26 / 80
第二章
可愛いぞ、樹
しおりを挟む
俺らがそんなふうに三森の話しをしている最中、駿介の方も彼のことを報告しないといけないと思っていたらしい。三森の同室者、石橋の事を、一年生に尋ねる声が聞こえてきた。
「俺の方も少し聞きたい事があるんだが、一年三組の石橋だが……、どんな奴だ?」
「石橋ですか? 別にこれといって……、普通ですよ?」
「――何を考えているか分からないというような、そんな妙な空気は……?」
「ええっ? それは無いですよ。普通に明るくて穏やかな奴ですよ。……何かあったんですか?」
「あー……、いや、そういう事ならいい。思い過ごしの可能性もあるから。ただちょっと、意識だけはしておいてくれるか? それでもし万が一気になる事が出てきたら、俺でも寮長でもいいから報告してくれるかな?」
「わかりました」
話題が話題だっただけに、俺らの耳は駿介達の会話に釘付けだった。カレーを口に運ぶ手は止まらないけれど、誰も言葉を発する者はいなかった。だけどその後、すぐに別の話題に替わった事で報告会への興味は遠のき、自然とまた三森の話へと流れた。
「あの感じだと石橋って同室者が、思い余って……って雰囲気は考えにくいよな。……もしかして三森って、恋愛成就には手段を選ばない奴って事?」
ちょっぴり眉間に皺を寄せ、嫌そうな顔で樹が言った。
「そうかもなー」
基本、それほど駿介に興味のない良介は、おざなりに樹に返事を返す。
「なんだよもう、真紀の一大事だぞ。もうちょっと真剣になれよ」
「ええっ? 駿介ならそのくらい、うまく往なすだろ。どう見てもあいつ、真紀にベタ惚れだぞ?」
「そりゃそうかもしれないけどー」
「だろ? 大丈夫、俺は樹の危機には全力出すから」
「な、何だよ、良介ったら……」
俺を肴にしているのは気に入らないけれど、目の前で起きている痴話喧嘩的イチャイチャは、大歓迎だ。
あ、青島が妙な眼で俺を見ている。いかんいかん、口元を引き締めなければ。
「楽しそうだな」
頭上から聞こえてきた声に顔を上げると、谷口が下級生を引き連れて俺らのテーブルにやって来ていた。
嫌な印象しかない谷口の登場に、一瞬にして気分が萎えた。
「駿介なら報告会だぞ」
青島はそう言って、背後に親指を向ける。
「は? 別に駿介に用事なんてないけど」
「そうなのか? お前いつもあいつのこと意識してるみたいだったから」
「まさか。多少被るところがあるかもしれないけど、意識した覚えはないね」
被る……? どこが。
「まあ、いい。ここじゃ全員は座れないな。どこか――」
「谷口先輩、向こう空いてます」
「ああ、そうだな。じゃあ、失礼」
チラリと視線を俺に寄こして、谷口らはぞろぞろと移動していった。
「何をしに来たんだ、あいつは?」
「駿介に対する嫌がらせだろ。……真紀は少し気を付けた方がいいかもしれないな」
「えーー」
やっぱり俺そういう対象になっちゃうの?
めっちゃ迷惑。
「真紀のことは、俺も守るからね」
樹がまじめな顔で宣言する。
「いや、それは危なそうだから――」
「危ないってなんだよ。心配してるのに」
「ええっ? だってどう見たって、俺より樹の方が可愛いじゃないか」
「何言ってんだよ。可愛さでいったら真紀の方が上だろ! なあ、良介!」
「いや、それは――」
樹の言葉に眉を下げて言いよどむ良介に、青島が笑い出した。
「お前、それ良介に言うのかよ」
「ええっ? 何でだよ」
「うわっ!」
突然背後から肩に手を置かれてびっくりして叫んでしまった。ギョッとして振り返ると、ちょっぴり真顔の駿介が立っていた。
「有り難いけど、真紀は俺が守るから樹は余計な心配しないでいいよ」
「駿介……」
「そりゃ、そうかもしれないけどさあ」
「それよりも樹は、良介に守られてろ。そっちの方が合ってる」
「何だよ、それ!」
茶々を入れたような物言いだが、的確な青島の発言に樹は真っ赤になった。
「俺の方も少し聞きたい事があるんだが、一年三組の石橋だが……、どんな奴だ?」
「石橋ですか? 別にこれといって……、普通ですよ?」
「――何を考えているか分からないというような、そんな妙な空気は……?」
「ええっ? それは無いですよ。普通に明るくて穏やかな奴ですよ。……何かあったんですか?」
「あー……、いや、そういう事ならいい。思い過ごしの可能性もあるから。ただちょっと、意識だけはしておいてくれるか? それでもし万が一気になる事が出てきたら、俺でも寮長でもいいから報告してくれるかな?」
「わかりました」
話題が話題だっただけに、俺らの耳は駿介達の会話に釘付けだった。カレーを口に運ぶ手は止まらないけれど、誰も言葉を発する者はいなかった。だけどその後、すぐに別の話題に替わった事で報告会への興味は遠のき、自然とまた三森の話へと流れた。
「あの感じだと石橋って同室者が、思い余って……って雰囲気は考えにくいよな。……もしかして三森って、恋愛成就には手段を選ばない奴って事?」
ちょっぴり眉間に皺を寄せ、嫌そうな顔で樹が言った。
「そうかもなー」
基本、それほど駿介に興味のない良介は、おざなりに樹に返事を返す。
「なんだよもう、真紀の一大事だぞ。もうちょっと真剣になれよ」
「ええっ? 駿介ならそのくらい、うまく往なすだろ。どう見てもあいつ、真紀にベタ惚れだぞ?」
「そりゃそうかもしれないけどー」
「だろ? 大丈夫、俺は樹の危機には全力出すから」
「な、何だよ、良介ったら……」
俺を肴にしているのは気に入らないけれど、目の前で起きている痴話喧嘩的イチャイチャは、大歓迎だ。
あ、青島が妙な眼で俺を見ている。いかんいかん、口元を引き締めなければ。
「楽しそうだな」
頭上から聞こえてきた声に顔を上げると、谷口が下級生を引き連れて俺らのテーブルにやって来ていた。
嫌な印象しかない谷口の登場に、一瞬にして気分が萎えた。
「駿介なら報告会だぞ」
青島はそう言って、背後に親指を向ける。
「は? 別に駿介に用事なんてないけど」
「そうなのか? お前いつもあいつのこと意識してるみたいだったから」
「まさか。多少被るところがあるかもしれないけど、意識した覚えはないね」
被る……? どこが。
「まあ、いい。ここじゃ全員は座れないな。どこか――」
「谷口先輩、向こう空いてます」
「ああ、そうだな。じゃあ、失礼」
チラリと視線を俺に寄こして、谷口らはぞろぞろと移動していった。
「何をしに来たんだ、あいつは?」
「駿介に対する嫌がらせだろ。……真紀は少し気を付けた方がいいかもしれないな」
「えーー」
やっぱり俺そういう対象になっちゃうの?
