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第二章

邪魔なんですけど

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「じゃあ俺たち、先に行くな」
「ああ」

樹と青島は、手を振って教室へと戻って行った。

「さ、俺達も急いで飯を食べるか」
「うん、そうだね」

二人ともお喋りしながらの食事だったので、半分以上が残っていた。なので暫く二人とも、黙々と箸を進める。

「ご馳走さまっと……、真紀は……、もうちょっとだな」
「うん、ごめん。急ぐから、待って」

残りのお味噌汁をズズズと飲んで、慌てて卵焼きを口の中に放り込む。

「おいおい、慌てるな。大丈夫、ちゃんと待ってるよ」

そう言いながら肘をつき、駿介は楽しそうに笑って俺を見ている。
なんだろう、凄くこそばゆい。

「おはようございます」

ほんわかと出来上がった駿介との幸せなホコホコとした雰囲気を、あざと可愛らしい声がぶち壊した。三森だ。

「おはよう」
「……おはよう」

一瞬無視しようとも思ったんだけど、あまりにもそれは大人気ないかと思い直し、俺も一応挨拶は返してみた。だけど三森も俺に挨拶をしたいわけではないので、駿介だけに笑顔を向ける。
おまけにこいつは駿介に、挨拶だけで満足するような可愛らしい後輩なんかじゃなかった。そのまま立ち止まり、ニコニコと駿介を見続けている。
駿介もそれを察したのか、三森に話しかけた。

「……そう言えば、石橋の様子はどうなんだ?」

「今のところ特に、これと言って変わりはないです。一応駿介先輩がアドバイスしてくれた通りに、友達としか思っていないって言う態度はとるようにしていますけど……」

「そうか。じゃあ暫くは、そんな感じで様子を見ていた方がいいかもしれないな」
「……はい、あの……」
「何?」
「あの……、駿介先輩の部屋は一人部屋なんですよね?」
「ああ、だけどもともと一人部屋として造られているから、部屋自体は狭いぞ」
「そう……、ですよね」

なんだ三森の奴。まるで駿介の部屋に移れないかって訴えてるみたいだ。チラチラと駿介を窺う姿も、スッゲー気に障る。しおらしい小動物みたいな恰好なんかしやがって。

「……なんだ? もしかして部屋を移動したいくらい切羽詰まってるのか?」
「僕としては、そうです。……あ、石橋が直接変な事をしに来たわけではないんですけど」

三森の訴えに、駿介が少し考える素振りを見せた。

「1年の方では、あぶれて一人部屋になってる奴はいなかったよな」
「……はい」

おいおい……。駿介の部屋に引っ越させるなんて言うなよ?

「それじゃあ柏木に頼んで、同室になってもらうように言ってみるか」
ああ、そうか! 柏木!
納得する俺の前で、三森は複雑な顔になった。

「えっ、あの……。柏木さんって?」
「俺と同じ二年生だけど、本来二人で使う部屋を一人で使っているんだ。だからちょうどベッドも余ってるぞ」
「あっ、や。いきなり見知らぬ上級生と一緒だと緊張しますので……。駿介先輩の部屋は……」
「俺の部屋はダメだ。さっきも言った通り、初めから一人部屋に造られているから、ベッドも一つしかないんだ」
「あ……、そうですよね」
「どうする? 部屋を移りたいんなら、話を通してもいいぞ」

駿介がそう提案すると、三森は少し考える素振りを見せた後首を横に振った。

「やっぱり少し様子を見てみます」
「そうか、わかった」
「でもあの、時々相談に乗って下さいね」
「ああ、いいよ」

駿介がそう言うと、三森はぺこりと頭を下げて去って行った。

じーっと駿介を見ていたら目が合った。

「食べ終わったようだな、行くか」
「うん。……でも、良かった。駿介と三森が一緒の部屋にならなくて」
「ええっ? なにお前、そんな心配してたのか?」
「だって……」

あざといし、ヤな感じの奴だけど、顔だけはメッチャ可愛いし。駿介がクラクラしないって保証はどこにもないもんな。

「ああ……、拙いな」

駿介はため息をついて掌を額に当てた。

あ、もしかして嫉妬深い重い奴だと思われた?
それは嫌だ。駿介に嫌われたりしたら俺……。

「あ、あの駿介……」
「お前さ――」

そう言いながら顔を上げた駿介の表情は、俺が想像していたものとは違い……。
恐ろしく色っぽいものだった。
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