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ルークの部屋のキリンス
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「ルーク様!」
いきなり現れたルークに驚いて素っ頓狂な声を上げてしまった。アーネストも目を丸くしている。
「驚かせちゃってごめんね。最後の授業が移動教室だから迎えにくるのが遅くなっても待っててねって言いに来たんだけど」
「あ、そうなんですか。はい、ちゃんと待ってます。今兄のところに行って一緒に帰れない旨を伝えに行ったところだったんです」
「そうか」
「はい」
「で?」
「えっ?」
「誰に誘われたんだい?」
あっ……。そんなに気になってたんだ。
「グレアム王子です。ぼくら三人に王城に遊びに来るようにって」
「三人?」
「はい。ぼくと兄とアーネストと」
「ふうん……。そういえばハロルドは王子の側近だったね。アーネストも候補だったか」
「そうです」
ルークは何か言いたげにじーっとぼくを見ていたけれど、結局ぼくに何かを直接言うことはなく、一人だけじゃないんだからまあいいかと呟いた。
うわ、まずいな。
聞こえちゃったルークのつぶやきのせいで、今度はぼくの方がそわそわしてきた。
そんなぼくのそわそわは公爵家の馬車の中でも続き、クラーク公爵邸に着いても続いていた。
「さあ、どうぞ。遠慮しないでもいいよ。昨日のうちに連れて来れたらノエルを連れてくるって言ってあるから」
「あっ、ありがとうございます。失礼します」
遠い記憶にあるクラーク公爵邸と、変わっているところはないようだった。あの頃、ぼくがその幸せが永遠に続くと信じていた頃と何にも変わらない。
「お茶はお庭にご用意しますか?」
「いや、今日はあまり時間がないから僕の部屋に」
「かしこまりました」
「ノエル、おいで」
歩き慣れた廊下を通る。壁にかけられている絵も当時と変わらなくて懐かしかった。
「どうぞ」
えっ!?
促されて入ったルークの部屋を見てぼくは驚いた。ぼくがルークの婚約中にあげたキリンスがこの部屋にあったからだ。しかもほんの少しとは言え、成長している。
どうして? なんであれがここにある? だって巻き戻ってからまだぼくはルークにキリンスをあげていない。それともあれは別物?
……いや、間違いない。あれは確かにぼくがあげたものだ。だってあの鉢。ぼくが一生懸命ルークのためにと選んだものだもの。
「あの、ルーク様」
「ん?」
「あの鉢は?」
「ああ、キリンスという癒しの植物というものらしい。ノエルが育てている癒しの植物というのもあれかな?」
「え? はい、他にもいくつかありますけど。……その、あれはどこで手に入れたんですか?」
「それが分からないんだ。気がついたら僕の部屋にあって。しかも父上も母上も知らないというから不思議なんだけど」
どうしてキリンスがここにあるのかわからない。しかも、あげた時よりもしっかり成長しているところも謎だ。けれど、高揚感にぼくの胸はどきどきとうるさくなっていた。
「あの、ルーク様。ぼくが言うのもおこがましいんですけれど、キリンスは本当に貴重で希少な植物なんです。だからこのままどうぞ大事に育ててください」
「うん、そのつもりだよ。それに不思議なんだけど、僕にとってもキリンスがここにあるのがなぜだか当たり前のことに思えてならないんだ」
「そう、ですか」
よかった、大切にしてくれてるんならいいんだ。忙しかったルークに、少しでも癒しの時間を与えてあげられたらと思ってあげたあの頃のぼくの気持ちも報われる。
「失礼いたします」
「入って」
メイドがお茶とお菓子を持って入ってきた。ルークはテーブルにぼくを促す。おいしそうな焼き菓子にぼくは目を輝かせた。
いきなり現れたルークに驚いて素っ頓狂な声を上げてしまった。アーネストも目を丸くしている。
「驚かせちゃってごめんね。最後の授業が移動教室だから迎えにくるのが遅くなっても待っててねって言いに来たんだけど」
「あ、そうなんですか。はい、ちゃんと待ってます。今兄のところに行って一緒に帰れない旨を伝えに行ったところだったんです」
「そうか」
「はい」
「で?」
「えっ?」
「誰に誘われたんだい?」
あっ……。そんなに気になってたんだ。
「グレアム王子です。ぼくら三人に王城に遊びに来るようにって」
「三人?」
「はい。ぼくと兄とアーネストと」
「ふうん……。そういえばハロルドは王子の側近だったね。アーネストも候補だったか」
「そうです」
ルークは何か言いたげにじーっとぼくを見ていたけれど、結局ぼくに何かを直接言うことはなく、一人だけじゃないんだからまあいいかと呟いた。
うわ、まずいな。
聞こえちゃったルークのつぶやきのせいで、今度はぼくの方がそわそわしてきた。
そんなぼくのそわそわは公爵家の馬車の中でも続き、クラーク公爵邸に着いても続いていた。
「さあ、どうぞ。遠慮しないでもいいよ。昨日のうちに連れて来れたらノエルを連れてくるって言ってあるから」
「あっ、ありがとうございます。失礼します」
遠い記憶にあるクラーク公爵邸と、変わっているところはないようだった。あの頃、ぼくがその幸せが永遠に続くと信じていた頃と何にも変わらない。
「お茶はお庭にご用意しますか?」
「いや、今日はあまり時間がないから僕の部屋に」
「かしこまりました」
「ノエル、おいで」
歩き慣れた廊下を通る。壁にかけられている絵も当時と変わらなくて懐かしかった。
「どうぞ」
えっ!?
促されて入ったルークの部屋を見てぼくは驚いた。ぼくがルークの婚約中にあげたキリンスがこの部屋にあったからだ。しかもほんの少しとは言え、成長している。
どうして? なんであれがここにある? だって巻き戻ってからまだぼくはルークにキリンスをあげていない。それともあれは別物?
……いや、間違いない。あれは確かにぼくがあげたものだ。だってあの鉢。ぼくが一生懸命ルークのためにと選んだものだもの。
「あの、ルーク様」
「ん?」
「あの鉢は?」
「ああ、キリンスという癒しの植物というものらしい。ノエルが育てている癒しの植物というのもあれかな?」
「え? はい、他にもいくつかありますけど。……その、あれはどこで手に入れたんですか?」
「それが分からないんだ。気がついたら僕の部屋にあって。しかも父上も母上も知らないというから不思議なんだけど」
どうしてキリンスがここにあるのかわからない。しかも、あげた時よりもしっかり成長しているところも謎だ。けれど、高揚感にぼくの胸はどきどきとうるさくなっていた。
「あの、ルーク様。ぼくが言うのもおこがましいんですけれど、キリンスは本当に貴重で希少な植物なんです。だからこのままどうぞ大事に育ててください」
「うん、そのつもりだよ。それに不思議なんだけど、僕にとってもキリンスがここにあるのがなぜだか当たり前のことに思えてならないんだ」
「そう、ですか」
よかった、大切にしてくれてるんならいいんだ。忙しかったルークに、少しでも癒しの時間を与えてあげられたらと思ってあげたあの頃のぼくの気持ちも報われる。
「失礼いたします」
「入って」
メイドがお茶とお菓子を持って入ってきた。ルークはテーブルにぼくを促す。おいしそうな焼き菓子にぼくは目を輝かせた。
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