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第二章

幸せ真っただ中ではあるんだけど

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しっとりと、俺の唇に駿介が唇を押しあてる。だけどそれはすぐに、ゆっくりと名残惜しそうに離れていった。

「こんな所じゃ、まずいよな」

駿介はそう言って小さく笑い、俺の唇に指を這わせた。色っぽいその行動にドキリとする。

あ~、やっぱりこんなの慣れないよ。
できれば向こうの柱の陰から、こっそり覗く立場になりたい。

「……そうだ真紀。今日も二人三脚の練習するからな」

駿介の指は俺の唇から離れて、今は頬を撫でている。こそばゆくて、肩をすくめた。
そんな俺に駿介は小さく笑い、ゆっくりと指を離す。

「真紀? 了解?」
「……あー、わかった」
「なんだ、相変わらず嫌そうだな」
「しょうがないじゃん、苦手なんだから。こういう悩みは、運動神経のいい奴には分からないんだよ」
「そうかあ? 俺なら単純に、好きな奴に密着できると思って嬉しいけどな」
「そっ、れは……」
「いちゃいちゃ出来ると思って楽しめよ」
「……っ、だからそういうのは、……よけい恥ずかしいじゃんか」
「ふふっ」

一生懸命こらえたけれど思わず零れ落ちてしまったといった風に駿介が笑った。

「な、何だよ?」
「いいや? 可愛いなと思って」
「ばっ、な、何言ってんだよ。可愛いって言うのは樹みたいな奴のことを言うんであって……!」

真っ赤になって反論すると、駿介は何とも言えない不思議な表情で笑った。苦笑しているというか、幸せそうというか……。

「さてと、急ぐとするか。のんびりしてると授業に遅れる」
「あ、そうだよね」

ハッとする俺に駿介が手を差し出した。ポンッとその上に手のひらを乗っけると、ギュッと握って歩き出した。

……不思議な気分だ。
本当にこんな格好いい駿介の恋人になってしまうなんて、まるで俺が主人公になっちまったみたいだ。
……なんてな。
この小説の主人公は樹だけだ。可愛くて憎めない樹だからこそ、みんなハマるんだから。

――あれ?
今の……。

駿介に引っ張られながらちらっと見えただけだから見間違いかもしれないけど……、三森?

それこそ向こうの柱の陰から、窺うようにこちらを見ていた。じんわりと重苦しい空気を纏いながら……。

本当に何なんだ、あいつは。
谷口のように悪どいキャラなんかではないんだろうけど、だけどもしも本当に俺が考えているように転移して来た奴だったとしたらどうなるんだ?

あの感じじゃ仲間だって言っても、相談できる相手になんかなりそうにもないし…… 。

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