上 下
2 / 57
第一章

噂通りの最強の人

しおりを挟む
学校の敷地奥に立てられている武道場。
剣道部の練習試合を見るためなのか、それとも噂の"最強美人"を見るためなのか、既に道場の前には大勢の人だかりがあった。

「あ、陽翔だ。陽翔も来てる」
「隣の奴が邪魔だな」
「でも可愛いじゃん」

相変わらずやたらにモテる友人と傍に居ると、様々な余計な声が聞こえてくる。

まったく、由羽人も大変な奴に恋しちゃったよな。
陽翔も友人としては多少気まぐれでも良い奴なんだけど、恋人にするとなると浴びる嫉妬や好奇心は半端ないだろう。


剣道にほとんど興味が無い俺は、大杉先輩はどこだろうとキョロキョロとしていた。
だって、皆が騒ぐっていう人も、陽翔と大差ないだろうと思うし俺にとっては何の興味もない存在だ。

「おい、蒼空! 行くぞ」
「え?」

大杉先輩を探している俺の腕を、陽翔がグイと引っ張った。もちろんもう一方の手は由羽人の手に繋がっている。

陽翔は俺の腕を掴んだまま、グイグイと人波を掻き分けて前へと進んでいく。どうせなら、ちゃんと試合を見たいと思っているのだろう。
掻き分けられる方も一瞬ムッとした顔をした後に、相手が陽翔だと知ると、『陽翔なら良いか』という顔に変化するからすごいもんだ。

何とか中の様子が見られるところまで分け入っていくと、既に試合が始まっていたようだった。
剣道のことはよくわからないけれど、その2人の間に、異様な緊張感が漂っていることだけは理解できた。

手に汗握る雰囲気の中で、1人がスッと一歩足を踏み出す。
独特な緊張感の漂う中相手も素早く前に出て、甲高く大きな声を上げて(ヤーだか、ア゛―だかと言っていた)打ち込んでいく。面を狙ったのだろうけれど、素早く察知され阻まれて、今度は互いのツバとツバとが合わさった状態でにらみ合う状況になっていた。

……なんだろう。
剣道なんて興味も無かったのに、俺はいつのまにか拳を握り前のめりになっていた。

そしてすぐに距離を置くように離れた後、1人が鋭く打ち込み始めた。

「すげー、さすが最強って言われるだけのことはあるよな。互角の戦いに見えるけど、明らかに御影先輩が責めてるよな」

陽翔の言葉に『え?』と思って確認すると、ひらひらと動く白崎という名前が見えた。

すごい迫力で相手を責めているあの人が、最強美人?
どんな顔してるんだろう。
……あんだけ強いんだ。きっと気の強そうな顔をしているに違いない。


「ヤアァァァーーーー!!!」

つんざくような凄い雄たけびの後、小手と面が決まり勝敗が決まった。

「すげー迫力の雄たけび……」

呆然と呟く俺に、陽翔が「違う違う」と笑いながら手を振った。

「あれは掛け声って言うんだって」
「え? 掛け声?」
「そ。俺もさっき知ったばっかだけど」
「え?」

不思議に思って陽翔の所を見ると、最強美人のファンらしき奴らが、剣道のルールや豆知識を解説していたらしかった。
……美少年好きかよ。

でも、まあ。由羽人にも同じように優しく接してくれているようだから害は無いか。


俺は、あの最強美人の顔を見たくて、防具の面を脱ぐのを今か今かと待っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺(紗子)
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

【完結】青春は嘘から始める

きよひ
BL
 4組の高校生カップル誕生までの物語。  光安、桜田、梅木、杏山の4人は教師に聞いた「告白ゲーム」を実行することにした。  それは、罰ゲームで告白するという罰当たりなゲームである。  「冗談でした」で済ませられるよう女子にモテモテの同学年のイケメンたちにそれぞれ告白する。  しかし、なんと全員OKを貰ってしまった!   ※1組ずつ嘘の告白からその後の展開を描いていきます。 ※3組完結、4組目公開中。 ※1組2万字程度の予定。 ※本当に一言二言ですが、どんなキャラクター同士が組み合わさるのかを知りたい方は「登場人物」を確認してください。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

私の事を調べないで!

さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と 桜華の白龍としての姿をもつ 咲夜 バレないように過ごすが 転校生が来てから騒がしくなり みんなが私の事を調べだして… 表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓ https://picrew.me/image_maker/625951

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

紹介なんてされたくありません!

mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。 けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。 断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

処理中です...