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指輪をとれ!

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「そういえば、ノエルが大事に育てているキリンスも、一つだけだよな」
「そうなのか?」
 ハロルド兄様の言葉に、ジョーンズ様はルークがはめている指輪から目を離してこちらを見た。

「はい、そうです」
「2人揃って苗が一つだけなのか?」
 ドギマギするぼくの様子に気がついたようで、ジョーンズ様はぼくをじっと見ている。だけどぼくが黙り続けたので、ジョーンズ様はふっと息を吐いて視線をそらした。

「このキリンスは別名、愛の魔草とも言われているんだよ。どうしてだかわかるか?」
 視線を、また僕に戻した。
「いいえ」

「それはだな、番のキリンスを恋人や夫婦が同じ空間、または同じ花壇で育てることで特殊な恩恵を受けることができるからなんだ。キリンスは恋人、友情、親子などの曇りのない純粋な愛情を好んで摂取しているんだよ。いわゆる栄養としてだ。だからキリンスに詳しい人なら、絶対にその苗を離ればなれにさせることはないんだよ」

「え……?」
 冷や汗が出てきた。じゃあぼくがルークに苗を一つ分けたのは、いけないことだったの?

「まあ、そうは言っても、この国では魔術の知識や書物などもろもろが失われたせいで、キリンスの本来の効用を知るものも少なくなってしまっているから、間違えて苗を離してしまったとしても仕方がないことではあるんだがな」
「はあ……」

「さて、キリンスの効能についてちゃんと説明するのは後にして、あの指輪をなんとかしようか」

 そういってジョーンズ様はルークの方を向いた。ルークはジョーンズ様が自分のはめている指輪を見ていることに気が付いて、慌てて指輪を手のひらで覆った。

「抑えろ! 指輪を取れ!」
 突然のジョーンズ様の指示に、クリスとアーネストがルークにのしかかった。そしてぼくとお兄様でルークの指輪を抜き取ろうと手をかけた。だけどそのとたん、ぶわっとルークから風魔法が発動された。
 そんなに指輪が惜しいわけ!?
 
 風にあおられたシャツはバタバタと音をなし、髪の毛は頬や瞼に当たって痛い。
 ルークはぼくらに危害を与えないように力加減は考えているようだけど、ぼくもアーネストもクリスも動揺していた。だけど逆にお兄様は怒っていたようだった。お兄様も瞬時に絶妙な力加減の風魔法を発動し、ルークの風魔法を抑えにかかった。
 上からと下からの風圧で身体が揺れる。だけどルークからの風はだいぶ抑えられていた。

「いまだ、抜き取れ!」
「はい!」

 指輪に手をかけると、ルークはギュッと自分の指に力を込めて拳をつくった。仕方がないので力任せに指を開かせるわけだけど、ルークの指に怪我を負わせないかとハラハラした。
 抵抗する指を必死に開かせる。ルークはきっと痛いはずだ。顔をしかめているがそれでも指輪を取られたくないので指に力を込めている。
 ぼくは折れませんようにと思いながら、それをギギギと伸ばした。

 なんとか指を開かせて指輪を抜き取り、床に叩きつけるようにパシンと放った。

 指輪がルークの手から離れると、ルークはすぐに力が抜けたようだった。 ぼくらの体からも力が抜ける。
 はあっと安堵の息が漏れる。

「いたいな……、重いよ。退いて」
 ルークのうめき声にハッと我に返って、クリスとアーネストが飛び退いた。

「だ、大丈夫ですか?」
「うん……」

 その顔は疲れをにじませていたけれど、何か憑き物が落ちたようにさっぱりしていた。

 床にぼくが放った指輪は王子が拾い、すぐにジョーンズ様に渡していた。ルークが起き上がったときにはすでに、ジョーンズ様がタンスの引き出しの中にしまった後だった。
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