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第一章
冷静な人
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「御影さん!」
走り寄って名前を呼んだら、御影さんが『え?』という表情で振り返った。
まさか俺が話しかけるとは思ってもいなかったらしい。
「……なに?」
一見綺麗で愛らしい風貌に相反するニコリともしないその表情が、御影さんの冷静さを余計に際立たせていて、俺は悲しいことに緊張を強いられるハメに陥る。
そういや御影さんの笑っている表情も、バカ笑いに程遠い静かで控えめな表情だったよなあ……。
「用がなければ行くよ。のんびりしてる暇はないだろ? 君も」
「あ、すみません! あの……、えとっ、えと……、す、好きです」
「…………」
特に用事があったわけじゃない。ただ御影さんの傍に行きたい、そして出来れば何か話がしたいと思っただけだ。
だから慌てて発した俺の言葉は、すごくバカ丸出しな物になってしまっていて焦った。
御影さんも絶句しているし……。
「――知ってる。前にも聞いた。だけど……」
「え?」
なんだか意味深にも聞こえる御影さんの返事に、なんだろうと御影さんを見た。だけど御影さんは相変わらず静かな伏し目がちな表情で、言葉以上のことを読み取ることが出来ない。
「いや、何でもない。これ以上のんびりしていたら遅刻する。もう行くぞ」
「あ、……はい。引き止めて、すみませんでした」
俺の挨拶が済むや否や、すぐに御影さんは踵を返して去って行ってしまった。
……片思いって、悲しいなあ。
好きって気持ちはムクムクと嫌になるくらい育っているのに、大好きな御影さんとの距離は一向に縮まる気配すらない。
あ~、もうっ!
グダグダ考えるのは性に合わないんだよ!
……だけど御影さんは、俺にとってはまるで雲の上に居るような人だ。
いくら好意的に応援してくれる人がいたとしても、その雲の上に居るような人が俺のことを好きになってくれる確率はかなり低いだろう。
どうすれば御影さんが俺のことを好きになってくれるのか、何度考えても出てきてくれない答えに、俺はため息を吐いたのだった。
走り寄って名前を呼んだら、御影さんが『え?』という表情で振り返った。
まさか俺が話しかけるとは思ってもいなかったらしい。
「……なに?」
一見綺麗で愛らしい風貌に相反するニコリともしないその表情が、御影さんの冷静さを余計に際立たせていて、俺は悲しいことに緊張を強いられるハメに陥る。
そういや御影さんの笑っている表情も、バカ笑いに程遠い静かで控えめな表情だったよなあ……。
「用がなければ行くよ。のんびりしてる暇はないだろ? 君も」
「あ、すみません! あの……、えとっ、えと……、す、好きです」
「…………」
特に用事があったわけじゃない。ただ御影さんの傍に行きたい、そして出来れば何か話がしたいと思っただけだ。
だから慌てて発した俺の言葉は、すごくバカ丸出しな物になってしまっていて焦った。
御影さんも絶句しているし……。
「――知ってる。前にも聞いた。だけど……」
「え?」
なんだか意味深にも聞こえる御影さんの返事に、なんだろうと御影さんを見た。だけど御影さんは相変わらず静かな伏し目がちな表情で、言葉以上のことを読み取ることが出来ない。
「いや、何でもない。これ以上のんびりしていたら遅刻する。もう行くぞ」
「あ、……はい。引き止めて、すみませんでした」
俺の挨拶が済むや否や、すぐに御影さんは踵を返して去って行ってしまった。
……片思いって、悲しいなあ。
好きって気持ちはムクムクと嫌になるくらい育っているのに、大好きな御影さんとの距離は一向に縮まる気配すらない。
あ~、もうっ!
グダグダ考えるのは性に合わないんだよ!
……だけど御影さんは、俺にとってはまるで雲の上に居るような人だ。
いくら好意的に応援してくれる人がいたとしても、その雲の上に居るような人が俺のことを好きになってくれる確率はかなり低いだろう。
どうすれば御影さんが俺のことを好きになってくれるのか、何度考えても出てきてくれない答えに、俺はため息を吐いたのだった。
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