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ノエルのお願い

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 ルークとの約束通り、ぼくは今、公爵家の馬車に揺られている。最初は向かい側に座っていたルークは、せっかく2人きりなんだからとか言って、ぼくの隣に座り直した。そして指を愛撫するようにいじるものだから、恥ずかしいというかなんというか、変な気分になってくる。

「あの、ルーク様」
「なんだい?」
 にっこり笑いながらぼくを見るけれど、いたずらの指はちっとも止まらない。

「ちょっとあの、その指……」
「うん? 指?」
「……っ、あの、もぞもぞするというか、その……」
 すごく言いにくくて、小声でボソボソいうとルークはじんわりと微笑んだ。

「そうか、よかった」
 えっ? 何が? と思う間もなく、ルークの顔が近づいてきた。

「ノエルには僕のことだけ考えてほしいんだけど」
「……考えてますよ」
「本当に?」
「はい」
 ルークはじっと僕を見て、それからふんわりと笑った。

「本当はキスの一つもしたいけど、揺れる馬車の中じゃ舌噛んじゃうかもしれないな」
「ルーク様……」

 あ、甘い……っ、なんて甘々なんだ。
 もぞもぞするけど、こういう時もたれかかって甘えたりしたら、きっと喜ぶんだろうな。
「………」

 ゆっくりそっともたれかかってみた。ルークの肩がピクリと動く。
 びっくりさせたかなと思ったのは一瞬だった。ルークがすぐにギュッとぼくを抱き寄せてくれたから。
 ぼくはルークの腕の中で、頭を胸に預ける形になっている。
 トクントクンと響く心臓の音。ぼくのそれと重なって心地いい。

「好きだよ、ノエル」
「ぼくもです」

 目をつぶって甘い気分に浸っていたいのに、こんなときにもぼくの中には黒いものが押し寄せてくる。
 
 ――サラ。
 彼女は未だにルークを諦めてなんていない。しかも、今までには気づかなかった得体の知れない怖さを感じる。

「ルーク様」
「なんだい?」
「サラ嬢には近づかないでください。あの人、なんだか危ないです」 
「それは僕も感じている。だけどノエルに悪さをしそうだから釘をささないと」

「ぼくのことは大したことありません。サラ嬢のターゲットはルーク様です。近づいたらルーク様が、何かとんでもないことをされそうで怖いんです」

「とんでもないこと?」
「そうです。どんなことなのかは、分からないですけど」

 何度も巻き戻しをされていたあの時は余裕がなくて分からなかったけど、どう考えたって、あんな現象普通じゃありえないんだ。魔法か何かが関わっているに違いない。
 ただ、この国であんな突拍子もない魔法をかけられる人がいるなんて考えられないから、はっきりとしたことは言えないのだけど。

 でもサラが何かやらかしそうな気持ちだけは拭えない。だから余計にルークには、サラに関わってほしくないんだ。 

「約束してください。サラ嬢から誘われても声をかけられても、何かをあげると言われても一切拒否してください。ぼくのためと思って、お願いします」
 腕の中に抱きしめられたまま、ぼくはルークの顔を見あげてそういった。ルークの瞳は一瞬丸くなり、そしてゆっくりと細くなる。

「わかった。じゃあノエルもサラに近づかないようにするんだよ」
「はい」

 しっかりとうなずくと、ルークはほほ笑んだ。そしてぼくの唇に、ルークの唇をゆっくりと重ねる。

 ゴトンと馬車が揺れて、ぼくらは苦笑いをした。
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