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脅威の魔草

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「君はなぜ、キリンスが一つしかないか知っているね?」
 ジョーンズ様の言葉に、ぼくは拳をぎゅっと握って息をついた。

 以前巻き戻った時、みんなに一生懸命訴えたけれど精神を病んでいるかのように心配されて信じてもらえなかったことを思い出したからだ。あれからぼくは今まで起こった説明のつかない現象を、誰かに話をしたり相談することを諦めていた。

 でも今は、ジョーンズ様がぼくのことを聞こうと思ってくれている。その思いに押されて、ぼくは口を開いた。

「キリンスは、シュパルツ伯爵からいただいたものです。その時苗を二ついただきました」
 ぼくがそう言うと、お兄様は不思議そうな顔をした。

「ではなぜ今一つしかないんだね?」
 ぼくはぐっと握った拳に力を入れる。

「ルーク様にあげたからです」
「えっ?」
 ルークは驚きの声を発してぼくを見た。

「いや、ちょっと待って。僕は君からもらった覚えはないし、気がついたらもう部屋にあったんだよ?」
「そういう認識になりますよね」
「え?」
「ジョーンズ様、巻き戻りって起こると思いますか?」
 ジョーンズ様の眉間にしわが寄る。
「術を使えるものがやろうと思えば起こせる。だが、それは禁忌だ」
「実はぼくにそれが起こったんです」

 みんなが驚きの声を上げ、一斉にぼくを見た。
 ぼくはゆっくりと息を吐きながら、できるだけ簡潔に今までぼくに起こったことを話した。
 キリンスは巻き戻る前に二つもらった苗のうち、一つをルークにあげたこと、それから卒業前に突然ルークから婚約破棄を申し渡されその後辛い人生を終えたかと思ったらまた、ルークに婚約破棄をされる当日の朝に巻き戻ることが5回も起こった事。そして今回は6回目でなぜか婚約をする以前に戻ることができたことを話した。

「ちょっと待って! 僕がノエルとの婚約破棄をするなんて、そんなことあるわけない!」
 困惑するルークに、僕は首を横に振った。

「でも、されたんだよ。サラ嬢のことを諦められないからって言って。毎回だよ」
 ルークの顔面は蒼白だった。気の毒なくらいに。

「それはおそらくサラのせいだろう。本人にとてもそんな魔力があるとは思えないので、おそらく闇魔術に長けた誰かを雇って、ノエルに禁忌の魔法をかけたのだろう」
「指輪も彼女があげたものでしたからね」カーギル先生も頷いた。

「じゃあ僕は……」
「魅了魔法をかけられて、操られていたのだろう」

「しかしそんな嫌がらせ的に何度も何度もループをさせた割には詰めが甘いですね。とてもじゃないけど、サラは目的を達成したと言える状況じゃない」
 ぼくもそれは疑問に思っていたことだ。カーギル先生は、ジョーンズ様に疑問をぶつけていた。

「もしかしたら本来は、 6回目の巻き戻りなんてなかったのかもしれないな」
 そう言って、ジョーンズ様が僕の方を向いた。

「さて、ここで、キリンスが最強の魔草と言われている理由だ。まず君は、巻き戻る前にもらったキリンスの苗を一つルークに渡した。その後、そのキリンスをくれたシュパルツ伯爵から今回苗はもらっていないのに、なぜか成長した状態でキリンスがすでにあった。それを君は不思議に思っている、ということだね?」

「はい。ぼくが意思を変えたことで変わったことがあったとしても、キリンスに関してはそれはあてはまりません。しかも成長しているというのも解せなくて……」

「キリンスは、何物にも作用されない、言い換えれば魔法にも時間軸にもとらわれないという点がほかの魔草と違う所だ。だからそのまま育ち続けたのだろう」
「えっ?」

 驚いたのはぼくだけではない。カーギル先生も驚きの声を発し目を見開いていた。なんという脅威の植物。
 驚くぼくらに微笑んで、ジョーンズ様はまた言葉を続けた。

「そういうところもあって、キリンスの一番の効能は魔法や呪い除けだ。しかもそれが顕著に表れるのは、さっきも言った通りに純粋な愛情で心を通わせている恋人や夫婦、友人などが、大事に育てることだ」
「それを、番でですか?」
「そうだ。だから君にかけられた禁忌の魔法は、中途半端な解呪しかできなかった。恐らくそういうことだ」

 ということは、僕がキリンスをルークにあげずに、時々ルークにぼくのところに来てもらって、手入れをしてもらったりしていれば、あんな辛い思いはしないで済んだってことなの?


「君は本当に、ノエルのことを大事に愛しく思っていたんだね」

 ジョーンズ様が、ルークに向かってそういった。
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