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薬草研究科の授業
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これから選択科目の授業が始まる。僕のように土魔法や水魔法が得意な場合は薬草研究科を選ぶものが多い。だけどアーネストは風魔法が得意なので、ルークと同じ風魔法特別科だ。
アーネストと離れての授業は寂しいけれど、こればっかりは仕方がない。
選択科目別の授業はふたクラス一緒に行われる。特進AクラスはAクラスと。そしてBクラスとCクラスが合同で行われる。
だからぼくは今日ちょっと緊張しているんだ。だって特進クラスなんて頭のいい人たちと一緒にやるんだよ。気が抜けないじゃないか。……と思っていたのだけど。
「すごい、これマジルじゃないですか? 私薬草辞典で見たことがありますわ! こんな近くで見られるなんて感動です!」
「ちょっと待ってください。こちらもそうですよ。癒しの植物と言われているリリンに桑草です! 私興奮してきました」
ぼく同様、普段から薬草に触れている人たちなんだろう。目の輝きが全然違う。気品ある頭のよさそうな人たちが、はしゃいでいる姿はなんだか可愛らしい。
微笑ましく見ているとパチッと目が合った。
「あら、ノエル様。ノエル様も薬草研究科でしたの?」
話しかけられてびっくりした。しかも僕の名前を知っているなんて。
「そうだよ。えっと、君は?」
「申し遅れました。わたくしはヒューズ伯爵家の長女フローラでございます」
「ゴッドフリー伯爵家次女シャロンと申します。よろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしく」
ぼくもキリンス以外に癒しの植物を手にしたことがないので、もう少し近くで見たいと思い腰を下ろした。
「あの、ノエル様?」
「ん? 何?」
「サラ様ってご存知?」
「えっ?」
ぼくの顔が強張ったのだろう。フローラの眉が下がる。
「やっぱり心配ですわよね。ルーク様からはノエル様と近いうちに婚約する予定だと聞いています。それなのにサラ様ったら、ルーク様が迷惑がってるにもかかわらず、何かとちょっかい出しに来ますのよ」
「そうですわ。今朝なんて手作りのサシュとか言って、強引に渡そうとしていましたのよ。もちろんルーク様は断って受け取りはしませんでしたけど」
「前にも手作りのクッキーとか持ってきてましたよね。それも強引に置いていきましたけど、とてもじゃないですけど、何が入っているか考えると恐ろしくて食べる気にはなれませんわよね」
「ルークは、食べなかったの?」
「もちろんですわ」
サシュもクッキーも、受け取らなかったんだ……。ぼくとの婚約が間近だからって、本当に真剣に考えてくれているんだな。
「サラ様なんかに負けないでくださいねノエル様。私たちいつもルーク様からのろけを伺っていて、お2人を応援しているのですわ」
「そうですわよ、ノエル様」
「あ、ありがとう」
だけどのろけってなんだろう? ちょっと気になるんだけど。
顔が熱くなってきた。
「あっ、先生が来ましたわよ」
みんなもそれに気づいて姿勢を正した。
「みなさん、お静かに。これから授業を始めます。私は薬草研究科の講師ハインリヒ・カーギルです。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」
「今ここに居るほとんどの皆さんが薬草には馴染みがあると思いますけど、毒草や魔草を見るのは初めての方が多いかと思います。まだ一年の皆さんには薬草のみを取り扱ってもらいますので、囲いのあるあの一角には近寄らないようにしてください」
魔草というワードに興味がつのった。聞いたことはあるけれど、ぼくはまだ実際に、その魔草というものを見たことがないのだ。
ほかのみんなもぼくと同様なようで、近寄ってはならないと言われた一角の方に視線が集中した。
先生はそのほかにも細かい注意事項や倉庫の管理などについて説明をした後、ぼくらに数種類の苗を見せた。
「左からトウキン、マジル、オバタにチェストリーだ。この四つの薬草はそれぞれ特徴が違う。そして君たちの扱う魔法の特性によって、相性がとてつもなく良い場合がある。相性のいい苗がある場合は、それを育てた方が効能の高い薬草に育つのでぜひその苗を育ててほしい。その確認方法だが、まずそれぞれの苗に手をかざしてみてくれ。暖かく感じたり光を発したり反応は様々だが、何かを感じることができたなら、相性がいいということだ。だからその苗を選んでくれ。だが、どの苗に対しても何の反応がなくても、それはそれで構わないので自分が育ててみたいと思う苗を育ててもらったらいいと思う」
ハインリヒ先生の説明の後、みんな適当に苗の列に並び手をかざしてみた。反応があり、歓声を上げるものや何の反応もなく落胆する声が聞こえる。ぼくはキリンス以外の癒しの植物を育ててみたくてマジルの列に並んだ。
ぼくの前に並んでいたライアンは、顔を真っ赤にしながら何かを念じていたようなのだけど、結局なんの反応もなく、「嘘だろー!」と嘆きの声をあげていた。
次はぼくの番だ。ドキドキしながら手をかざしてみる。だが何の反応もない。
「うそーっ」
ライアン同様、ぼくも落胆の声を上げた。だけど嘆いている時間はない。だって苗の数は人数分しかないんだ。ということは早い者勝ちだ。
次に興味がある苗は……トウキンかな。これは薬草風呂としてよく使われるものだ。この国は水だけは豊富なので風呂文化が発達しているのだ。
トウキンの列に並んで、恐る恐る手をかざしてみた。すると僕の手の周りからふつふつと小さな水玉が発生し、きらきらと光りながらトウキンの周りをふよふよと浮き、そしてそのままトーキンに吸収されるように消えていった。
