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第五章

田上先輩の気持ち 2

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「蒼空……? お前、なに言って……」

困惑したような御影さんの顔。

俺だってこんなこと言いたくなんて無かったよ。
だけど御影さんは田上先輩のことを本当に信頼して憧れてもいたんだろう?
もうすぐ県の高校総体も始まるし集中しないといけないんだから、こんなモヤモヤとした気持ちを抱えていては絶対だめだ。

だからちゃんと田上先輩と向き合って、きっちり気持ちを整理してもらいたい。

だって俺、剣道している御影さんもすごく好きだから。

そして御影さん自身が、剣道している自分自身をきっと誇りに思っているだろうから……。


俺は御影さんに近づいて、その手を取りキュッと握った。

「田上先輩、でも俺、御影さんを譲る気だけは無いですからね」

御影さんの手を握ったままに田上先輩の目を見てしっかり宣言しておいた。それに田上先輩は一瞬目を見開いたけど、すぐに自嘲したように苦く笑って見せる。

「成程ね……。御影が選ぶわけだ」
「……え?」

「御影」
「……はい」
「もう時間が無いから、……もしよければ昼休みにでも話を聞いてくれるか? 飯を済ませたらここに来てくれ」
「――分かりました」

御影さんの返事に安堵したように頷いた田上先輩は、俺らに手を振って先に教室へと戻って行った。
その後ろ姿を見ながら、俺は御影さんの手をさらに強く握りしめる。

自信なんてあるわけないのに。
俺と出会うずっと前から御影さんは田上先輩に憧れていた。

あんな種明かしをして、もしも御影さんの気持ちの奥に田上先輩に対して憧れ以上の思いがあってそれに気付いてしまったとしたら……。
俺は後悔してもしきれないバカな真似をしたことになる。



でも、それでも俺は、御影さんを思い悩ます総てのことを、消してしまいたいって思ったんだ。
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