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第五章

甘えてくれている

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キュッ。
御影さんが手を握っている俺の手を、もう片方の手で覆った。

ハッとして顔を上げる。
御影さんの表情は、面映ゆいものだった。

「蒼空は……、まるで俺より年上みたいだな」
「え?」

どういう意味だろうと御影さんの顔を見た。
だけど御影さんはそれに触れずに、「そろそろ行こう」と俺を促した。

確かにもう急がないと、本格的に遅刻だ。

「じゃあ、昼はちゃんと来いよ。待ってるからな」
「はい」

頷く俺に御影さんは笑って手を振って、今度こそ自分の教室へと去っていった。


……あれ?
それにしても御影さん、いったん教室に行ったのに何で戻って来たんだろう?
そんなことを考えながら歩いていると、バタバタと廊下を走る人に遭遇した。

ヤバ!
急がなきゃ!

俺も急いで教室へと駆け出した。




「ええー!? 蒼空、御影さんにそんなこと言っちゃったのか?」

俺が今日のアレコレを話すと、陽翔が驚きの声を上げた。

「……だってさ、あのまま御影さんにモヤモヤした気持ちを抱かせたままにしちゃったら、大会も近いのに、良いことなんて何もないだろ」

「そんなの……、蒼空がとことん甘やかせてあげて御影さんの気持ちを上げてあげればいいんじゃないのか?」
「それは御影さんが望んだりしないよ」
「……俺もそう思う」

「え? 由羽人は、俺に甘やかされるのは嫌なのか!?」
「誰もそんなこと言ってない……。てか、陽翔の方が甘えてんじゃないか」
「そうかなー」
「そうだよ」

はいはい。
仲が良いのはいいことだよな。

こんなふうにじゃれあえる2人がなんだかとても羨ましい。

でも……、そう言えば御影さん、俺にキスの催促したりとか、俺に家まで送らせてくれたりして……。
俺に甘えることを許してくれてたよな。


田上先輩と御影さんがどんな話をするのかは分からないけど、俺は俺で御影さんを信じるだけだ。
もう勝手に御影さんの気持ちを邪推して、落ち込んだりするのは止めにしなくちゃ。
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