「素晴らしい相性ですね。丁寧に育てていってください」
「はい、頑張ります」
マジルのことは残念だったけど、でも相性のいい苗を育てるのも楽しそうだ。
ぼくはそのトウキンの苗に名札を貼った。
アーネストと離れての授業は寂しいけれど、こればっかりは仕方がない。
選択科目別の授業はふたクラス一緒に行われる。特進AクラスはAクラスと。そしてBクラスとCクラスが合同で行われる。
だからぼくは今日ちょっと緊張しているんだ。だって特進クラスなんて頭のいい人たちと一緒にやるんだよ。気が抜けないじゃないか。……と思っていたのだけど。
「すごい、これマジルじゃないですか? 私薬草辞典で見たことがありますわ! こんな近くで見られるなんて感動です!」
「ちょっと待ってください。こちらもそうですよ。癒しの植物と言われているリリンに桑草です! 私興奮してきました」
ぼく同様、普段から薬草に触れている人たちなんだろう。目の輝きが全然違う。気品ある頭のよさそうな人たちが、はしゃいでいる姿はなんだか可愛らしい。
微笑ましく見ているとパチッと目が合った。
「あら、ノエル様。ノエル様も薬草研究科でしたの?」
話しかけられてびっくりした。しかも僕の名前を知っているなんて。
「そうだよ。えっと、君は?」
「申し遅れました。わたくしはヒューズ伯爵家の長女フローラでございます」
「ゴッドフリー伯爵家次女シャロンと申します。よろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしく」
ぼくもキリンス以外に癒しの植物を手にしたことがないので、もう少し近くで見たいと思い腰を下ろした。
「あの、ノエル様?」
「ん? 何?」
「サラ様ってご存知?」
「えっ?」
ぼくの顔が強張ったのだろう。フローラの眉が下がる。
「やっぱり心配ですわよね。ルーク様からはノエル様と近いうちに婚約する予定だと聞いています。それなのにサラ様ったら、ルーク様が迷惑がってるにもかかわらず、何かとちょっかい出しに来ますのよ」
「そうですわ。今朝なんて手作りのサシュとか言って、強引に渡そうとしていましたのよ。もちろんルーク様は断って受け取りはしませんでしたけど」
「前にも手作りのクッキーとか持ってきてましたよね。それも強引に置いていきましたけど、とてもじゃないですけど、何が入っているか考えると恐ろしくて食べる気にはなれませんわよね」
「ルークは、食べなかったの?」
「もちろんですわ」
サシュもクッキーも、受け取らなかったんだ……。ぼくとの婚約が間近だからって、本当に真剣に考えてくれているんだな。
「サラ様なんかに負けないでくださいねノエル様。私たちいつもルーク様からのろけを伺っていて、お2人を応援しているのですわ」
「そうですわよ、ノエル様」
「あ、ありがとう」
だけどのろけってなんだろう? ちょっと気になるんだけど。
顔が熱くなってきた。
「あっ、先生が来ましたわよ」
みんなもそれに気づいて姿勢を正した。
「みなさん、お静かに。これから授業を始めます。私は薬草研究科の講師ハインリヒ・カーギルです。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」
「今ここに居るほとんどの皆さんが薬草には馴染みがあると思いますけど、毒草や魔草を見るのは初めての方が多いかと思います。まだ一年の皆さんには薬草のみを取り扱ってもらいますので、囲いのあるあの一角には近寄らないようにしてください」
魔草というワードに興味がつのった。聞いたことはあるけれど、ぼくはまだ実際に、その魔草というものを見たことがないのだ。
ほかのみんなもぼくと同様なようで、近寄ってはならないと言われた一角の方に視線が集中した。
先生はそのほかにも細かい注意事項や倉庫の管理などについて説明をした後、ぼくらに数種類の苗を見せた。
「左からトウキン、マジル、オバタにチェストリーだ。この四つの薬草はそれぞれ特徴が違う。そして君たちの扱う魔法の特性によって、相性がとてつもなく良い場合がある。相性のいい苗がある場合は、それを育てた方が効能の高い薬草に育つのでぜひその苗を育ててほしい。その確認方法だが、まずそれぞれの苗に手をかざしてみてくれ。暖かく感じたり光を発したり反応は様々だが、何かを感じることができたなら、相性がいいということだ。だからその苗を選んでくれ。だが、どの苗に対しても何の反応がなくても、それはそれで構わないので自分が育ててみたいと思う苗を育ててもらったらいいと思う」
ハインリヒ先生の説明の後、みんな適当に苗の列に並び手をかざしてみた。反応があり、歓声を上げるものや何の反応もなく落胆する声が聞こえる。ぼくはキリンス以外の癒しの植物を育ててみたくてマジルの列に並んだ。
ぼくの前に並んでいたライアンは、顔を真っ赤にしながら何かを念じていたようなのだけど、結局なんの反応もなく、「嘘だろー!」と嘆きの声をあげていた。
次はぼくの番だ。ドキドキしながら手をかざしてみる。だが何の反応もない。
「うそーっ」
ライアン同様、ぼくも落胆の声を上げた。だけど嘆いている時間はない。だって苗の数は人数分しかないんだ。ということは早い者勝ちだ。
次に興味がある苗は……トウキンかな。これは薬草風呂としてよく使われるものだ。この国は水だけは豊富なので風呂文化が発達しているのだ。
トウキンの列に並んで、恐る恐る手をかざしてみた。すると僕の手の周りからふつふつと小さな水玉が発生し、きらきらと光りながらトウキンの周りをふよふよと浮き、そしてそのままトーキンに吸収されるように消えていった。
「素晴らしい相性ですね。丁寧に育てていってください」
「はい、頑張ります」
マジルのことは残念だったけど、でも相性のいい苗を育てるのも楽しそうだ。
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