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第三章
相棒、青島
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俺らより数歩先に駿介の部屋に着いた青島が、手を伸ばしてカギを催促した。それに対し駿介は、慣れた手つきで青島に放ってよこす。
「はい、どうぞ」
青島は執事よろしく、大仰に手を広げて先に入るよう促した。
「何だ、お前は」
呆れたように笑いながらも、駿介は俺を誘って一緒に部屋に入る。
駿介の部屋は綺麗に片付いていた。机の上も綺麗に整頓されているし、俺のように脱ぎ捨てられている服もない。それに何だろう。心なしか爽やかな、いい匂いがするような気がする。
「駿介の部屋に入るのは、初めてか?」
「うん」
思わずきょろきょろしてしまう俺に、駿介が寄ってきてベッドをポンポンと叩いて座るように俺を促した。青島はもう勝手に、普通に椅子に腰かけている。
俺らの二人部屋よりも狭いけれど、個室にしては十分な広さだ。
その代わり、相談事に対処するようにという事だろう、部屋の一角にはミニソファセットのようなものが置かれていた。
「なあ、駿介。もし誰も来なかったら、俺ただのお邪魔虫なんじゃないのか?」
「そんな事は無いだろう。お互いをもっと理解し合うチャンスじゃないか」
「お互い? それって俺と芹沢のことか?」
「ああ」
「え?」
駿介の意外な言葉に、つい俺も反応した。目を丸くして駿介を見る俺に、駿介は小首を傾げ口角を上げる。
「信也は良くも悪くも歯に衣着せずに思ったことをズバズバ言うだろ? だから人によってはさ、煙たがられるんだよ」
「ああ……、うん」
「それは知ってる」
本人を目の前にちょっぴり言いにくくて濁して相槌を打ったのに、当の青島がしっかりと頷いた。青島の性格を分かってはいたけど、これだけ明け透けでは俺の方がドギマギする。
「だが直す気はないんだろう?」
「――無いな」
悪びれもしないサラッとしたこの言いよう。正直者で口が悪くて……。しかも人の心の裏まで見抜こうとするような、そんな得体のしれないところまであるし。
だけど…、裏表が無く正義感の強い、駿介の最高の相棒だ。
そうなんだよなあ……。
小説を読んでいる時は、この最強コンビのこの感じが羨ましいとすら思っていたんだよなあ。実際に会ってみたら、まあアレなんだけど。
ふと顔を上げたら、駿介と目が合った。その顔は、『こいつは凄くいい奴なんだぞ』と言っているように見えた。
分かってるよ、もちろん。
そして多分この青島には、自分も本音で話した方がいいんだろうってことも。
ふうっと一息吐いて肩の力を抜いた。
「……俺だって青島に悪気はないことは知ってるよ。だけど時々カチンってくるし、この野郎って思うことなんてしょっちゅうあるよ」
「――――」
一瞬言葉を失ったかのようにぽかんとした駿介が、俺の肩を叩きながら爆笑した。
「そうそう、それでいいんだよ」
「お前なあ……」
青島は、机に肘をついて脱力しながら俺を見る。だけどその表情は、心底楽しそうなものだ。
あ……、ああそうか。
俺も駿介同様に、青島に本音をぶつけてもいいんだな。
「さて、と。互いの距離が少し近くなったところで、信也に頼みがある」
「何だ?」
「谷口のことだ」
「あいつのことなら、注意して見ててやるって前にも約束しただろう」
「そうなんだけどさ。真紀――」
「あ、うん」
「俺がもちろん真紀の事を守る気でいるけど、いつも傍にいてやれるとは限らないから。俺がいない時は、なるべく信也の傍にいるようにしてくれ。信也にも、今以上に注意を払ってやってほしいんだ」
「それは構わないが、何かあったのか?」
「……谷口が、また俺に敵意を募らせてるみたいだって情報が入ってさ。まったく嫌になるよな」
「ああ、それもしかして、お前が用事で一年の教室に行った時のことが原因なんじゃないか?」
「え?」
「聞いたぞ。みんな熱烈歓迎で、総はしゃぎだったそうじゃないか」
「へえ……?」
二人の会話に、思わず低い声が漏れた。
てか俺、そのシーン知ってるぞ。確かいじめ問題で困っていた一年三組の担任が、駿介に憧れてる奴が多いからって理由で、駿介に寮での生活や友人を尊重し助け合うことを説いてくれと頼み込んだんだよな。
それでみんな駿介の言葉に感動して、教室を出て行った駿介の後を追って廊下で更に話し合ったって書いていた。
その時に確か、べたべた触りまくる奴もいたんだよな……。
秘かに回想してイライラしている俺の横で、青島がぼそっとつぶやく。
