5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません

くるむ

文字の大きさ
上 下
27 / 57

薬草研究科の授業

しおりを挟む
 これから選択科目の授業が始まる。僕のように土魔法や水魔法が得意な場合は薬草研究科を選ぶものが多い。だけどアーネストは風魔法が得意なので、ルークと同じ風魔法特別科だ。
 アーネストと離れての授業は寂しいけれど、こればっかりは仕方がない。

 選択科目別の授業はふたクラス一緒に行われる。特進AクラスはAクラスと。そしてBクラスとCクラスが合同で行われる。
 だからぼくは今日ちょっと緊張しているんだ。だって特進クラスなんて頭のいい人たちと一緒にやるんだよ。気が抜けないじゃないか。……と思っていたのだけど。

「すごい、これマジルじゃないですか? 私薬草辞典で見たことがありますわ! こんな近くで見られるなんて感動です!」
「ちょっと待ってください。こちらもそうですよ。癒しの植物と言われているリリンに桑草くわそうです! 私興奮してきました」

 ぼく同様、普段から薬草に触れている人たちなんだろう。目の輝きが全然違う。気品ある頭のよさそうな人たちが、はしゃいでいる姿はなんだか可愛らしい。
 微笑ましく見ているとパチッと目が合った。

「あら、ノエル様。ノエル様も薬草研究科でしたの?」
 話しかけられてびっくりした。しかも僕の名前を知っているなんて。

「そうだよ。えっと、君は?」
「申し遅れました。わたくしはヒューズ伯爵家の長女フローラでございます」
「ゴッドフリー伯爵家次女シャロンと申します。よろしくお願いいたします」
「こちらこそよろしく」

 ぼくもキリンス以外に癒しの植物を手にしたことがないので、もう少し近くで見たいと思い腰を下ろした。

「あの、ノエル様?」
「ん? 何?」
「サラ様ってご存知?」
「えっ?」
 ぼくの顔が強張ったのだろう。フローラの眉が下がる。

「やっぱり心配ですわよね。ルーク様からはノエル様と近いうちに婚約する予定だと聞いています。それなのにサラ様ったら、ルーク様が迷惑がってるにもかかわらず、何かとちょっかい出しに来ますのよ」
「そうですわ。今朝なんて手作りのサシュとか言って、強引に渡そうとしていましたのよ。もちろんルーク様は断って受け取りはしませんでしたけど」

「前にも手作りのクッキーとか持ってきてましたよね。それも強引に置いていきましたけど、とてもじゃないですけど、何が入っているか考えると恐ろしくて食べる気にはなれませんわよね」
「ルークは、食べなかったの?」
「もちろんですわ」

 サシュもクッキーも、受け取らなかったんだ……。ぼくとの婚約が間近だからって、本当に真剣に考えてくれているんだな。
 
「サラ様なんかに負けないでくださいねノエル様。私たちいつもルーク様からのろけを伺っていて、お2人を応援しているのですわ」
「そうですわよ、ノエル様」 
「あ、ありがとう」
 だけどのろけってなんだろう? ちょっと気になるんだけど。
 顔が熱くなってきた。

 「あっ、先生が来ましたわよ」
 みんなもそれに気づいて姿勢を正した。

「みなさん、お静かに。これから授業を始めます。私は薬草研究科の講師ハインリヒ・カーギルです。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」
「今ここに居るほとんどの皆さんが薬草には馴染みがあると思いますけど、毒草や魔草を見るのは初めての方が多いかと思います。まだ一年の皆さんには薬草のみを取り扱ってもらいますので、囲いのあるあの一角には近寄らないようにしてください」

 魔草というワードに興味がつのった。聞いたことはあるけれど、ぼくはまだ実際に、その魔草というものを見たことがないのだ。
 ほかのみんなもぼくと同様なようで、近寄ってはならないと言われた一角の方に視線が集中した。

 先生はそのほかにも細かい注意事項や倉庫の管理などについて説明をした後、ぼくらに数種類の苗を見せた。

「左からトウキン、マジル、オバタにチェストリーだ。この四つの薬草はそれぞれ特徴が違う。そして君たちの扱う魔法の特性によって、相性がとてつもなく良い場合がある。相性のいい苗がある場合は、それを育てた方が効能の高い薬草に育つのでぜひその苗を育ててほしい。その確認方法だが、まずそれぞれの苗に手をかざしてみてくれ。暖かく感じたり光を発したり反応は様々だが、何かを感じることができたなら、相性がいいということだ。だからその苗を選んでくれ。だが、どの苗に対しても何の反応がなくても、それはそれで構わないので自分が育ててみたいと思う苗を育ててもらったらいいと思う」