めっちゃ迷惑。
「真紀のことは、俺も守るからね」
樹がまじめな顔で宣言する。
「いや、それは危なそうだから――」
「危ないってなんだよ。心配してるのに」
「ええっ? だってどう見たって、俺より樹の方が可愛いじゃないか」
「何言ってんだよ。可愛さでいったら真紀の方が上だろ! なあ、良介!」
「いや、それは――」
樹の言葉に眉を下げて言いよどむ良介に、青島が笑い出した。
「お前、それ良介に言うのかよ」
「ええっ? 何でだよ」
「うわっ!」
突然背後から肩に手を置かれてびっくりして叫んでしまった。ギョッとして振り返ると、ちょっぴり真顔の駿介が立っていた。
「有り難いけど、真紀は俺が守るから樹は余計な心配しないでいいよ」
「駿介……」
「そりゃ、そうかもしれないけどさあ」
「それよりも樹は、良介に守られてろ。そっちの方が合ってる」
「何だよ、それ!」
茶々を入れたような物言いだが、的確な青島の発言に樹は真っ赤になった。
27
お気に入りに追加
948
あなたにおすすめの小説
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
異世界に来たけど、自分はモブらしいので帰りたいです。
蒼猫
BL
聖女召喚に巻き込まれた就活中の27歳、桜樹 海。
見知らぬ土地に飛ばされて困惑しているうちに、聖女としてもてはやされる女子高生にはストーカー扱いをされ、聖女を召喚した王様と魔道士には邪魔者扱いをされる。元いた世界でもモブだったけど、異世界に来てもモブなら俺の存在意義は?と悩むも……。
暗雲に覆われた城下町を復興支援しながら、騎士団長と愛を育む!?
山あり?谷あり?な異世界転移物語、ここにて開幕!
18禁要素がある話は※で表します。
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
BLゲーに転生!!やったーーー!しかし......
∞輪廻∞
BL
BLゲーの悪役に転生した!!!よっしゃーーーー!!!やったーーー!! けど、、なんで、、、
ヒロイン含めてなんで攻略対象達から俺、好かれてるんだ?!?
ヒロイン!!
通常ルートに戻れ!!!
ちゃんとヒロインもヒロイン(?)しろーー!!!
攻略対象も!
ヒロインに行っとけ!!!
俺は、観セ(ゴホッ!!ゴホッ!ゴホゴホッ!!
俺はエロのスチルを見てグフグフ言うのが好きなんだよぉーー!!!( ̄^ ̄゜)
誰かーーー!!へるぷみぃー!!!
この、悪役令息
無自覚・天然!!
風紀“副”委員長はギリギリモブです
柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。
俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。
そう、“副”だ。あくまでも“副”。
だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに!
BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。
【第1部完結】悪役令息ですが、家族のため精一杯生きているので邪魔しないでください~僕の執事は僕にだけイケすぎたオジイです~
ちくわぱん
BL
【11/28第1部完結・12/8幕間完結】(第2部開始は年明け後の予定です)ハルトライアは前世を思い出した。自分が物語の当て馬兼悪役で、王子と婚約するがのちに魔王になって結局王子と物語の主役に殺される未来を。死にたくないから婚約を回避しようと王子から逃げようとするが、なぜか好かれてしまう。とにかく悪役にならぬように魔法も武術も頑張って、自分のそばにいてくれる執事とメイドを守るんだ!と奮闘する日々。そんな毎日の中、困難は色々振ってくる。やはり当て馬として死ぬしかないのかと苦しみながらも少しずつ味方を増やし成長していくハルトライア。そして執事のカシルもまた、ハルトライアを守ろうと陰ながら行動する。そんな二人の努力と愛の記録。両片思い。じれじれ展開ですが、ハピエン。
気づいて欲しいんだけど、バレたくはない!
甘蜜 蜜華
BL
僕は、平凡で、平穏な学園生活を送って........................居たかった、でも無理だよね。だって昔の仲間が目の前にいるんだよ?そりゃぁ喋りたくて、気づいてほしくてメール送りますよね??突然失踪した族の総長として!!
※作者は豆腐メンタルです。※作者は語彙力皆無なんだなァァ!※1ヶ月は開けないようにします。※R15は保険ですが、もしかしたらR18に変わるかもしれません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる