近くにいるのに君が遠い

くるむ

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俺を見て?

一夜明けて

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はあ…っ。
朝になっちゃったな…。

いつもなら起きてご飯を食べている時間になっているのに、俺はまだベッドから起きられずにいた。

昨日…、昨日ここで俺、陸に…。

思い出すとぎゅうっと胸の奥が軋む。もう本当に無理やりで、止めてくれと懇願しても全然聞いてもくれなかった。
あんな怖い陸は初めてだった…。

だけど多分、一番自分が気になっているのは、俺を起こさずに黙って帰ってしまったことだ。
そしてあのメモの、「ごめん」という文字。

心臓がきゅうっと竦む。
俺は無意識に自分の身体を抱きしめていた。




母親に蹴飛ばされるようにドアを叩かれ、渋々起き上がり顔を洗う。
食卓に着くころには、もう出かける時間が迫っていたのでおにぎりとお茶を渡された。

「ホラ、急いで食べなさい」
「う、うん」

食欲はあまりないけど、食べないときっと昼まで持たない。
俺は、何とか無理やり飲み込もうと必死で咀嚼した。

母親に急かされ、何とかおにぎりを飲み込んで、「行ってきます」と玄関の扉を開けた。

本当は学校になんて行きたくない。陸と顔を合わせたら、俺はなんて言えばいいんだろう。
門扉を閉めて顔を上げると、そこには誰よりも会いたくて、でも誰よりも会いたくない陸が立っていた。

「り…く」

「…はよ」

いつもなら俺の顔を見ながら目を細め、ほんの少しだけ口角を上げて、俺にだけしか見せない笑顔を向けてくれるのに、今日の陸は違った。

少し目が合っただけで視線はすぐに下に逸らされ、抑揚のない声でぽつりと告げられる挨拶。

ギリッ…。

心臓の奥が、まるで捩じられるように痛い。

なんで…? 昨日はあんなに無理やり俺を求めたのに、今日はまるで…。



――ごめん。
昨日のメモが脳裏を過ぎる。 

後悔、したんだろうか…。
好きだと思っていたけど、抱いてみたら男同士だって事を思い知らされて、気持ち悪いと思ってしまったんだろうか…?
だからそれを悟られまいと、無理して必死で最後まで抱いて…?

そこまで考えたところで、気持ちが悪くなった。 
幻滅されたのか、俺…?
だけど好きだと言った手前、すぐに無下には出来ないと…?

考えたくもない方向に思考がどんどん傾いていく。
陸は、まるでそれが本当の事だと言わんばかりに、どんどん歩を速める。


俺は激しくなる動悸に支配されながら、ただ陸の後を追う事しか出来なかった。
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