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第五章

懸念材料

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それにしても、俺にあんな酷いことをしておきながらよく堂々と俺の前に顔を出せるな。
駿介の陰に隠れながらしっかり睨んでやったのに、谷口は顔色さえ変えない。
谷口の傍には一緒に俺を襲った奴もいるけど、そいつは俺にすら興味はないようで、駿介の事をニヤニヤしながら見ている。

「邪魔なら先行けよ。ほら」

そう言って駿介は、俺を引き寄せわざわざ道をあけるような素振りを見せた。

「……本当に、駿介らしくないよな。どんなに騒がれててもキリッとして我関せずだったお前が、こんな平凡で取り柄のなさそうな奴に溺れてるなんてさ」
「…………」

駿介は訝しい表情で谷口を見る。
サラッと俺をディスるところはアレだが。……やっぱり谷口のそれは、駿介に憧れ過ぎる故の反発みたいだ。

「まあ、そいつも時々は可愛い顔するようだから? うっかりハマってしまったってのも、あるのかもしれないけど」

そう言ってチラリと俺の方を見る。
それにしてもだと言うのに、この二人のあまりにも変わらない態度に違和感を覚える。

もしかしたらあの時女神に邪魔をされたショックで、その時の記憶を失くしているんだろうか?

…………。

だとしたら……、やっぱり拙いんじゃないのか?
中途半端に誰にも知られずに終わったこともそうだけど、それよりもその当人が覚えていないってことは、また俺があんな目に遭う可能性が高まるってことなんじゃ……?

「お前マジで、真紀に何かしやがったら許さないからな」

駿介が低い声で威嚇して、谷口を睨んだ。
それに対して谷口らは、肩をすぼめたとぼけるような仕草をし、俺らを追い越し食堂へと歩いて行った。

「嫌な感じだな」

俺らの会話を聞いていたのだろう。水本生徒会長が、眉をしかめた。

「俺を嫌っているせいで、真紀にまで変なちょっかいを出そうとしてるみたいなんですよ」
「……嫌いねえ」

水本生徒会長は意味深に呟いて、谷口の方に視線を滑らせた。

「あれは嫌いと言うよりは、逆じゃないのかなあ」
「そう見えますよね」
「おいっ! って、水本先輩まで変なこと言わないで下さいよ」
「……俺もそう思うよ駿介」

くいくいと腕を引っ張って、駿介を見上げる。目が合った駿介は、『まだ本気でそんなことを考えているのか?』と言うような困った顔をしている。

「だって駿介カッコいいから、谷口みたいに変になる奴が出てもおかしくないよ」

俺が真顔でそう言うと、駿介は複雑な表情になった。
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