 ハインリヒ先生の説明の後、みんな適当に苗の列に並び手をかざしてみた。反応があり、歓声を上げるものや何の反応もなく落胆する声が聞こえる。ぼくはキリンス以外の癒しの植物を育ててみたくてマジルの列に並んだ。
 ぼくの前に並んでいたライアンは、顔を真っ赤にしながら何かを念じていたようなのだけど、結局なんの反応もなく、「嘘だろー!」と嘆きの声をあげていた。

 次はぼくの番だ。ドキドキしながら手をかざしてみる。だが何の反応もない。
「うそーっ」
 ライアン同様、ぼくも落胆の声を上げた。だけど嘆いている時間はない。だって苗の数は人数分しかないんだ。ということは早い者勝ちだ。

 次に興味がある苗は……トウキンかな。これは薬草風呂としてよく使われるものだ。この国は水だけは豊富なので風呂文化が発達しているのだ。
 トウキンの列に並んで、恐る恐る手をかざしてみた。すると僕の手の周りからふつふつと小さな水玉が発生し、きらきらと光りながらトウキンの周りをふよふよと浮き、そしてそのままトーキンに吸収されるように消えていった。

「素晴らしい相性ですね。丁寧に育てていってください」
「はい、頑張ります」
 マジルのことは残念だったけど、でも相性のいい苗を育てるのも楽しそうだ。
 ぼくはそのトウキンの苗に名札を貼った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

やり直せるなら、貴方達とは関わらない。

いろまにもめと
BL
俺はレオベルト・エンフィア。 エンフィア侯爵家の長男であり、前世持ちだ。 俺は幼馴染のアラン・メロヴィングに惚れ込み、恋人でもないのにアランは俺の嫁だと言ってまわるというはずかしい事をし、最終的にアランと恋に落ちた王太子によって、アランに付きまとっていた俺は処刑された。 処刑の直前、俺は前世を思い出した。日本という国の一般サラリーマンだった頃を。そして、ここは前世有名だったBLゲームの世界と一致する事を。 こんな時に思い出しても遅せぇわ!と思い、どうかもう一度やり直せたら、貴族なんだから可愛い嫁さんと裕福にのんびり暮らしたい…! そう思った俺の願いは届いたのだ。 5歳の時の俺に戻ってきた…! 今度は絶対関わらない!

「婚約を破棄する!」から始まる話は大抵名作だと聞いたので書いてみたら現実に婚約破棄されたんだが

ivy
BL
俺の名前はユビイ・ウォーク 王弟殿下の許嫁として城に住む伯爵家の次男だ。 余談だが趣味で小説を書いている。 そんな俺に友人のセインが「皇太子的な人があざとい美人を片手で抱き寄せながら主人公を指差してお前との婚約は解消だ!から始まる小説は大抵面白い」と言うものだから書き始めて見たらなんとそれが現実になって婚約破棄されたんだが? 全8話完結

義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。

竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。 あれこれめんどくさいです。 学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。 冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。 主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。 全てを知って後悔するのは…。 ☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです! ☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。 囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

婚約破棄?しませんよ、そんなもの

おしゃべりマドレーヌ
BL
王太子の卒業パーティーで、王太子・フェリクスと婚約をしていた、侯爵家のアンリは突然「婚約を破棄する」と言い渡される。どうやら真実の愛を見つけたらしいが、それにアンリは「しませんよ、そんなもの」と返す。 アンリと婚約破棄をしないほうが良い理由は山ほどある。 けれどアンリは段々と、そんなメリット・デメリットを考えるよりも、フェリクスが幸せになるほうが良いと考えるようになり…… 「………………それなら、こうしましょう。私が、第一王妃になって仕事をこなします。彼女には、第二王妃になって頂いて、貴方は彼女と暮らすのです」 それでフェリクスが幸せになるなら、それが良い。 <嚙み痕で愛を語るシリーズというシリーズで書いていきます/これはスピンオフのような話です>

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

王子のこと大好きでした。僕が居なくてもこの国の平和、守ってくださいますよね?

人生1919回血迷った人
BL
Ωにしか見えない一途な‪α‬が婚約破棄され失恋する話。聖女となり、国を豊かにする為に一人苦しみと戦ってきた彼は性格の悪さを理由に婚約破棄を言い渡される。しかしそれは歴代最年少で聖女になった弊害で仕方のないことだった。 ・五話完結予定です。 ※オメガバースで‪α‬が受けっぽいです。

王子の恋

うりぼう
BL
幼い頃の初恋。 そんな初恋の人に、今日オレは嫁ぐ。 しかし相手には心に決めた人がいて…… ※擦れ違い ※両片想い ※エセ王国 ※エセファンタジー ※細かいツッコミはなしで

処理中です...