姫の"小人"の私は執着王子から逃げたい 姫と王子の恋を応援します』をBlにリメイクしたものです。 内容はそんなに変わりません。 【注意】 ガッツリエロです 睡姦、無理やり表現あり 本番ありR18 王子以外との本番あり 外でしたり、侮辱、自慰何でもありな人向け リバはなし 主人公ずっと受け メリバかもしれないです

最愛の幼馴染みに大事な××を奪われました。

月夜野繭
BL
昔から片想いをしていた幼馴染みと、初めてセックスした。ずっと抑えてきた欲望に負けて夢中で抱いた。そして翌朝、彼は部屋からいなくなっていた。俺たちはもう、幼馴染みどころか親友ですらなくなってしまったのだ。 ――そう覚悟していたのに、なぜあいつのほうから連絡が来るんだ? しかも、一緒に出かけたい場所があるって!? DK×DKのこじらせ両片想いラブ。 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ※R18シーンには★印を付けています。 ※他サイトにも掲載しています。 ※2022年8月、改稿してタイトルを変更しました(旧題:俺の純情を返せ ~初恋の幼馴染みが小悪魔だった件~)。

彼女ができたら義理の兄にめちゃくちゃにされた

おみなしづき
BL
小学生の時に母が再婚して義理の兄ができた。 それが嬉しくて、幼い頃はよく兄の側にいようとした。 俺の自慢の兄だった。 高二の夏、初めて彼女ができた俺に兄は言った。 「ねぇ、ハル。なんで彼女なんて作ったの?」 俺は兄にめちゃくちゃにされた。 ※最初からエロです。R18シーンは*表示しておきます。 ※R18シーンの境界がわからず*が無くともR18があるかもしれません。ほぼR18だと思って頂ければ幸いです。 ※いきなり拘束、無理矢理あります。苦手な方はご注意を。 ※こんなタイトルですが、愛はあります。 ※追記……涼の兄の話をスピンオフとして投稿しました。二人のその後も出てきます。よろしければ、そちらも見てみて下さい。 ※作者の無駄話……無くていいかなと思い削除しました。お礼等はあとがきでさせて頂きます。

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

処理中です...