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第三章
正式にご招待
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「じゃあな、駿介は真紀の部屋に寄って行くんだろ?」
「……そうだな」
食事を終えた廊下での会話だ。
青島の言葉に、駿介はらしくなく少し迷った素振を見せた。
「どうしたの? もし用事があるんなら、いいよ」
「いや、用事があるわけではないんだけど……。副寮長に就任が決まった時にさ、勝野先輩に時々は部屋に居て相談事もたまには聞いてやるようにと言われてたからさ」
「ああ、なるほど。なら芹沢が、駿介の部屋に行けばいいな」
「それはそうなんだが」
「……邪魔?」
「まさか!」
「だって今……」
煮え切らない感じの駿介にちょっと拗ねて、上目使いで彼を見た。すると駿介は、バツが悪そうに頭を掻く。
「そうじゃなくてさ、二人きりでいると真紀の事を甘やかしたくなるんだよ。そんな状態で誰かが来たら、拙いだろ」
「……え?」
「真紀の部屋なら鍵も掛けられるけどな」
色っぽく笑いながら言う駿介に顔が熱くなった。
「じゃ、じゃあ……邪魔ってわけじゃないんだ」
「当たり前だろう」
微笑んで言う駿介にホッとした。
そう言えば、サラッと書かれていただけだから忘れていたけれど、副寮長の駿介の部屋には相談事を名目に結構な人が訪ねて来ていたと書かれていたっけ。
「やっぱ、俺行く」
「え?」
「邪魔じゃないって言ったろ?」
「それはそうだけど……」
「じゃあ、行く。だって相談って言いながら、絶対駿介目当ての奴がいるに決まって……あっ!」
ちょっと待て、俺。
三森に対して勝手に目立つような行動するなって怒ったくせに、自分はいいだなんてモロ棚上げじゃん。駿介の傍に来る奴に一々嫉妬して、相手に俺の存在をアピールしようだなんて目立つ行為じゃないなんて言えない。
相手はこの駿介だし…。
「ごめん、やっぱ……!?」
俺の雰囲気が変わったことに気がついたんだろう。手を振って「今の無し」って言おうとした俺の手を、駿介がパシッと掴まえた。
「いいよ、来い」
「や……、でも」
戸惑い始めた俺をよそに、駿介は青島の方に顔を向けた。
「お前も来いよ」
「は? 何で?」
怪訝な顔をする青島に、駿介は口角を上げてニヤリと笑った。
「――クッション材だ」
「――――」
一瞬目を見開いた青島は、すぐに大声を出して笑った。
「ほんっと、お前はヤな奴だなあ」
「それはお互い様だ」
キョトンとする俺を余所に、駿介達は楽しそうに笑っている。
そしてひとしきり笑った後、駿介は俺の方に顔を向け目を細めた。その優しい表情に、心臓がキュウって甘く痛んだ。
「さて、と。真紀――」
「う、うん」
「俺の部屋に正式に招待するよ」
そして掴んでいる俺の手を、さらにキュッと握った。
ああ、もう。ああ、もう!
何だよこれ。どこの王子様だよ!
優しい表情で俺の手を引く駿介。その前方を、青島が肩を震わせて笑いながら歩いている。
駿介に大事にされていて嬉しいと思う反面、この二人のお互いを理解し合っている関係が本当に羨ましいと思った。
勿論これは、小説通りの関係なんだけど。
……俺、本当にこの話の中に入り込んでいるんだよな。ただ、俺や三森が入り込んでしまっているせいでかなり展開が違っているような気がするけど。
「……そうだな」
食事を終えた廊下での会話だ。
青島の言葉に、駿介はらしくなく少し迷った素振を見せた。
「どうしたの? もし用事があるんなら、いいよ」
「いや、用事があるわけではないんだけど……。副寮長に就任が決まった時にさ、勝野先輩に時々は部屋に居て相談事もたまには聞いてやるようにと言われてたからさ」
「ああ、なるほど。なら芹沢が、駿介の部屋に行けばいいな」
「それはそうなんだが」
「……邪魔?」
「まさか!」
「だって今……」
煮え切らない感じの駿介にちょっと拗ねて、上目使いで彼を見た。すると駿介は、バツが悪そうに頭を掻く。
「そうじゃなくてさ、二人きりでいると真紀の事を甘やかしたくなるんだよ。そんな状態で誰かが来たら、拙いだろ」
「……え?」
「真紀の部屋なら鍵も掛けられるけどな」
色っぽく笑いながら言う駿介に顔が熱くなった。
「じゃ、じゃあ……邪魔ってわけじゃないんだ」
「当たり前だろう」
微笑んで言う駿介にホッとした。
そう言えば、サラッと書かれていただけだから忘れていたけれど、副寮長の駿介の部屋には相談事を名目に結構な人が訪ねて来ていたと書かれていたっけ。
「やっぱ、俺行く」
「え?」
「邪魔じゃないって言ったろ?」
「それはそうだけど……」
「じゃあ、行く。だって相談って言いながら、絶対駿介目当ての奴がいるに決まって……あっ!」
ちょっと待て、俺。
三森に対して勝手に目立つような行動するなって怒ったくせに、自分はいいだなんてモロ棚上げじゃん。駿介の傍に来る奴に一々嫉妬して、相手に俺の存在をアピールしようだなんて目立つ行為じゃないなんて言えない。
相手はこの駿介だし…。
「ごめん、やっぱ……!?」
俺の雰囲気が変わったことに気がついたんだろう。手を振って「今の無し」って言おうとした俺の手を、駿介がパシッと掴まえた。
「いいよ、来い」
「や……、でも」
戸惑い始めた俺をよそに、駿介は青島の方に顔を向けた。
「お前も来いよ」
「は? 何で?」
怪訝な顔をする青島に、駿介は口角を上げてニヤリと笑った。
「――クッション材だ」
「――――」
一瞬目を見開いた青島は、すぐに大声を出して笑った。
「ほんっと、お前はヤな奴だなあ」
「それはお互い様だ」
キョトンとする俺を余所に、駿介達は楽しそうに笑っている。
そしてひとしきり笑った後、駿介は俺の方に顔を向け目を細めた。その優しい表情に、心臓がキュウって甘く痛んだ。
「さて、と。真紀――」
「う、うん」
「俺の部屋に正式に招待するよ」
そして掴んでいる俺の手を、さらにキュッと握った。
ああ、もう。ああ、もう!
何だよこれ。どこの王子様だよ!
優しい表情で俺の手を引く駿介。その前方を、青島が肩を震わせて笑いながら歩いている。
駿介に大事にされていて嬉しいと思う反面、この二人のお互いを理解し合っている関係が本当に羨ましいと思った。
勿論これは、小説通りの関係なんだけど。
……俺、本当にこの話の中に入り込んでいるんだよな。ただ、俺や三森が入り込んでしまっているせいでかなり展開が違っているような気がするけど。
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