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第三章

何者?

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この小説内で目立つ駿介と恋人同士になったせいで、俺の生きがいとも言える男同士のいちゃいちゃをこっそり眺めて楽しむという事が容易にできなくなってしまっていた。

いや、もちろん駿介と両想いになれて幸せではあるんだけどね。

「真紀、行くぞ」

放課後、授業が終わり駿介が一直線に俺の席にやって来た。二人三脚の練習だ。
今日は樹たちは練習する気はないとのことだったので、二人だけでグラウンドへ向かった。

「稲積」

廊下を歩いていると後ろから、駿介を呼ぶ声が聞こえた。振り返ると寮長の勝野が立っている。

「勝野さん、どうかしましたか?」
「1年の態度がなってないとかで、若林らがもめてる話をしただろう?」
「してましたね。確か郷田が仲裁して沈静してるって言ってましたよね」
「……なんだけどなあ。又ごちゃごちゃやり合ってるみたいなんだよ」

深刻な話しが始まった隣で、俺はトイレに行きたくなってしまっていた。駿介の腕を遠慮がちに叩き、トイレに行くという事をジェスチャーで示す。駿介が笑って頷いたので、俺は即効トイレへと走った。

「……はーっ。すっきりした」

手をせっせと洗っていると、背後に気配を感じた。顔を上げて鏡を見ると、三森が立っている。

「こんにちは」
「……こんにちは」

三森は挨拶を交わしたまま、動こうとはしない。手を洗うつもりもなければ、用を足しに来た気配もない。どうやら、俺自身に用があるようだ。

「聞いてもいいですか?」
「……何?」

にこりともしない三森の問い掛けに、俺は身構える。

「あなた何者?」
「何者って……」

その探るような表情が、三森の意図を表しているような気がしたけどあえて知らない振りをした。

「僕が聞きたいこと分かっているんでしょう? 僕はあなたの名前を知らない」
「知らないって……。そりゃ学年も違うし――」
「そんな事を言ってるんじゃないんです。芹沢さんは、この世界には存在しないはずだ」

ドクンと大きく心臓が鳴った。掌から勝手に汗がにじむ。
だけど――。

それを知っているという事は、三森もやっぱりこの小説の中の登場人物じゃないということになる。

やっぱりという思いとともに、俺は嫌な緊張にごくりと唾をのみ込んだ。
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