上 下
5 / 57
第一章

意外な援護射撃

しおりを挟む
時間が一分一秒でも惜しくて、必死で走って御影さんの教室に着いた。

……あ、いた!
探すまでもなく、御影さんは友達と3人で廊下でおしゃべりをしていた。

やっぱり、どう見ても最強って言葉の似あわない風貌だ。友達としゃべるその表情も、穏やかで静かだ。しかも可憐だし……!

ドキドキしながら御影さんを見ていたら目が合った。
俺と目が合った御影さんは一瞬眉間にしわを寄せたけど、おかげで俺も今の状況を思い出した。

そうだよ、俺は御影さんに俺を知ってもらおうとここに来たんだ。
恥ずかしいだのなんだのと躊躇している暇なんて無い。俺は拳を握り締めて一歩前へと出た。

「み……、御影さん! 俺、1年の松田蒼空って言います! あの、初めまして!」

緊張のあまり、体育会系丸出しの大きな声で自己紹介をしてしまった。
おかげで、他の2年生達の視線を一斉に浴びる事になってしまい冷や汗が出た。


何やってんだ俺、信じらんねー!
御影さんに迷惑かけちゃってるんじゃ……。

恐る恐る顔を上げると、御影さんもそうだけど傍に居る2人も呆気にとられた顔で俺を見ていた。

「あ、あああ、あの、すみません! 大声出しちゃって!」


ぷっ!

……え?

ぷくくくく……っ!

御影さんの傍にいる友達が、可笑しそうに笑いながら御影さんをパシパシ叩いている。

「痛いよ」
「ああ、ごめん。ごめん。……松田君だっけ。何? きみ、御影のこと好きなの?」
「おいっ」
「はい、そうです。だからその……、御影さんに俺のこと知ってもらいたくて!」

俺の気持ちをちゃんと伝えたくてまっすぐ御影さんを見ながら言ったのに、こんな状況は慣れっこなのか御影さんの表情には何の変化も見られなかった。
なんだか試合前に平常心を保ち続ける冷静な人と言った風情だ。

相手にされないだろうことは覚悟していたけど、あまりにも平然とされていてちょっと凹む。
けど、勝手に凹んでいる時間は無い。とにかく気持ちを伝えなければと気合を入れた。


「……実は俺、御影さんのことをちゃんと知ったのは昨日の練習試合を見た時なんです。噂では、その……、聞いたことはあるんですけど」

「強かっただろ、御影」
「はい! すごく強くて感動しました! 迫力が凄くて獰猛で、御影さんスゲーかっこよかったです! 俺、剣道には興味ないはずなのに、気が付いたら手に汗握って前のめりになって見てました!」

……あ。
また興奮して大声を出してしまってた。

頭を掻いてすみませんと呟いて、チラッと御影さんの顔を見ると、さっきまでの冷静な表情とは違いなんだか驚いた表情をしていた。
横にいる友達2人も、さっきまでの少し揶揄うような表情は消えて、少し優しい表情に変わっている。

「松田君、俺、御影の幼馴染で鈴木愁って言うんだ。よろしくな」
「俺は山木光士郎。よろしく」

「え? あ、こちらこそよろしくお願いします!!」

「おい? お前ら、なに自己紹介なんかしてるんだよ」

急に始まった俺らのやり取りには、さすがの御影さんもびっくりしたようだ。
もちろん俺も、びっくりしたけど。

「いいじゃん、別に。俺、松田君気に入ったよ」
「俺も。松田君、御影が嫌がろうがいつでも遊びにおいでね。俺らは歓迎するから」

「あ、はい……。あ、えっと……」

もしも御影さんが迷惑だと思っていたらどうしようと、不安になって御影さんの顔を見た。

「…………」
「あ、あの……」

「俺は、誰とも付き合う気は無い」

「……あ、はい」

やっぱ、そうだよな。
いきなり一目惚れしましたって言われても……。

あー、なんか落ち込んできた。
分かってはいてもやっぱり凹む。

「でも、会いに来る分には良いんだろ?」

鈴木さんが、なんだか意味深に言葉を強調しながら意味深な表情で御影さんに言った。

そんな鈴木さんの表情に、御影さんの表情が揺らぐ。
その揺らいだ表情が何を意味するのかは分からない。だけど御影さんは、すぐにふっと息を吐いて顔を上げた。

「……別に来るなとまでは言ってない」


居心地悪そうに俺に告げる御影さんに、俺の心臓の奥がきゅうーーーーんと甘く疼いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

当たって砕けていたら彼氏ができました

ちとせあき
BL
毎月24日は覚悟の日だ。 学校で少し浮いてる三倉莉緒は王子様のような同級生、寺田紘に恋をしている。 教室で意図せず公開告白をしてしまって以来、欠かさずしている月に1度の告白だが、19回目の告白でやっと心が砕けた。 諦めようとする莉緒に突っかかってくるのはあれ程告白を拒否してきた紘で…。 寺田絋 自分と同じくらいモテる莉緒がムカついたのでちょっかいをかけたら好かれた残念男子 × 三倉莉緒 クールイケメン男子と思われているただの陰キャ そういうシーンはありませんが一応R15にしておきました。 お気に入り登録ありがとうございます。なんだか嬉しいので載せるか迷った紘視点を追加で投稿します。ただ紘は残念な子過ぎるので莉緒視点と印象が変わると思います。ご注意ください。 お気に入り登録100ありがとうございます。お付き合いに浮かれている二人の小話投稿しました。

闇を照らす愛

モカ
BL
いつも満たされていなかった。僕の中身は空っぽだ。 与えられていないから、与えることもできなくて。結局いつまで経っても満たされないまま。 どれほど渇望しても手に入らないから、手に入れることを諦めた。 抜け殻のままでも生きていけてしまう。…こんな意味のない人生は、早く終わらないかなぁ。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

逃げるが勝ち

うりぼう
BL
美形強面×眼鏡地味 ひょんなことがきっかけで知り合った二人。 全力で追いかける強面春日と全力で逃げる地味眼鏡秋吉の攻防。

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

君が好き過ぎてレイプした

眠りん
BL
 ぼくは大柄で力は強いけれど、かなりの小心者です。好きな人に告白なんて絶対出来ません。  放課後の教室で……ぼくの好きな湊也君が一人、席に座って眠っていました。  これはチャンスです。  目隠しをして、体を押え付ければ小柄な湊也君は抵抗出来ません。  どうせ恋人同士になんてなれません。  この先の長い人生、君の隣にいられないのなら、たった一度少しの時間でいい。君とセックスがしたいのです。  それで君への恋心は忘れます。  でも、翌日湊也君がぼくを呼び出しました。犯人がぼくだとバレてしまったのでしょうか?  不安に思いましたが、そんな事はありませんでした。 「犯人が誰か分からないんだ。ねぇ、柚月。しばらく俺と一緒にいて。俺の事守ってよ」  ぼくはガタイが良いだけで弱い人間です。小心者だし、人を守るなんて出来ません。  その時、湊也君が衝撃発言をしました。 「柚月の事……本当はずっと好きだったから」  なんと告白されたのです。  ぼくと湊也君は両思いだったのです。  このままレイプ事件の事はなかった事にしたいと思います。 ※誤字脱字があったらすみません

前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか

Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。 無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して―― 最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。 死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。 生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。 ※軽い性的表現あり 短編から長編に変更しています

処理中です...