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第一章
噂通りの最強の人
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学校の敷地奥に立てられている武道場。
剣道部の練習試合を見るためなのか、それとも噂の"最強美人"を見るためなのか、既に道場の前には大勢の人だかりがあった。
「あ、陽翔だ。陽翔も来てる」
「隣の奴が邪魔だな」
「でも可愛いじゃん」
相変わらずやたらにモテる友人と傍に居ると、様々な余計な声が聞こえてくる。
まったく、由羽人も大変な奴に恋しちゃったよな。
陽翔も友人としては多少気まぐれでも良い奴なんだけど、恋人にするとなると浴びる嫉妬や好奇心は半端ないだろう。
剣道にほとんど興味が無い俺は、大杉先輩はどこだろうとキョロキョロとしていた。
だって、皆が騒ぐ最強美人っていう人も、陽翔と大差ないだろうと思うし俺にとっては何の興味もない存在だ。
「おい、蒼空! 行くぞ」
「え?」
大杉先輩を探している俺の腕を、陽翔がグイと引っ張った。もちろんもう一方の手は由羽人の手に繋がっている。
陽翔は俺の腕を掴んだまま、グイグイと人波を掻き分けて前へと進んでいく。どうせなら、ちゃんと試合を見たいと思っているのだろう。
掻き分けられる方も一瞬ムッとした顔をした後に、相手が陽翔だと知ると、『陽翔なら良いか』という顔に変化するからすごいもんだ。
何とか中の様子が見られるところまで分け入っていくと、既に試合が始まっていたようだった。
剣道のことはよくわからないけれど、その2人の間に、異様な緊張感が漂っていることだけは理解できた。
手に汗握る雰囲気の中で、1人がスッと一歩足を踏み出す。
独特な緊張感の漂う中相手も素早く前に出て、甲高く大きな声を上げて(ヤーだか、ア゛―だかと言っていた)打ち込んでいく。面を狙ったのだろうけれど、素早く察知され阻まれて、今度は互いのツバとツバとが合わさった状態でにらみ合う状況になっていた。
……なんだろう。
剣道なんて興味も無かったのに、俺はいつのまにか拳を握り前のめりになっていた。
そしてすぐに距離を置くように離れた後、1人が鋭く打ち込み始めた。
「すげー、さすが最強って言われるだけのことはあるよな。互角の戦いに見えるけど、明らかに御影先輩が責めてるよな」
陽翔の言葉に『え?』と思って確認すると、ひらひらと動く白崎という名前が見えた。
すごい迫力で相手を責めているあの人が、あの最強美人?
どんな顔してるんだろう。
……あんだけ強いんだ。きっと気の強そうな顔をしているに違いない。
「ヤアァァァーーーー!!!」
つんざくような凄い雄たけびの後、小手と面が決まり勝敗が決まった。
「すげー迫力の雄たけび……」
呆然と呟く俺に、陽翔が「違う違う」と笑いながら手を振った。
「あれは掛け声って言うんだって」
「え? 掛け声?」
「そ。俺もさっき知ったばっかだけど」
「え?」
不思議に思って陽翔の所を見ると、最強美人のファンらしき奴らが、剣道のルールや豆知識を解説していたらしかった。
……美少年好きかよ。
でも、まあ。由羽人にも同じように優しく接してくれているようだから害は無いか。
俺は、あの最強美人の顔を見たくて、防具の面を脱ぐのを今か今かと待っていた。
剣道部の練習試合を見るためなのか、それとも噂の"最強美人"を見るためなのか、既に道場の前には大勢の人だかりがあった。
「あ、陽翔だ。陽翔も来てる」
「隣の奴が邪魔だな」
「でも可愛いじゃん」
相変わらずやたらにモテる友人と傍に居ると、様々な余計な声が聞こえてくる。
まったく、由羽人も大変な奴に恋しちゃったよな。
陽翔も友人としては多少気まぐれでも良い奴なんだけど、恋人にするとなると浴びる嫉妬や好奇心は半端ないだろう。
剣道にほとんど興味が無い俺は、大杉先輩はどこだろうとキョロキョロとしていた。
だって、皆が騒ぐ最強美人っていう人も、陽翔と大差ないだろうと思うし俺にとっては何の興味もない存在だ。
「おい、蒼空! 行くぞ」
「え?」
大杉先輩を探している俺の腕を、陽翔がグイと引っ張った。もちろんもう一方の手は由羽人の手に繋がっている。
陽翔は俺の腕を掴んだまま、グイグイと人波を掻き分けて前へと進んでいく。どうせなら、ちゃんと試合を見たいと思っているのだろう。
掻き分けられる方も一瞬ムッとした顔をした後に、相手が陽翔だと知ると、『陽翔なら良いか』という顔に変化するからすごいもんだ。
何とか中の様子が見られるところまで分け入っていくと、既に試合が始まっていたようだった。
剣道のことはよくわからないけれど、その2人の間に、異様な緊張感が漂っていることだけは理解できた。
手に汗握る雰囲気の中で、1人がスッと一歩足を踏み出す。
独特な緊張感の漂う中相手も素早く前に出て、甲高く大きな声を上げて(ヤーだか、ア゛―だかと言っていた)打ち込んでいく。面を狙ったのだろうけれど、素早く察知され阻まれて、今度は互いのツバとツバとが合わさった状態でにらみ合う状況になっていた。
……なんだろう。
剣道なんて興味も無かったのに、俺はいつのまにか拳を握り前のめりになっていた。
そしてすぐに距離を置くように離れた後、1人が鋭く打ち込み始めた。
「すげー、さすが最強って言われるだけのことはあるよな。互角の戦いに見えるけど、明らかに御影先輩が責めてるよな」
陽翔の言葉に『え?』と思って確認すると、ひらひらと動く白崎という名前が見えた。
すごい迫力で相手を責めているあの人が、あの最強美人?
どんな顔してるんだろう。
……あんだけ強いんだ。きっと気の強そうな顔をしているに違いない。
「ヤアァァァーーーー!!!」
つんざくような凄い雄たけびの後、小手と面が決まり勝敗が決まった。
「すげー迫力の雄たけび……」
呆然と呟く俺に、陽翔が「違う違う」と笑いながら手を振った。
「あれは掛け声って言うんだって」
「え? 掛け声?」
「そ。俺もさっき知ったばっかだけど」
「え?」
不思議に思って陽翔の所を見ると、最強美人のファンらしき奴らが、剣道のルールや豆知識を解説していたらしかった。
……美少年好きかよ。
でも、まあ。由羽人にも同じように優しく接してくれているようだから害は無いか。
俺は、あの最強美人の顔を見たくて、防具の面を脱ぐのを今か今かと待っていた。
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