近くにいるのに君が遠い

くるむ

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俺を見て?

逡巡する思い

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礼人が同好会を作った本当の理由。
多分知っているのは俺と、礼人の幼馴染の要さんと涼さんくらいだろう。

彼の両親は中学の時に離婚していて、礼人はお父さんに引き取られた。
そして高校入学直前にそのお父さんが再婚したのだ。
再婚自体に礼人は反対はしていなかったのだけど、実際再婚して義理の母親が出来ると、その義母と二人きりになるのを礼人は苦痛に思うようになっていた。

人見知りをしなさそうな彼だけど、実は意外と人に対して神経質だ。そんな彼なので、早い時間に家に帰りたくないと思ったのだ。

だったら、剛先輩の言う通り既存の部に入れば良い所なのだけど、そこにも問題があった。

中学時代、礼人はテニス部に入っていた。
だが、運動神経も良くモテる礼人は女子の注目の的で、礼人目当てに入部する者、マネージャーを希望する者であふれかえっていた。
あからさまな女子の態度に部の先輩や、しまいには同級生までもがやっかみ始め、摩擦が増えた。そして女子の間にも礼人を巡っての揉め事が後を絶たなかったのだ。

結果、居心地の悪くなった礼人は二年に進級して間もなく、テニス部を退部するまで追いやられていた。

あれは礼人にとって、よほど堪える事のようだった。
表には決して出しはしなかったけど、元々持っていた他人に対するバリアのようなものが、増々ひどくなってしまったのだ。



◇◇◇◇


「シロ、クロー」

授業が済んで荷物をまとめていると、千佳が手を振って俺らを呼んでいる。
背は低いが、女子のように可愛い彼は、結構目立つ。
男子も女子も、ちらちらと千佳に視線を向けていた。

「一緒に行こう。剛先輩とは現地でって事にしたから」

「へえ? あの先輩がよくOKしたな。ダダこねたんじゃねーの?」

陸の冷やかしに、千佳はちょっとムッとしたように唇をすぼめた。その仕草も凄く可愛くて、教室の中から息を呑む声がしっかり俺の耳にまで届く。

可愛さ半端ないもんなぁ。千佳は。

「クロほど嫉妬心の塊じゃないもん」
「え?」

嫉妬? 陸みたいな冷静な奴が嫉妬なんてするの?
無意識に陸の方へ視線を移すと、陸は真っ赤な顔で千佳を睨んでた。

「うっせーんだよ、お前は。おら、紫藤のトコ行くぞ」
「はーい」

荒々しく先頭を切って歩き出す陸に、千佳は笑いをかみ殺した声で返事をして、俺を促し後に続いた。
そしてこっそり俺に耳打ちをする。

「クロってホント剛先輩と同類のくせに認めようとしないよなー」
「同類って…」
「だって、シロへの独占欲半端ないじゃん。まあ先輩程あからさまではないけど」



俺への…独占欲?


トクン。
意外な千佳の嬉しい言葉に、心音が喜びの音を奏でる。

未だに少し赤い陸の頬に、俺の心が期待した。



『…誰もそんなこと言ってないだろ』

昼休みに礼人に「まだ付き合って無いのか」と言われた時に返した言葉。
その時の陸の表情にも期待はしたけど…。

心の奥底で、どこか冷静な自分がブレーキをかけ始める。



陸は無表情で冷静で無愛想。だけど本当は凄く優しくて、俺の事を何かと気にかけてくれてもいた。

だからと言って、優しい奴だから俺の事をまだ好きでいてくれているかというと、それとこれとはまた別の話だ。
却って優しいが故に、恋愛だと勘違いしていた事を俺に伝えられないままだという事も考えられなくはないんだ。


俺の中でどうしても引っかかってしまっている、陸の「ごめん」という走り書きのメモ。

そして、まるでやましい事があると言わんばかりに、目をちゃんと合わせてくれない事。
どうしてもそれらが引っかかってしまって、期待したくてもやはり陸の事をどこか信じられずにいる。

だけどそれを確かめて聞くのも怖くて…。
だってそうだろう?
聞いてもし、恋と勘違いしていたなんて言われたら、やっぱりショックで、想像しただけで胸が張り裂けてしまいそうだ。


特別には思ってくれているのだとは思うけど、それが陸にとって親友の枠なのか恋人の枠なのか、問いただす勇気が今の俺には無かった。
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