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第二章

可愛いぞ、樹

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俺らがそんなふうに三森の話しをしている最中、駿介の方も彼のことを報告しないといけないと思っていたらしい。三森の同室者、石橋の事を、一年生に尋ねる声が聞こえてきた。

「俺の方も少し聞きたい事があるんだが、一年三組の石橋だが……、どんな奴だ?」
「石橋ですか? 別にこれといって……、普通ですよ?」
「――何を考えているか分からないというような、そんな妙な空気は……?」
「ええっ? それは無いですよ。普通に明るくて穏やかな奴ですよ。……何かあったんですか?」

「あー……、いや、そういう事ならいい。思い過ごしの可能性もあるから。ただちょっと、意識だけはしておいてくれるか? それでもし万が一気になる事が出てきたら、俺でも寮長でもいいから報告してくれるかな?」

「わかりました」

話題が話題だっただけに、俺らの耳は駿介達の会話に釘付けだった。カレーを口に運ぶ手は止まらないけれど、誰も言葉を発する者はいなかった。だけどその後、すぐに別の話題に替わった事で報告会への興味は遠のき、自然とまた三森の話へと流れた。

「あの感じだと石橋って同室者が、思い余って……って雰囲気は考えにくいよな。……もしかして三森って、恋愛成就には手段を選ばない奴って事?」

ちょっぴり眉間に皺を寄せ、嫌そうな顔で樹が言った。

「そうかもなー」

基本、それほど駿介に興味のない良介は、おざなりに樹に返事を返す。

「なんだよもう、真紀の一大事だぞ。もうちょっと真剣になれよ」
「ええっ? 駿介ならそのくらい、うまく往なすだろ。どう見てもあいつ、真紀にベタ惚れだぞ?」
「そりゃそうかもしれないけどー」
「だろ? 大丈夫、俺は樹の危機には全力出すから」
「な、何だよ、良介ったら……」

俺を肴にしているのは気に入らないけれど、目の前で起きている痴話喧嘩的イチャイチャは、大歓迎だ。

あ、青島が妙な眼で俺を見ている。いかんいかん、口元を引き締めなければ。

「楽しそうだな」

頭上から聞こえてきた声に顔を上げると、谷口が下級生を引き連れて俺らのテーブルにやって来ていた。
嫌な印象しかない谷口の登場に、一瞬にして気分が萎えた。

「駿介なら報告会だぞ」

青島はそう言って、背後に親指を向ける。

「は? 別に駿介に用事なんてないけど」
「そうなのか? お前いつもあいつのこと意識してるみたいだったから」
「まさか。多少被るところがあるかもしれないけど、意識した覚えはないね」

被る……? どこが。

「まあ、いい。ここじゃ全員は座れないな。どこか――」
「谷口先輩、向こう空いてます」
「ああ、そうだな。じゃあ、失礼」

チラリと視線を俺に寄こして、谷口らはぞろぞろと移動していった。

「何をしに来たんだ、あいつは?」
「駿介に対する嫌がらせだろ。……真紀は少し気を付けた方がいいかもしれないな」
「えーー」

やっぱり俺そういう対象になっちゃうの?
めっちゃ迷惑。

「真紀のことは、俺も守るからね」
樹がまじめな顔で宣言する。

「いや、それは危なそうだから――」
「危ないってなんだよ。心配してるのに」
「ええっ? だってどう見たって、俺より樹の方が可愛いじゃないか」
「何言ってんだよ。可愛さでいったら真紀の方が上だろ! なあ、良介!」
「いや、それは――」

樹の言葉に眉を下げて言いよどむ良介に、青島が笑い出した。

「お前、それ良介に言うのかよ」
「ええっ? 何でだよ」
「うわっ!」

突然背後から肩に手を置かれてびっくりして叫んでしまった。ギョッとして振り返ると、ちょっぴり真顔の駿介が立っていた。

「有り難いけど、真紀は俺が守るから樹は余計な心配しないでいいよ」
「駿介……」
「そりゃ、そうかもしれないけどさあ」
「それよりも樹は、良介に守られてろ。そっちの方が合ってる」
「何だよ、それ!」

茶々を入れたような物言いだが、的確な青島の発言に樹は真っ赤になった。
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