「それ、偶然に谷口が見ていたらしいぞ」
「何だよ、その理由は」
駿介は、ハアーッと大きくため息を吐いて乱暴に頭を掻いた。
「はい、どうぞ」
青島は執事よろしく、大仰に手を広げて先に入るよう促した。
「何だ、お前は」
呆れたように笑いながらも、駿介は俺を誘って一緒に部屋に入る。
駿介の部屋は綺麗に片付いていた。机の上も綺麗に整頓されているし、俺のように脱ぎ捨てられている服もない。それに何だろう。心なしか爽やかな、いい匂いがするような気がする。
「駿介の部屋に入るのは、初めてか?」
「うん」
思わずきょろきょろしてしまう俺に、駿介が寄ってきてベッドをポンポンと叩いて座るように俺を促した。青島はもう勝手に、普通に椅子に腰かけている。
俺らの二人部屋よりも狭いけれど、個室にしては十分な広さだ。
その代わり、相談事に対処するようにという事だろう、部屋の一角にはミニソファセットのようなものが置かれていた。
「なあ、駿介。もし誰も来なかったら、俺ただのお邪魔虫なんじゃないのか?」
「そんな事は無いだろう。お互いをもっと理解し合うチャンスじゃないか」
「お互い? それって俺と芹沢のことか?」
「ああ」
「え?」
駿介の意外な言葉に、つい俺も反応した。目を丸くして駿介を見る俺に、駿介は小首を傾げ口角を上げる。
「信也は良くも悪くも歯に衣着せずに思ったことをズバズバ言うだろ? だから人によってはさ、煙たがられるんだよ」
「ああ……、うん」
「それは知ってる」
本人を目の前にちょっぴり言いにくくて濁して相槌を打ったのに、当の青島がしっかりと頷いた。青島の性格を分かってはいたけど、これだけ明け透けでは俺の方がドギマギする。
「だが直す気はないんだろう?」
「――無いな」
悪びれもしないサラッとしたこの言いよう。正直者で口が悪くて……。しかも人の心の裏まで見抜こうとするような、そんな得体のしれないところまであるし。
だけど…、裏表が無く正義感の強い、駿介の最高の相棒だ。
そうなんだよなあ……。
小説を読んでいる時は、この最強コンビのこの感じが羨ましいとすら思っていたんだよなあ。実際に会ってみたら、まあアレなんだけど。
ふと顔を上げたら、駿介と目が合った。その顔は、『こいつは凄くいい奴なんだぞ』と言っているように見えた。
分かってるよ、もちろん。
そして多分この青島には、自分も本音で話した方がいいんだろうってことも。
ふうっと一息吐いて肩の力を抜いた。
「……俺だって青島に悪気はないことは知ってるよ。だけど時々カチンってくるし、この野郎って思うことなんてしょっちゅうあるよ」
「――――」
一瞬言葉を失ったかのようにぽかんとした駿介が、俺の肩を叩きながら爆笑した。
「そうそう、それでいいんだよ」
「お前なあ……」
青島は、机に肘をついて脱力しながら俺を見る。だけどその表情は、心底楽しそうなものだ。
あ……、ああそうか。
俺も駿介同様に、青島に本音をぶつけてもいいんだな。
「さて、と。互いの距離が少し近くなったところで、信也に頼みがある」
「何だ?」
「谷口のことだ」
「あいつのことなら、注意して見ててやるって前にも約束しただろう」
「そうなんだけどさ。真紀――」
「あ、うん」
「俺がもちろん真紀の事を守る気でいるけど、いつも傍にいてやれるとは限らないから。俺がいない時は、なるべく信也の傍にいるようにしてくれ。信也にも、今以上に注意を払ってやってほしいんだ」
「それは構わないが、何かあったのか?」
「……谷口が、また俺に敵意を募らせてるみたいだって情報が入ってさ。まったく嫌になるよな」
「ああ、それもしかして、お前が用事で一年の教室に行った時のことが原因なんじゃないか?」
「え?」
「聞いたぞ。みんな熱烈歓迎で、総はしゃぎだったそうじゃないか」
「へえ……?」
二人の会話に、思わず低い声が漏れた。
てか俺、そのシーン知ってるぞ。確かいじめ問題で困っていた一年三組の担任が、駿介に憧れてる奴が多いからって理由で、駿介に寮での生活や友人を尊重し助け合うことを説いてくれと頼み込んだんだよな。
それでみんな駿介の言葉に感動して、教室を出て行った駿介の後を追って廊下で更に話し合ったって書いていた。
その時に確か、べたべた触りまくる奴もいたんだよな……。
秘かに回想してイライラしている俺の横で、青島がぼそっとつぶやく。
「それ、偶然に谷口が見ていたらしいぞ」
「何だよ、その理由は」
駿介は、ハアーッと大きくため息を吐いて乱暴に頭を掻いた。
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